春、CD再生委員会の春。今回は100円CDの深淵を覗き続ける男、デラさんへのインタビューをお届けします。
歌謡曲、声優、企業ノベルティ、謎の自主制作盤……サブスク化されることもなく、リサイクルショップの100円コーナーで眠る、前世紀の忘れ形見のような中古CDたち。そんなCDを大量に買い占め、独自の高速ハウスミックスでスピンするベテランDJ、それがデラさんです。
XへのポストをまとめたZINE「100円CDガイドブック①」も評判を呼ぶ中、この謎多きDJの素顔を探るべく、関東某所のデラ邸宅へ突入。部屋という部屋はもちろん、廊下から階段まで、空間を埋め尽くすCD・CD・CDの山に圧倒される委員会。「いや~、わざわざ家までどーもどーも」。マニア・おたくにありがちな無愛想さ、刺々しさとは全く無縁のデラさんの笑顔は、反射するディスクのように、キラキラと輝いていた……。

幽白ニュージャックスウィング
――凄い部屋ですね……この『ライオン、ドラゴン&ビースト』っていうのは何ですか? 字面だけアース・ウィンド&ファイアーみたいですけど。
「何なんでしょうね、多分、キリスト教関係のCDだと思うんですけど。12曲目がすごい良かった。マイアミ・サウンド・マシーンみたいな曲が入ってて、DJでも使えそうですよ」
――曲名がすごい。“アンチ・キリストが現われる”“666”“もう、戦争は無い”“天の都、新しいエルサレム”……。コード譜も付いてる。こっちにあるのは「新世紀エヴァンゲリオン」のアスカ役で有名な宮村優子の短冊(8cm)シングルですけど、声優さんのCDもかなり買ってるんですね。
「そうですね。エヴァ繋がりで言うと以前、林原めぐみ(綾波レイ役の声優)のアルバムが丸ごとHARD OFFのジャンクコーナーに入ってて、マニアがまとめて売ったんだろうなと思って買いましたよ。何枚持ってるかわかりませんね」
亜流渋谷系とも言える1996年リリースの宮村優子はBPMをガン上げし、ドラムンベースとして聴くのが至高である。 pic.twitter.com/WLU7Ys0iB0
— デラ (@derax456) May 7, 2023
これをいっせいに手放した林原めぐみガチ勢の方の、無事を祈る。 pic.twitter.com/LSfigEwMMS
— デラ (@derax456) October 26, 2024


――結構同じ盤を買ってますよね。
「部屋からなくなっちゃうんですよね。なくなっても100円なんで買っちゃうんですよ。
あ、これは『幽☆遊☆白書』の飛影役で有名な檜山修之という声優さんの『PROTOTYPE』ってCDですけど、これは凄くいいニュージャックスウィング風の曲が入ってるんですよ。国産ニュージャックスウィングでかなり上位だと思います」
――当時はこれを聴いて幽白ギャルがうっとりしてたんですかね。
「そうでしょうね。自分と幽白ギャルがうっとりしました(笑)」
――幽白ギャルがうっとりし尽くした盤をデラさんが買ってる、と(笑)。そんなCDに混じってナズ『Illmatic』みたいなド名盤や定番も雑然と混ざってますね。
「『Illmatic』、久しぶりに聴いたら超良かったんですよねえ」

オシャレハウスをかけていたDJがCDオンリーに至るまで
――そもそも、デラさんが最初に買ったCDは何ですか?
「ライファーズ・グループという、アメリカのヒップホップグループのアルバム(『Living Proof』)ですね。〈終身刑の囚人ラッパーが獄中で録音したラップだ!〉ってテレビで紹介されていて、面白そうだなと思って。
それと、短冊で買ったのは、GEISHA GIRLSの『Kick & Loud』(『Grandma Is Still Alive』)。トラックがカッコ良かったですねえ。6つ上の兄がヒップホップやR&Bが好きで、その影響を受けてましたね」
――J-POPやロックではなく、いきなりラップだったのは、かなり大人びてますよね。
「同級生とはあまり話が合わなかった(笑)。CDはアメリカンウェーブっていう、地元・岩手のローカルな量販店とかで買っていました」
――そこから進学で上京されて、DJ活動を始めたとか。世代的には、90年代後半の、日本のクラブカルチャーの成熟期ですよね。
「そうですね。もっぱら小箱で、三軒茶屋のChromeっていう店とかで回してて、そこから徐々に声がかかるようになって」
――その頃はレコードでDJされていたんですよね。
「周りもそういうDJばかりでしたが、当時はレコード原理主義者というか(笑)。それに、その頃はレコードが安かったんですよ。今、レア盤と呼ばれているようなものが、100円で投げ売りされていましたね」


――当時はCDではなく、レコードが100円だった、と。「100円CDガイドブック①」の巻末のインタビューでも触れられてますけど、昔のデラさんは正統派のハウス~ヒップホップ系DJだったんですよね。
「デヴィッド・モラレスとかマスターズ・アット・ワークとか、ニューヨークのオシャレなハウスとかをかけてましたよ!」
――クラブがもっとオシャレで、スノッブだった時代ですよね。
「DJの上下関係も、今より体育会系で厳しかったですからね。〈デラ、何でそんな曲かけるんだよ〉とか、怖い先輩に言われて(笑)。で、DJを続ける内に、そういう当時のクラブ文化の空気や、レコード原理主義的な所にだんだん疲れてきちゃって。
そんな時、中古屋で『ラップ憲法』のCDに出会って、アブストラクトヒップホップみたいで衝撃を受けたんです。CDってクラブ文化の中ではレコードに比べて下に見られてたんですけど、CDでしか手に入らない面白い音源っていっぱいあるんですよね。それに気づいてから、だんだんレコードではなくCDを買うようになりました。
DJでも、レコードとCDを混ぜてプレイするようになって、最初はやっぱり先輩DJから〈何やってんだ〉って言われるんですけど、その内面白がってくれる人も増えてきて、今のCDオンリーのDJスタイルに至るって感じですね」
1996年リリースのラップ憲法。某予備校の制作盤だが、若者にも親しみやすい暗記法を何とか作り出そう!といった講師陣の情熱が深すぎるあまり、ヒップホップの真髄を突き抜けたドープさに図らずも到達。眠たい目をこすりながら聞けば確実に夢に出てくる、学習効果バツグンの100円名盤。 pic.twitter.com/9bFHn2VlNT
— デラ (@derax456) October 10, 2019

こんなにピッチ上げていいんだ! 早回しスタイル誕生秘話
――先日、デラさんのDJをレコードコンビニで初めて観たんですが、衝撃的なスタイルでしたね。歌謡曲もノベルティソングも、全部BPM 140以上に高速化して、歌のピッチも高くして、CDJのループ機能を活かしてノンストップで繋いでいくという。非常に独自のスタイルだと思いました。
「根本では、さっき言ったようなマスターズ・アット・ワークとかに憧れてた人間なんで、選曲の基準でも〈これはハウスとして繋げられる〉みたいな感覚があるんですよ」
――ニューヨークハウスじゃないけど、シカゴのゲットーハウスが高速化していったような感じは、デラさんの高速DJにも似てるかも知れませんね。先日亡くなったDJファンクしかり。
「ああ、ちょっとあるかも知れませんね。90年代後半って、ハウスのBPMが速くなってたんですよ。スピードガラージや2ステップを聴いた時の〈こんなにピッチ上げていいんだ〉という衝撃は、原体験としてありますね」

――確かにUKガラージなんかも、R&Bの早回しっていう側面がありますよね。それがデラさんのDJスタイルのインスピレーションとなっているというのは納得です。TikTokでも、〈Sped Up〉なんていうカルチャーがありますが。
「とにかく、歌謡曲のCDもハウス的な解釈で繋ごうとして、あのピッチの速さになったんですけど、ヴェイパーウェイヴ~フューチャーファンクのブームとリンクしてるんじゃないかと自分では思ってましたね。
CDJも、900-NEXUSとか新しい機材じゃなくて、CDJ-400(2007年発売)が好きですね。最新のCDJだと、ピッチを大幅に変えた時の音がキレイ過ぎるんです。CDJ-400だと音の劣化加減がちょうどいい(笑)。デジタルなのにローファイ、みたいな感覚を追求してますね」
――MPCやSL-1200の音の太さを比較するBボーイはよくいるけど、今、CDJのそこの音質にこだわるDJは珍しいですよね。

鳥よけにも使える!
――デラさんが主に中古CDを買う店はどこですか?
「渋谷のRECOfanとか、BOOK OFF新宿西口店とかが多いですね。あ、タワレコが始めた中古CDコーナーも行きましたよ(笑)。旅行に行ったときは、郊外のリサイクルショップも覗きます。本当はもっと地方に行きたいんですけどね。やっぱり地方にはまだ、謎のCDが眠っていると思いますよ」
――この連載で柴崎祐二さんも、沼津の祭りのCDについて熱く語られていました。
「地方にはたまにあるんですよね、本当に凄い店が。どういう流通でそこに行き着いたのかわからないけど、謎の中国のニュージャックスウィングみたいなCDがズラーッと並んでるような店。〈この店、まだ柴崎さんやピジョンさん※に掘られてない!〉みたいな(笑)」
――そういうマニアの間で、昨年、話題になっていたのは茨城の、閉店した元Disc-auntの倉庫開放ですよね(2025年3月に再び閉店)。屋内プール跡のビルに、大量の中古CDがドッサリと置かれてる、衝撃的な光景でした。「ガイドブック①」の表紙の撮影地にもなっていますよね。
「いやー、あそこは凄かったですねえ。もともとDisc-auntはよく通っていたんですが、閉店して1年後、休止していた店のXアカウントが急に〈倉庫のCDを開放します〉みたいなことを呟きまして。直後に予約連絡を入れ、近くに宿を取って前乗りしましたよ。大仕事になるだろうから、と(笑)。それで、宿で何気なくXを見ていたら、8cm CDマニアのnakamura8cmさんが、山のようにCDが積まれた謎の店の写真をアップしてて。〈これは凄い! どこの店だろう?〉と思ってその日は寝たんですけど、翌日Disc-auntの倉庫に行ったら、その写真の光景だった(笑)」
ありがとう。例の100円CDプールこと、Disc-aunt倉庫よ。最後の最後まで最高すぎて、思わず22:00まで滞在。およそ9ヵ月間の開店だったにせよ、間違いなく世界一の100円CD量を誇る中古屋で、内容も非常に良かった。今後、二度とこのような店が出現することはあるまい。夢を、見させていただいた。 pic.twitter.com/nNpaZaxbKv
— デラ (@derax456) March 22, 2025


――nakamura8cmさんの方が、一足早く来てたんですね。他に印象に残ってるお店はありますか?
「ちょっと前、リサイクルショップで、むき出しのCDがゴソッと1枚22円で投げ売りされてたんですけど〈鳥よけにも使える!〉って書いてあって(笑)。しかも、BUDDHA BRAND『人間発電所』とかハービー・ハンコック『Maiden Voyage』とか、普通に名盤も混じってましたね。海辺に車を停めて、そこで買ったボロボロの『人間発電所』がカーステレオで再生できた時は感動しちゃいました」
――鳥よけに『All Eyez On Me』(2パック)って書いてあるのは面白いですね(笑)。自分も昔、ラーメン屋の裏のゴミ捨て場の鳥よけCDが気になって、近づいてよく見たら〈山下達郎ベスト〉と書かれたCD-Rだったことがあります。
私対策なのか、某店がしっかり値付けをし始めたので、ついに鳥よけ20円コーナーに手を出してしまった。ブッダのファーストが鳥よけなんて、バチが当たるぞ。 pic.twitter.com/EzOpYrjyDR
— デラ (@derax456) February 18, 2022
鳥よけ20円コーナーに置かれてあったブッダブランドの『人間発電所』、バッチリ再生できましたので、ただいま波打ち際で聴いております。月がきれいです。 pic.twitter.com/zB8Yt7v8Oa
— デラ (@derax456) February 18, 2022

デラ宅にCDは何枚ある?
――ところで、デラさんは、新譜や新しい音楽は聴くんですか? K-POPとか最新のラップとか。
「うーん、あんまり聴かないですね。中古CDも、買うだけ買って半分も聴けていない(笑)。身近な人やイベントで共演した人のCDは買ったり貰ったりしてるけど、それが新譜と言えば新譜かなあ。今、この辺に置いてあるものだと、町あかりさん、Tnakaさん、CHERRYBOY FUNCTIONさん、METEORさん……。あ、あと、最近のアーティストだと、冥丁はカッコいいですね。冥丁は自分がリスナーとして新譜で買った最新のCDだと思います。
こういうの以外だと、新譜らしい新譜はめったに聴かないですねえ。中古CDも、2000年以降のものだとあまり聴かないんですよ。音がしっかりし過ぎている感じがして。もっと、90年代の音っていうか……言葉にすると難しいんですけど、生音から打ち込みへの過渡期で、そこまで洗練されてない感じが好きなんです。
もともとハウスを聴いてた時も、初期の、打ち込みのチープな感じが好きだったんですよ。そういう感覚を中古CDにも求めている所はありますね」


――レコードやカセットだと、固有のノイズに〈らしさ〉がありますけど、ノイズのないCDにも〈CDの音〉ってありますよね。
「ありますね。特に90年代初頭の、こもったような、CD固有の音っていうのがあるんですけど、そこを求めている気がします。同じアルバムでも、リマスタリングされた復刻盤よりも、当時の音圧の低いCDを選んじゃいますね。ベースもちょっと薄っぺらい音だったり。DJでかけるんですけど、どんなにミキサーで低音を上げても限界があるような音(笑)」
――CDマニアである前に、根本にDJとしての視点があるのがデラさんの個性ですね。
「どうしてもそういう基準で見ちゃいますね。家の2階にDJ機材を置いてますけど、日々、選曲もミックスも試行錯誤して実験を繰り返してますよ。100円CDで(笑)」
――最後に、愚問ですが……今、CDは家に何枚くらいあるんですか?
「いや~、全然わからないですね……(笑)」

LIVE INFORMATION
100円CDガイドブック①1000冊突破記念 デラ × コンビニスペシャル!
2025年4月26日(土)東京・浜町 レコードコンビニ
時間:18:30〜22:00
出演:デラ
料金:1,000円
詳細:https://x.com/record_conveni/status/1907783746377630194
珍盤亭娯楽師匠 presents 深淵なる中古CDディグの世界 with デラ&ディスク百合おん
2025年5月2日(金)DOMMUNE
トーク:19:00~
DJ:21:00頃~24:00頃
出演:珍盤亭娯楽師匠/デラ/ディスク百合おん
森、道、市場2025
2025年5月25日(日)愛知・蒲郡 ラグーナビーチ/ラグナシア
時間:10:00~20:00
出演:ASOUND/YeYe/imai/Age Factory/ENTH/えんぷてい/折坂悠太(band)/Conatala crew/渋さ知らズオーケストラ/Charlu/Shohei Takagi Parallela Botanica/Skaai(Band Set)/デラ/Tempalay/トリプルファイヤー/7/Buffalo Daughter/betcover!!/maya ongaku/YOUR SONG IS GOOD/Loota and more...
LOST DECADE in Mori Michi Ichiba:okadada/DJ WILDPARTY/tofubeats/tomad
オフィシャルサイト:https://morimichiichiba.jp/
デラ一人会
2025年6月14日(土)埼玉・浦和 KUNI HOUSE
出演:デラ
PROFILE: Kotetsu Shoichiro
ミュージシャン(トラックメイカー/DJ)。90年生まれ、香川県出身。ダンスミュージック全般を手がけ、ラッパーやゲーム音楽、CMなどに楽曲提供の実績多数。2021年にはラッパー・T-STONEへの提供曲“Let’s Get Eat”がBillboard JAPANのTikTok Weekly Top 20で1位を獲得。また2022年にはtofubeatsのアルバム『REFLECTION』収録の“Vibration feat. Kotetsu Shoichiro”へラップで客演し話題を呼んだ。ライター/インタビュアーとしてはミュージック・マガジン、Quick Japan、CINRA、関西ソーカルなど数々の媒体に寄稿。ほか、さとうもか“Lukewarm”“Loop”をはじめ他アーティストのMVなど映像/アニメーションの編集も手がけるなどジャンル/形式に囚われない幅広いスタイルで活動をおこなっている。
オフィシャルサイト:https://kotetsu-shoichiro.com/
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