〈つまんないと思われることより怖いことなんてこの世にない〉 そんな信念を持つ脚本家志望の男の人生
〈自分には才能があるから誠実じゃなくても許されるはず〉なんて考えてそうな男、遊星が主人公。そろそろ30の声が聞こえて来た売れない芸人。文筆の才能を持ち、高校時代に演劇のオリジナル脚本を手掛け文化祭のクラス演劇で優勝した経験を持つ。卒業後、高校の同級生、松島に誘われてお笑いトリオの一員となった。が、なかなかブレイクできない。脚本の才能を買われ、怪談系人気YouTuberの台本執筆でブレイクの兆しが見えてきたように思えたが、様々なトラブルが発生。YouTubeの仕事でなくTVドラマの脚本執筆に活路を見出そうとして行く。物語は現代と過去を行き来しながら進行する。


基本的にこの男、遊星は人を楽しませようという気持ちがないし、人の気持ちがわからない男で、自分には文才があるというある種の〈選民思想〉から来る傲慢さを持っており、ふてぶてしさがつい態度に出てしまう。当然他人からは好かれず、不協和音を奏でてしまう始末。遊星の姿に学生時代の自分がまさにそうだった、という人がいるかも知れない。あるいはかつて周囲にいた学生時代にしては特別な才能(見た目・音楽・絵・SNS巧者など)を持った人が時折見せてしまう〈才能があるのだから傲慢な振る舞いは許されて当然〉みたいな人と出会ったことを想い出させるような群集劇が展開する。他人と衝突してしまう遊星に、なんでそんなにも言葉足らずなの?なんて思わされつつ、そんな遊星のことが嫌いになれない、憎めない自分にも気づかされてしまう。
しかし〈キャラクターの嫌なやつ〉演出で、こんなにも夢中にさせられてしまうのは、この作品の脚本が非常に優れているからだ。今後、遊星が改心して、エンタメの世界で成功する未来を描こうとしているとは、現時点では想像できない。しかし〈人を笑わせたいが自分が笑われることを許せない〉と、屈折しているんだけど、そのまま自分を曲げずに良い脚本を書き、そのドラマが大ヒットを記録する、なんて展開が待っているのかも知れない。遊星の高校時代の同級生、真中はTV局のプロデューサーとなっているが、学生時代の遊星を毛嫌いしていた。が、真中との再会が様々な扉を開いて行く。
人生は一度きりだ。リセットボタンはない。現代の若者たちが就職しないで生きて行くために、お笑い芸人、動画配信、TV業界、エンタメの世界で活躍するクリエイターを目指していく。ここに登場する癖のある人物たちの愛憎劇を最後まで見届けたいと強く思わせる、そんな特別な作品だ。