ナズ（Nas）はやはりラップ神だった。名盤『Illmatic』30周年来日ライブを最速レポート

ただし、昔の曲を懐かしむだけのセットリストではなく、2023年の“Fever”に1994年の“Represent”をつなげる音でのタイムワープこそが醍醐味。“Spicy”のあとに、ダンスホールレゲエのレジェンド、スーパー・キャット“Dance Inna New York”からのサンプルが映える“The Don”のくだりもしびれた。レゲエタウンの横浜ではナズの曲と同じくらいプレイされ続けているスーパー・キャットの声が、しっくりはまったのだ。

“The World Is Yours”もフックから大合唱、「その気になれば何にでもなれるんだ」とラップする“I Can”につなげる。“I Can”は、背景にミュージックビデオをそのまま流した。そこに映る30歳のナズと、51歳になったばかりの生身のナズがほとんど変わっていないあたりも魔法だった。ベースボールシャツに赤い短パン、白いハットとスニーカーという軽やかながら隙がない装いも、いちいちカッコよくてずるいレベル。

会場で売られていた『Illmatic』の30周年記念盤など、アルバムを手にしているファンに気がつき、「ちょっとサインしようか」とサインを始めたらちょっとで終わらなくなっていたのも微笑ましかった。曲間のMCは少なめの人なので、「俺もレコードの音が一番、好き」と隣の人に話しかける調子で話していた場面はじつは貴重だった。“40 Side”、“Rare”、そして前述の“30”と『King’s Disease』の曲を続けて聴くと、フローが完全に変わっており、彼があくまでも進化し続けるラッパーであるのをあらためて思い知った。

大団円は代表曲。ニューヨークの摩天楼を背負っての“Made You Look”の切れ味も凄まじかった。じつは、9月14日の誕生日を日本で祝うために前乗りも考えていたそう。「日本は大好き。引っ越そうかな」とのジョークも半分本気だったかもしれない。ラストはソウルフルな“If I Ruled the World”から、“One Mic”へ。「俺に必要なのは1本のマイク、ひとつのビート、ひとつのステージだけ」との歌い出しの説得力と言ったら。警察の黒人男性への暴力にも言及した曲でもある。背景に浮かび上がったマイクを握る手が、〈レイズドフィスト（突き上げた拳）〉と呼ばれる、公民権運動からブラック・ライブズ・マターまで使われている象徴的な形になっていたのはそのためだ。肩の力を抜いたまま、しかし極上のラップと強いメッセージを同時に届けるナズは、やはりラップ神のひとりであった。

SETLIST
1. Get Down
2. The Message
3. It Ain’t Hard To Tell
4. Got Ur Self A Gun
5. Fever
6. Represent
7. Nas Is Like
8. Hate Me Now (feat. Diddy)
9. Stillmatic (The Intro)
10. Street Dreams
11. N.Y. State of Mind
12. Spicy (feat. Fivio Foreign & A$AP Ferg)
13. The Don
14. 40-16 Building
15. I’m On Fire
16. The World Is Yours
17. I Can
18. Life’s A Bitch (feat. AZ & Olu Dare)
19. Japanese Soul Bar
20. Memory Lane (Sittin’ In Da Park)
21. Mobb Deep / Eye For A Eye (Your Beef Is Mines) [feat. Nas & Raekwon]
22. 40 Side
23. Rare
24. 30
25. Made You Look
26. If I Ruled The World (Imagine That) [feat. Lauryn Hill]
27. One Mic
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