仕事と音楽を両立しながら15周年を迎えたインスト集団がニュー・アルバムを完成!
衒いのないポップさを乗りこなし、辿り着いた『ISLAND』で4人が発見したものは?

 「あの日でtoconomaというバンドの輪郭が、よりはっきりした感触はあったかもしれないですね。ライヴのコンセプトを〈WEEKEND HEAVEN〉にしたんですけど、僕らは月~金で音楽以外の仕事をしていますし、休みの日にライヴに来てくださるお客さんにも同志みたいな感覚を強く感じました」(石橋光太郎、ギター)。

 結成15周年を迎えた昨年8月20日、日比谷野外大音楽堂に2,300人を集めた幸せな一日。インスト・バンドとして、〈音楽〉と〈仕事〉を両立させる兼業バンドとして、toconomaはひとつの大きな夢を叶えた。あれから1年ちょっと、あの場所で得た確信を胸にさらに大きな一歩を踏み出した。それがニュー・アルバム『ISLAND』だ。

 「過去5枚のなかでいちばんtoconomaっぽいアルバム。ポジティヴな曲もあればしっとりとした曲もあるし、ここまで幅を広げつつ、しかも聴後感として〈明日もがんばろうかな〉みたいな感じを出せたのもよかったなと思います」(西川隆太郎、キーボード)。

toconoma 『ISLAND』 ポニーキャニオン(2024)

 もはやtoconoma印と言っていい、キャッチーなメロディーと強靭な人力ダンス・ビートで押しまくる“SignaL”で幕を開ける全9曲。スペイシーなシンセが大活躍するフュージョン/ロック風味がたまらない“Syncer”。ほんのりラテンなビートとシンプルなリフのループがクセになる“Touch the moon”。ライヴで絶対の威力を発揮するだろう、踊らせる楽曲がずらりと並ぶ。

 「いままでのアルバムは、ライヴでやらなくなっていく曲もちらほらあったんです。でも今回のアルバムは、いろんなヴァリエーションのセットリストに全曲を入れられると思います。演奏していて全部楽しいし、“Touch the moon”みたいに淡々と叩く系の曲も、叩いてる側はすごく気持ち良かったりするので。捨て曲なしです」(清水郁哉、ドラムス)。

 「今回から、レコーディングを1人ずつにしたんですね。そのおかげで、前に録った楽器に対してもう少し優しくとか激しくとか、演奏のアプローチを深く考えるようになりました。ライヴと音源は違っていいし、お客さんを巻き込んでグルーヴしていくのがライヴ、聴きやすさを求めるのが音源という差別化ができたのはよかったと思います」(矢向怜、ベース)。

 そしてもうひとつ、今作の最大の特長は〈J-Pop再発見〉とでも言うべきコンセプトだ。ファンキーなダンス・チューン“Futurez”の前にさりげなく置かれた短くも美しいピアノ・ソロ“Back to the Futurez”の抒情。“Orion”のメロディーから溢れ出す歌謡曲としての魅力。鼻歌で歌いたくなる“SODA”の愛らしさ。インストの向こう側から、歌心が湧き上がってくる。

 「曲の前に短いインストを付けるのは、昔のJ-Popのアルバムによくあった構成。“Back to the Futurez”はネタのつもりだったんですけど、本当にいい曲になっちゃって」(西川)。

 「具体的にはglobeのファースト・アルバムです(笑)」(石橋)。

 「“Orion”はB’zとか安室奈美恵とかあのへんのJ-Popのエッセンス。安室さんで言うと“Don’t wanna cry”かな」(西川)。

 「コロナ禍の影響で鬱々としていた時期に制作が始まったので、その反動でポップなアルバムにしたいと思ったんですけど、自分たちのポップネスの源流を探ったときに、やっぱりあの時代のJ-Popだったんですよね。サザン、チャゲアス、TKサウンドとか。それを衒いなく出せる年齢になったのかなという感覚もあって、自分たちがいいと思うなら出していこうよという、開き直りのアルバムでもあります」(石橋)。

 インスト・バンドと言えば、ジャズにルーツを持つもの、ロックやファンクから来たもの、ジャム・バンドやダンス・ミュージックに特化したものなど、アプローチは千差万別。しかしtoconomaのめざす〈J-Popとしてのインスト〉というエリアに先駆者は少ない。しかもそのフィールドは広く、さらに今後は海外進出も考えているという。toconomaから世界へと、視界は開けている。

 「toconomaらしさを探し続けて16年、最近はお客さんや若いミュージシャンの方から〈toconomaっぽい〉と言われることが多くなって、すごく嬉しいですね。他のバンドの名前を出されて〈〇〇っぽい〉と言われて続けた俺らが、ようやく自分探しの旅に終止符を打てたような気がします」(石橋)。