聴くものを限定しない床の間的ダンス・ミュージック・バンドが、前作以上の振り幅で独自の世界を展開する新作をリリース!

 ピアノの西川隆太郎の言葉を借りてtoconomaのサウンドを一言で説明するならば、「みんなが踊れるインストのダンス・ミュージック」となるだろうか。だが、彼らの音楽世界は一筋縄ではいかない。

 「よく〈toconomaってどういう音楽をやってるんですか?〉と訊かれるんですけど、説明に困っちゃうんです(笑)。ジャム・バンドかもしれないし、クラブ・ジャズやラテンの曲もやるし……僕らのなかで特定の音楽をやろうという意識がなくて」(西川隆太郎)。

toconoma 『TENT』 WONDER HIKE/JUNONSAISAI(2014)

 もともと4人の嗜好性もバラバラ。4つ打ちを基本とする生演奏のダンス・ミュージックというフォーマットのなかに、あらゆる要素を加えていくのが彼らのスタイルだ。

 「(ギターの石橋)光太郎はメロコアとかエレクトロニカに影響を受けてるし、僕はジャズとかレゲエ、ベースはファンク、ドラムは……LUNA SEA好き(笑)。それぞれの畑が違うので、そもそも共有してるものがあまりなかったんですね。各々のセンスを持ち寄ってひとつのグルーヴを作るのが楽しいんです」(西川)。

 「セッションを重ねるなかで〈これはかっこいいね〉という共通認識が生まれてきて、そこから音が固まってきたんですね。DJとも少し違うバンド的な熱さを表現したかった」(石橋光太郎)。

 2008年の結成当初のことを振り返って石橋は「レーベルの方がいる前で話すのもナンなんですけど……あまり売れようと思ってなかった(笑)。音楽で成功してやろうという野望がなかったんです」と話すが、「〈オリジナル曲も溜まってきたし、思い出作りのためにアルバムでも作ってみようか〉というぐらいの感覚」(石橋)で制作したファースト・アルバム『POOL』が本人たちの想像を越えた支持を獲得。そして同作を踏まえてさらに踏み込んだ制作に挑んだのが、今回リリースされたセカンド・アルバム『TENT』だ。前作に引き続き、クラムボンなどの作品も手掛けてきた星野誠がレコーディング・エンジニアを、桑田佳祐らの作品に関わってきた内田孝弘がマスタリングを担当。4つ打ちをベースとした“ANAHEIM”“relive”という爆発力のある2曲を冒頭に配し、一転してメロウな“Ves”、ラテン風のピアノが印象的な“Hello goodbye”、ボサノヴァ風の“and her little kitchen”、生ヒップホップ調の“Dawn”などなど、前作以上の振り幅のtoconomaワールドが広がっている。

 「(リード曲である)“relive”が出来たときは〈アルバムを作れそうだな〉という感覚になりましたね。野外フェスで機能する曲を作りたかったので、最初の2曲はそういうものをイメージして。ただ、アルバムではライヴと違う部分も表現したかったので、曲の振り幅もできるだけ広くしようと」(石橋)。

 なお、今回のレコーディングは土日を使って行われたという。〈普段の仕事との両立〉などと書くと夢のない話のように思われるかもしれないが、今後の目標を尋ねられ、「いい曲といい作品を作って、ジジイになっても続けていけたら……」(石橋)と話すtoconomaにとって、〈音楽活動と日常が地続きであること〉は極めて重要なことだ。

 「以前ゲートボール場を使ったフェスに出たことがあるんですけど、そのときは間違えて来ちゃったご高齢のおじいちゃんが僕らのCDを買ってくれたんです(笑)。僕らの音で小さな子供が踊っていたりすると、相当テンションが上がる(笑)」(西川)。

 toconomaのグルーヴはアンダーグラウンドのクラブでもバッチリ機能するだろうし、ゲートボール場のおじいちゃんも楽しませる。聴くものを限定しない床の間的ダンス・ミュージック。新作『TENT』により、さらに多くの人々が彼らの魅力に気づくことになるだろう。

 

toconoma

石橋光太郎(ギター)、西川隆太郎(ピアノ)、矢向怜(ベース)、清水郁哉(ドラムス)の4人から成るインスト・バンド。2008年に結成。都内のライヴハウスを中心に活動を行い、2010年に自主制作盤『toconoma EP』を発表。メンバーチェンジを経て2012年に現在の編成となる。2013年には初の全国流通音源となるファースト・アルバム『POOL』が〈タワレコメン〉に選出され、同年のタワーレコード年間ジャズ・チャートで9位を記録。〈舞音楽祭〉〈Natural High!〉といった野外フェスに出演し、2014年7月には『toconoma EP』のリマスター版をタワレコ限定でリリースして話題となるなか、このたびニュー・アルバム『TENT』(WONDER HIKE/JUNONSAISAI)を発表したばかり。