祝! 画業50周年――〈カレ〉と〈カノジョ〉のハートフル・ストーリーは永遠に
80年代に一世風靡したわたせせいぞうの漫画「ハートカクテル」はいまでも根強いファンが多い。色彩感あふれる情景描写、スタイリッシュな主人公たちである〈カレ〉と〈カノジョ〉、短いながらも印象に残るストーリー展開。それらは当時アニメ化され、「たばこ1本のストーリー ハートカクテル」と題し、声優や音楽によってより作品のイメージが広がることにつながり、深夜枠の楽しみのひとつになっていた。
それから長い月日が流れた2024年、わたせせいぞうは画業50周年を迎え、自身の半生を振り返った初の自伝が「ボクのハートフルライフ 色彩の旅人の軌跡」(立東舎)。わたせせいぞうという一作家がどのような過程で漫画の世界へ入っていったか、そして代表作の「ハートカクテル」が誕生するに至ったかを知る興味津々な内容だ。巻末には自選による8編のエピソードが掲載されているのもうれしい。
あわせて2作の作品「チョーク色のピープル」(玄光社)、「ハートカクテル カラフル」(小学館クリエイティブ)も紹介。前者は1986年に角川書店の文芸誌「野生時代」に連載された作品で、白亜の煉瓦造りのアパートメントを舞台に描かれた「汐風になく建物」から「チョーク色の恋」までの新作1編を含む12編の恋物語の復刊。後者はNHKアニメのために描き下ろされた「ハートカクテル」シリーズ最新作だ。紙媒体では未発表だった作品を、映像化の際にカットされた場面やセリフを含む完全版として書籍化。タイトルの〈カラフル〉は単に色彩をあらわしているというだけではなく、多様性という意味を含んだものになっている。わたせせいぞうらしい恋愛ストーリーを多様性、福祉の観点から描いてほしい、という依頼に作者が応えたもので、美しい四季の風景とともに過ぎてゆく計15編のストーリーが描かれている。なおNHKアニメでの声優は亀梨和也、満島ひかり、そして初代「ハートカクテル」でお馴染みの奥田民義が担当した。