
世代と時空を超えるジャズ
――“NEW POWER”で一つ気になったのが、スペシャルサンクスに峰厚介さんと林栄一さんの名前があるところです。
石若「“NEW POWER”の録音がある程度終わった時に、たまたま鹿児島で峰さんと林さんと金沢(英明)さんと僕でカルテットの仕事があったんです。〈これはチャンスだ!〉と思って、サウンドチェックの時に峰さんに〈F7で何かフレーズを吹いてください〉って言ってボイスメモで録らせてもらいました。で、〈実はこういうことがあって、こういうことに使いたくて〉とお願いをして。世代の違うプレイヤーによる表現っていうのを、どういう形でもいいから入れたかったんですよね」
――じゃあ本当にその時の音が使われてるんですね。
MELRAW「真ん中あたりの、(井上)銘のソロの前に入ってます」
石若「〈レコーディングしますのでゲストで来てください〉っていう形じゃないことがしたかったんです。これは何から着想を得てるかというと、エスペランサ・スポルディングの『SONGWRIGHTS APOTHECARY LAB』の中に、ウェイン・ショーターのサックスが入ってるんですよ。それも電話越しに吹いたみたいな音で。それがすごくかっこいいなと思って。
聴いた人は〈何だこれは?〉って思うだろうけど、クレジットを見たり峰さんと林さんの背景に気づいたりした時に〈そういうことか〉って思う要素として入れたかったんです。ロバート・グラスパーの『Double Booked』にテレンス・ブランチャードの電話越しのしゃべりが入ってるのも似てるけど。
あとは、全然時系列の違う、何も意図してないところから持ってきた素材のコラージュっていうのも僕は好きで。 その曲に対して吹いたわけじゃないことが、そこに当てはまるみたいな」
MELRAW「サンプリングだね」
石若「そうだね。そういう時空を超えちゃってる不思議さみたいなものも楽しみたかった。シカゴとかUKのジャズミュージシャンも今そういう手法で作っているし、色んな音楽の作り方があるなと最近の作品を聴いてて思います」
石若駿の一番の相談役MELRAWとの共同作業
――今回、MELRAWさんを共同プロデューサーに選んだ理由を教えてください。これって前作もでしたっけ?
MELRAW「前回も同じような動きはしていたけど、クレジットはされてなかったですね。だから自分も、この作品の取材がはじまってから〈共同プロデューサー〉って突然みんなに言われて、〈そうなんだ〉っていうぐらいの感覚です(笑)」
石若「やっぱり一番の相談役はMELRAWですね。僕はミックスやマスタリングの時に、結構〈これ、どうやったら理想の音になるだろう〉とか〈これでいいのかな?〉ってスタジオで悩んでしまうんです。そうなった時に彼は、電話したらすぐに来てくれる(笑)」
MELRAW「そんな常に暇な人みたいな言い方やめてよ(笑)」
石若「僕が伝え切れないぼんやりしたイメージを具体的に言語化してくれて、エンジニアさんに伝えることのできる人なんです」
MELRAW「僕から補足すると、アンリメはジャズミュージシャンが軸のプロジェクトだから、やっぱりプレイヤー然とした人のほうが多いんですね。プレイヤーとして素晴らしいテイクを残すことに重きがあるというか。
その中で僕は、自分でトラックメイクもするし、もうちょっとプロダクション寄りというか、〈制作物としてどうか?〉という目線は人より強めかなと思っていて。なので演奏して終わりじゃなくて、その後も関わりたいなっていう、僕のお節介から今回のプロデュースは始まってますね。〈ただのジャズアルバムにしないようにするにはどういう音像にしたほうがいいか?〉とか、〈ここを際立たせるためにどうしたらいいか?〉とかを、一緒に考えてました」
――石若さんの中で、ここはMELRAWさんがいて良かったなっていう具体的なポイントってあったりしますか?
石若「例えばPro Toolsを使って録音するわけですけど、プラグインとかの知識が僕にはあんまり無いんです。そこにMELRAW、つまりプラグインとかポストプロダクションのことが分かる人がいたおかげで理解できるようになったことがたくさんありました。
具体的に曲でいうと、“KWBR Kuwabara”とか。この曲の中にはエフェクティブな要素が結構たくさんあるんですけど、〈このセクションとこのセクションの間にこういう音があったらいいな〉っていう時に、僕が擬音語や擬態語でしか表現できないところを全部言語化して伝えてくれるみたいな」
――相談役というか通訳というか。
石若「そうですね。アルバムの曲順を決める時にもすごくアイデアを出してもらったり、そういう部分でもこの作品を作るうえで一番近くにいてくれた人ですね」