ゼロから始まったバンドの新しいストーリーが、途方もない痛みの日々を越えて、またゼロから動きはじめた。個性豊かな新しい血を導入して強烈に生まれ変わったリンキン・パークはこの先の未来に君臨する!

歩んできた道とこれからの旅路

 まさしくゼロからのスタート。ただしゼロは“無”とは違う。『From Zero』と銘打たれたリンキン・パークの復活作を聴きながら、ふとそんなことを考えさせられた。

 このタイトルから、彼らの出自を思い浮かべる人たちはよほどのマニアだろう。この革新的なバンドが『Hybrid Theory』でデビューしたのは2000年10月のことだが、その直前までの1年間ほどはまさにハイブリッド・セオリーと名乗っていた。そしてそれ以前、バンドが誕生してからの数年間はゼロ(ただしスペルはXERO)の名で活動していたのだ。この事実からも想像できるように、この表題にはダブル・ミーニング的な趣がある。バンドの創設者のひとりであり近年では個人名義での活躍も目覚ましいマイク・シノダは次のように説明している。

「最初のバンド名はゼロだった。今回のタイトルは、俺たちの始まりと、現在続いている旅の両方を意味している。今作ではサウンド的にも感情的にも、過去、現在、未来について歌っているんだ。新旧のバンド・メンバー、友人、家族、そしてファンへの深い感謝の気持ちを込めて制作した。俺たちは長年にわたってリンキン・パークが歩んできた道を誇りに思い、これからの旅路についてワクワクしている。エミリー、コリンという新しいメンバーと一緒に作ったエネルギーと活気に満ちた新しい音楽で、本当に力をもらったと感じている」。

LINKIN PARK 『From Zero』 Machine Shop/Warner/ワーナー(2024)

 エミリー・アームストロングとコリン・ブリテン。現在のリンキン・パークにはこの新たなメンバーふたりが名を連ねている。エミリーは2002年頃からLAを拠点とするデッド・サラの一員として活動してきた人物で、同バンドでこれまでに3枚のフル・アルバムを発表している。また、一方のコリンは、ドラマーであるのみならずプロデューサー、ソングライターとしても知られ、パパ・ローチ、311やONE OK ROCKとも仕事歴のある人物だ。加えて今作では作曲クレジットの一部にジェイク・トーリーという共作者の名前が見られるが、彼はジャスティン・ビーバーやチャーリー・プース、BTSなどにも楽曲提供をしてきた人物で、昨年マイクがソロ名義で発表した“In My Hands”も共作している。当時のマイクはジェイクについて「俺は自分にはないスキルや発想を持った誰かと組むことが好きだし、彼はそんな俺が今いちばん一緒にやりたい相手のひとりなんだ」と絶賛していた。