思春期をこじらせたすべての人々に捧げたい作家による自伝的作品と罪の原風景を収めた短編集
十代で人間はほぼ完成するのではないかと、つくづく感じる。危うい思春期をこじらせたすべての人々に捧げたい作家が押見修造だ。
「クソムシが」の名セリフ(仲村佐和!)で知られる伝説的名作「惡の華」、SF作品「漂流ネットカフェ」、毒親と息子の物語「血の轍」、冴えない大学生と美形女子高生の中身が入れ替わる「ぼくは麻里のなか」等が代表作で、熱狂的なファンを持つ。
繰り返し描かれる思春期。子供から大人へ。性のめざめ。大人や教師が絶対的な存在でなくなる。反抗心が芽生える。突発的衝動。大人はクソで汚い存在、ダサい大人が嫌。そんなのに絶対なりたくないと考え、自分を特別視する。芸術にハマる。気になる異性ができるがモテない自分に葛藤する。嘘に敏感になり、非行に走る。私はこんな思春期を過ごした人間だった。で、そんな思春期を深く自らをえぐるように、美しい絵で描く作家が押見修造だ。


「瞬きの音」は自ら自伝的作品と語るように、主人公は大学生時代の押見。作品に初めて実弟が登場する。兄は弟を〈きみ〉と呼び、弟は兄を〈兄〉と呼ぶ。奇妙な兄弟関係。6歳離れた弟は脳腫瘍により15歳の身体のまま成長が止まる。一方、泥沼の15歳を抜け出し漫画家となった兄は弟と向きあえない自身を見つめ直す。漫画家になれて結婚もした自分はきみを身代わりにしたからと語る。本来15歳で死ぬべきだったのは自分でそこから逃れるためにきみを犠牲にして抜け出したと。本作を描くのはきみを見捨てたことをザンゲして許されたいのだろうかと自問する。そうではない、ような気がする、と一転、心の奥底から弟との会話を試み物語は続く。

デジタル作画でなく手描きによるタッチ、圧倒的な絵の美しさ。漫画家の皮を被った現代芸術家と言いたい。まるで当時の姿を客観視したような目線、会話シーンの描写に寒気がするほど感動した。これぞ究極の私小説&漫画表現だとも。「罪悪」は自身の〈罪の原風景〉を描いた回想録4篇を収録した短編集で、幼き日の悔恨や足にまつわる美しくも物悲しい話、高校時代の美術部の話と壁にまつわる話となっている。読み応えある名品ばかりだ。
作家には〈この作品を描くまで死ねない〉というものがあるように思う。そんな空気感がありありと漂っているように2作品から感じられた。ファンとしては本作をリアルタイムで読み完結を見届けて、さらにこの先には、〈破壊なくして前進なし〉なNEW押見修造ワールドをもっと読ませていただきたいと、切に願っている。