UK電子音楽界の俊英が放つダイナミックな一大音響絵巻
21世紀のエレクトロニック・ミュージック界で着実に進化を続けてきたUKのミュージシャン/プロデューサー、ジョン・ホプキンスによる3年ぶり7枚目のスタジオ・アルバムである。マーキュリー・プライズにノミネートされた4枚目『Immunity』(2013年)、グラミー賞最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞にノミネートされた5枚目『Singularity』(2018年)を経て、コロナ禍下にリリースされた前作『Music For Psychedelic Therapy』(2021年)ではノンビートの瞑想的サウンドへと大きな方向転換を図ったホプキンス。今作『RITUAL』はこの路線を引き継ぎつつ、前作と対になるような劇的かつダイナミックな展開を聴かせる一大音響絵巻に仕上がっている。
アルバム制作の起点となったのは2022年に開催された没入型体験のプロジェクト〈Dreamachine〉だった。ブライオン・ガイシンが1959年に発明した〈目を閉じて見る初のアート〉である同名作品から着想を得たこのインスタレーションは、アーティスト、テクノロジスト、科学者、哲学者らからなる学際的なプロジェクトで、ホプキンスは作曲家として立体音響のサウンドトラックを手掛けていた。それに手応えを得た彼は盟友・7RAYSに音源を聴いてもらい、さらにクラークをはじめ他のミュージシャンの協力も仰ぎ、もともと15分だった曲をブラッシュアップし、440ものレイヤーからなる41分間のアルバムとして完成させるに至ったのである。
シームレスに続く全8トラックは息を吸うヴォイスと鐘が打ち鳴らされる音色から幕を開けると、荘厳なドローンが徐々に薄明を迎え生き物たちが活動を始めるように脈打つビートが流れ出し、緻密なサウンド・デザインで彩られた強烈なグルーヴが大地の息吹にも似た熱量の増減を繰り返していく。終盤では一転、宵闇か海中深くか知覚に靄がかかったような穏やかさが辺りを包み、最後はピアノを打鍵するノイズがリズムを刻むとともに猫の唸り(!)が耳を撫でて幕を閉じる。アンビエントと呼ぶには動きが多く、ダンスフロアで流すには踊りに最適化されているわけでもない。まさに〈儀式〉とでも形容するしかない、もう一つの没入型サイケデリック・セラピーのための音楽と言えるだろう。