35年ぶりのバラードベストから浮かび上がる〈作詞家〉としての小泉今日子

1982年のデビュー以来、常に時代の一歩先を行く感性と類まれなる自己プロデュース力で、エンターテインメントのど真ん中から革命を起こし続けてきたスーパーアイドル、小泉今日子。俳優としても唯一無二の存在であり、エッセイや書評などの文筆業でも高く評価されているほか、制作会社〈明後日〉の代表として、近年は舞台や音楽イベントなどのプロデュース業でも手腕を発揮している。

そんな多才すぎるキョンキョンが、実に35年ぶりとなるバラードベスト『Ballad Classics III』を2024年9月25日(水)にリリースする。90年代以降の楽曲の中から珠玉のバラードが厳選された、〈Ballad Classics〉シリーズ第3弾だ。

小泉今日子 『Ballad Classics III』 ビクター(2024)


その曲目を見てまず気づかされるのは、キョンキョン自身が作詞を担った楽曲がラインナップの半数以上を占めている点だろう。自身出演のドラマ「愛するということ」の主題歌として大ヒットを記録した“優しい雨”(1993年)、新進気鋭のミュージシャンやクリエイターと組み、次々と画期的な作品を発表し始めた時期のアルバム『No.17』(1990年/プロデュースは藤原ヒロシ、屋敷豪太、ASA-CHANGが担当)からシングルカットされた和製ラヴァーズロックの傑作“La La La...”、そしてファンにはお馴染みのロシアンブルーの愛猫〈小雨〉の視点で綴られた“小雨の記”(2012年)など、特徴的な甘い歌声を生かすような叙情的な詞の世界を紡ぐ作詞家としての顔を、本作は改めて浮き彫りにしていく。

そんな作詞からスタートしたキョンキョンの〈物書き〉としての歩みとその魅力に、ここでは注目したい。

 

〈日本レコード大賞〉作詞賞受賞の快挙

1983年春、突然髪を短く刈り上げて清純派アイドル路線から脱却した5枚目のシングル“まっ赤な女の子”より担当となったディレクター・田村充義が、読書好きのキョンキョンに可能性を感じ、作詞を提案したのがそもそもの始まりだった。1985年のアルバム『Flapper』に収録された“Someday”で初めて詞を書くが、当初は〈美夏夜〉というペンネームを使用していた。やがて職業作詞家の手を離れ、90年代以降はシングル表題曲でも自ら作詞を手掛けるようになる。そして1991年、田村正和と共演したドラマ「パパとなっちゃん」の主題歌となった“あなたに会えてよかった”で、〈第33回日本レコード大賞〉の作詞賞を受賞、現役アイドルが同賞を獲得するのは史上初の快挙だった。

 

自伝的エッセイが大ベストセラーに

その後、20代後半になると軸足を俳優業へと移し、多くのドラマや映画、舞台で活躍する傍ら、文筆業も本格化。1994年から1997年まで雑誌「an・an」で連載した自伝的エッセイ「パンダのan・an」は、のちに書籍化されると大ベストセラーに。また、ファッション誌「InRed」での連載を単行本化した「小泉今日子の半径100m」では、30代となったキョンキョンが一人の女性として、表現者として煩悶しながら歩んだ日々が綴られている。特に、加齢に関しての記述では、〈シワは商売道具〉と言い切った名バイプレイヤーにして名エッセイスト・沢村貞子を敬愛するキョンキョンらしい考え方に、思わず前のめりで頷いてしまう。

いずれのエッセイも、偽らない、背伸びをしない、そしてユーモアを忘れない語り口が、紛れもないスーパーアイドルを地元のお姐さんのような身近な存在へと変えてしまうのだ。
 

新聞の書評を10年にわたって担当

そして、キョンキョンが公私ともに恩師と慕う、テレビドラマの名演出家・久世光彦を介して、2005年には読売新聞の書評欄の読書委員に就任する。その斬新さで天地を揺るがした17枚目のシングル“なんてったってアイドル”(1985年)の作詞家・秋元康からかつて貰ったという井上ひさしの「十二人の手紙」や、名作ドラマ「すいか」「あまちゃん」などでの共演も印象深い片桐はいりの「わたしのマトカ」、2023年に自身の手で舞台化した大島真寿美の「ピエタ」など、10年間にわたって手掛けてきた書評は、「小泉今日子書評集」として書籍化されている。〈書評〉というと少々堅苦しい響きがあるが、キョンキョンのそれは、個人的な経験や心情を吐露しながら紹介する独特のスタイルだ。その文章から柔らかく立ちのぼってくるイメージが、本への興味を無性に掻き立ててくれるから凄い。

小泉今日子 『小泉今日子書評集』 中央公論新社(2015)

 

円熟の域に達したキョンキョンの名エッセイ

2016年にはカルチャー誌「SWITCH」での連載を書籍化した「黄色いマンション 黒い猫」を刊行し、〈第33回講談社エッセイ賞〉を受賞。同書では、アイドル時代に住んでいたという〈原宿〉にまつわるエピソードの数々が綴られている。中学2年生のときの一家離散、アイドル時代の日常、ボーイフレンドとの思い出、「あまちゃん」で母娘役を演じたのん(当時・能年玲奈)と歩いた表参道、そして、大切な家族と相棒・小雨との別れ――。よりシンプルに研ぎ澄まされた美しく端正な文章に、円熟の域に達したキョンキョンの慈愛に満ちた眼差しが浮かび上がる。

小泉今日子 『黄色いマンション 黒い猫』 新潮社(2016)

その他にも、2017年にはYOU、吉本ばなな、樹木希林、浅田美代子、上野千鶴子、美輪明宏、芳村真理、渡辺えり、伊藤蘭などキョンキョンが憧れる、また会いたいゲストを迎えた、大人の生き方を考える放談集「小泉放談」を刊行。当時51歳のキョンキョンが、そのさらに先を歩く人生の先輩達から贈られる含蓄に満ちた言葉の数々は、年齢を重ねる中で心や体の問題に直面し、時に老いや孤独に恐れを抱いてしまう私達にとっても、心強い味方であり、道標になってくれる。
 

2年後、還暦のキョンキョンに期待

歌手、俳優業に比べると語られる機会がそれほど多くはない文筆業だが、キョンキョンが紡ぐ言葉には、さまざまなフィールドで常に新鮮な感動を生み出し続ける稀代の表現者・小泉今日子を小泉今日子たらしめる、その人間的魅力が溢れている。だからこそ、物書きとしてのキョンキョンこそ、実は一番奥が深い気がしてならないのだ。

ちなみに〈小泉今日子の半径100m〉の連載最終回では、40歳となったキョンキョンが〈こうなったら60才の誕生日に盛大な還暦パーティーでもしますわ。あと20年かぁ。この先の人生、どんなことが起こるんだろうね〉と書き記している。まさかその後、アイドルをめざす娘を持つ、元アイドル志望の母親役を演じて社会現象を巻き起こし、劇中歌“潮騒のメモリー”で25年ぶりに「NHK紅白歌合戦」にまで出場してしまう日が来るなんて、キョンキョン自身、全く夢にも思わなかったに違いない。

そんなキョンキョンが還暦を迎えるのは2年後。一体どんな展開が待っているのか、今から楽しみでならない。

 

 


RELEASE INFORMATION

小泉今日子 『Ballad Classics III』 ビクター(2024)

リリース日:2024年9月25日(水)

■CD
品番:VICL-65992
価格:3,500円(税込)
仕様:CD1枚/Goh Hotodaによるリマスタリング盤(デジパック仕様)

■LP
品番:VIJL-60345
価格:5,500円(税込)
仕様:LPレコード2枚組/小鐵徹によるカッティング盤アナログレコード(重量盤2枚組:生産限定盤)

TRACKLIST
1. 小雨の記(詞:小泉今日子 曲・編曲:梅林太郎)
2. きのみ(詞・曲:永積タカシ 編曲:編曲:Nathalie Wise/ミト)
3. 最後のKiss(詞:小泉今日子 曲・編曲:EBBY)
4. 優しい雨(詞:小泉今日子 曲:鈴木祥子 編曲:白井良明 コーラスアレンジ:鈴木祥子 ストリングスアレンジ:武川雅寛)
5. あなたがいた季節(詞:小泉今日子 曲:鈴木祥子 編曲:白井良明/鈴木祥子)
6. ガラスの瓶(詞:小泉今日子 曲:筒美京平 編曲:宮崎泉/福原まり ストリングスアレンジ:服部隆之)
7. やつらの足音のバラード(詞:園山俊二 曲:かまやつひろし 編曲:藤原浩)
8. 僕の部屋の窓(詞:小泉今日子 曲・編曲:菅野よう子)
9. La La La...(詞:小泉今日子 曲・編曲:藤原ヒロシ/屋敷豪太)
10. いつか きっと(詞:小泉今日子 曲・編曲:藤原ヒロシ/屋敷豪太)
11. サヨナララ(詞:ナガオクミ 曲:ラヴスター・ゴーゴー 編曲:森俊之)
12. 未来の僕から(詞:小泉今日子 曲・編曲:キハラ龍太郎)
13. 虹が消えるまで(詞:高崎卓馬 曲・編曲:斉藤和義)
14. Bye Bye(詞:Elvis Woodstock 曲:上田禎 編曲:東里起/上田禎)
15. また逢いましょう(詞・曲・編曲:曽我部恵一)
16. サーチライト(詞・曲:銀色夏生 編曲:土屋昌巳)

 

小泉今日子 『Ballad Classics II』 ビクター(2024)

リリース日:2024年9月25日(水)

■CD
品番:VICL-65991
価格:3,500円(税込)
仕様:CD1枚/Goh Hotodaによるリマスタリング盤(デジパック仕様)

■LP
品番:VIJL-60343
価格:5,500円(税込)
仕様:LPレコード2枚組/小鐵徹によるカッティング盤アナログレコード(重量盤2枚組:生産限定盤)

TRACKLIST
1. Kiss(作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:戸田誠司)
2. 涙のMyロンリーBoy(作詞:高見沢俊彦・高橋研 作曲:高見沢俊彦 編曲:ウニタ・ミニマ)
3. 遅い夏(作詞:銀色夏生 作曲:藤井尚之 編曲:ヤン富田)
4. この涙の谷間(作詞:銀色夏生 作曲:関口和之 編曲:ヤン富田)
5. 今をいじめて泣かないで(作詞:銀色夏生 作曲:筒美京平 編曲:東京スカパラダイスオーケストラ)
6. Moon Light(作詞:サンプラザ中野 作曲:久保田利伸 編曲:ヤン富田)
7. 片想い(作詞:麻生圭子 作曲:山川恵津子 編曲:戸田誠司)
8. 艶姿ナミダ娘(作詞:康珍化 作曲:馬飼野康二 編曲:東京スカパラダイスオーケストラ)
9. 青い夜の今ここで(作詞:銀色夏生 作曲:大沢誉志幸 編曲:戸田誠司)
10. 今年最後のシャーベット(作詞:川村真澄 作曲:上田知華 編曲:ウニタ・ミニマ)
11. Flower(作詞:康珍化 作曲:林哲司 編曲:トマトス)
12. バナナムーンで会いましょう(作詞:康珍化 作曲:筒美京平 編曲:ヤン富田)

 

小泉今日子 『Ballad Classics』 ビクター(2024)

リリース日:2024年9月25日(水)

■CD
品番:VICL-65990
価格:3,500円(税込)
仕様:CD1枚/Goh Hotodaによるリマスタリング盤(デジパック仕様)

■LP
品番:VIJL-60341
価格:5,500円(税込)
仕様:LPレコード2枚組/小鐵徹によるカッティング盤アナログレコード(重量盤2枚組:生産限定盤)

TRACKLIST
1. Flapper(作詞:康珍化 作曲:MAYUMI 編曲:鷺巣詩郎)
2. 哀愁ボーイ(作詞:銀色夏生 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀)
3. 木枯しに抱かれて(Another Version)(作詞・作曲:高見沢俊彦 編曲:井上鑑)
4. 涙のセンターライン(作詞:秋元康 作曲・編曲:佐久間正英)
5. 魔女(作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:中村哲)
6. Smile Again(作詞:川村真澄 作曲:井上ヨシマサ 編曲:土屋昌巳)
7. 風のファルセット(Another Version)(作詞:康珍化 作曲・編曲:都倉俊一)
8. 胸いっぱいのYesterday(作詞:戸沢暢美 作曲・編曲:林哲司)
9. Today’s Girl(作詞:秋元康 作曲:松尾一彦 編曲:井上鑑)
10. 夜明けのMEW(作詞:秋元康 作曲:筒美京平 編曲:武部聡志)
11. ヨコハマ・スイート・レイン(作詞:康珍化 作曲:筒美京平 編曲:若草恵)
12. One Moon(Whisper Version)(作詞:川村真澄 作曲:林哲司 編曲:朝川朋之)
13. 二人(Another Version)(作詞・作曲:飯島真理 編曲:米光亮)
14. The Stardust Memory(Slow Version)(作詞:高見沢俊彦・高橋研 作曲:高見沢俊彦 編曲:米光亮)

 

LIVE INFORMATION
KYOKO KOIZUMI TOUR 2024 BALLAD CLASSICS
2024年10月26日(土)神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場ホール
2024年10月27日(日)神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場ホール
2024年10月30日(水)新潟・りゅーとぴあ・劇場
2024年11月2日(土)東京・THEATER MILANO-Za
2024年11月3日(日)東京・THEATER MILANO-Za
2024年11月4日(月・祝)東京・THEATER MILANO-Za
2024年11月6日(水)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2024年11月7日(木)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2024年11月11日(月)広島・JMS アステールプラザ大ホール
2024年11月12日(火)岡山・岡山芸術創造劇場ハレノワ中劇場
2024年11月22日(金)宮崎・都城市総合文化ホール 大ホール
2024年11月24日(日)鹿児島・宝山ホール
2024年11月27日(水)北海道・札幌市教育文化会館(大ホール)
2024年12月1日(日)福島・いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場
2024年12月6日(金)香川・サンポートホール高松・大ホール
2024年12月7日(土)福岡・キャナルシティ劇場
2024年12月8日(日)福岡・キャナルシティ劇場
2024年12月12日(木)京都・ロームシアター京都メインホール
2024年12月17日(火)石川・金沢市文化ホール
2024年12月19日(木)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
2024年12月21日(土)山形・シェルターなんようホール

チケット料金:全席指定12,000円(税込)
※5歳以上はチケットが必要になります(5歳未満入場不可)

■メンバー
Vocal:小泉今日子
Bass & Band Master:上田ケンジ
Guitar:松岡モトキ
Drums & Percussion:松原“マツキチ”寛
Keyboard:渡辺シュンスケ
Keyboard:sugarbeans(香川、福岡、愛知公演のみ)
Violin:向島ゆり子
Horn:YOKAN
Chorus:稲泉りん
Chorus:ヤマグチヒロコ(神奈川、東京公演のみ)

特設サイト:https://www.jvcmusic.co.jp/kyon2/

 

TV INFORMATION
プレミアムドラマ「団地のふたり」

2024年9月1日(日)スタート
NHK BSプレミアム4K/NHK BS 毎週日曜22:00~22:49
原作:藤野千夜
脚本:吉田紀子
音楽:澤田かおり
出演:小泉今日子/小林聡美/丘みつ子/由紀さおり/名取裕子/杉本哲太/塚本高史/ベンガル/橋爪功
制作統括:八木康夫(テレパック)/勝田夏子(NHK)
演出:松本佳奈/金澤友也(テレパック)

番組ページ:https://www.nhk.jp/p/ts/GZN1ZGJ52M/

 


PROFILE:小泉今日子
1982年、歌手デビュー。“木枯しに抱かれて”“あなたに会えてよかった”“優しい雨”などの楽曲を発表。俳優として映画や舞台に多数出演し、執筆家としても活躍。2015年より株式会社明後日を立ち上げ、舞台・映像・音楽・出版など、ジャンルを問わず様々なエンターテインメント作品をプロデュース。2021年には上田ケンジと共に音楽ユニット、黒猫同盟を結成。音楽を通じて猫の保護活動を応援。2022年にデビュー40周年を迎えた。
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