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コラム

エスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)はどこへ行く? 〈癒し〉の新作『Songwrights Apothecary Lab』に聴くジャズ衝動と創造性

Photo by Samuel Prather

これまでにグラミー賞で4つの賞を受けるなど、現代のジャズシーンを代表する実力と魅力を持ったベーシスト/ボーカリストのエスペランサ・スポルディング。彼女が、2年ぶりの新作『Songwrights Apothecary Lab』をリリースした。

本作は、癒しのための音楽実験の場〈ソングライツ・アポセカリー・ラボ(Songwrights Apothecary Lab)〉での実践から生まれている。音楽療法、神経科学、黒人音楽、イスラム神秘主義、南インドのカーナティック音楽など、さまざまな分野の専門家とのコラボレーションで作られたこのヒーリング・アルバムは、パンデミックと分断の時代に特別な意味を持って響くだろう。

この記事では、音楽評論家の佐藤英輔に、彼女の歩みを振り返りつつ、本作の魅力とエスペランサの特異な才能について綴ってもらった。 *Mikiki編集部

ESPERANZA SPALDING 『Songwrights Apothecary Lab』 Concord/ユニバーサル(2021)

 

デビュー、そして〈ジャズを超えた〉表現でグラミー受賞

エスペランサは、どこに行く?

15年前にスペインのレーベルから、清新なジャズベース奏者であることをまずアピールするデビュー作『Junjo』(2006年)を出し、2008年には米国のヘッズ・アップと契約。そして、『Esperanza』(2008年)をリリースする。そこでの天女のように舞うボーカルを大きな武器とし、ブラジル音楽ほかの機微も介する豊穣なジャズ・ビヨンド表現で、彼女は一気に注目の存在となっていく。

2006年作『Junjo』収録曲“The Peacocks”

弦楽器音群を洒脱に組み込んだ、その名も『Chamber Music Society』(2010年)。そして一転して管楽器音を多用し、自らのアフリカンとしての自負に焦点を当てつつファミリアなビートミュージックを紡ごうとした『Radio Music Society』(2012年)。同作は、グラミーの最優秀ジャズボーカルアルバム賞を受けた。

2012年作『Radio Music Society』収録曲“Black Gold”

 

大変身を遂げ、尖った作風で我が道を行く

だが、その後エスペランサは新たな大変身を遂げる。新キャラクターを立てて(彼女は看板のアフロヘアをやめ、眼鏡をかけた別人格を作った)シアトリカルな動的ビートミュージックに望んだ『Emily’s D+Evolution』(2016年)、さらには『12 Little Spells』(2018年)。ともに、マシュー・スティーヴンスの敏感なギター音も介するどこかロック的でもあるのに、どのジャンルにも依ることを拒否するような尖った作風はまさしく我が道を行くものだった。

2016年作『Emily’s D+Evolution』収録曲“One”

2018年作『12 Little Spells』収録曲“Lest We Forget”

その後、COVID-19 パンデミックがおこり、世の音楽のあり方、担い手の音楽観は大きく変わることとなる。彼女に関して言えば、コロナ禍にあるジャズ音楽家を支援するために、2020年のロックダウン期に5曲入りのEP『Live At The Village Vanguard』をBandcampを通して発表。それは2018年に熟達ピアニストのフレッド・ハーシュとデュオでやった実演をソースとするもので、彼女のリアルなジャズシンガーとしての姿を伝えるものだった。

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