さよならを言う代わりに、このライヴ盤を胸に刻もう
リンキン・パークのライヴ・アルバム『One More Light Live』がリリースされた。となると、どうしてもチェスター・ベニントン(ヴォーカル)の追悼作品という意味合いを帯びてしまうし、熱心なファンであれば喪失感を抜きに聴くことはできないはず。日本でも2017年11月に来日公演が行われる予定だったわけで……。それでも5人になったメンバーは、いまここで何かを形にしておかずにはいられなかったのだろう。チェスターと自分たちが2017年まで共に生き、共に闘った証として。そして、リンキン・パークという素晴らしいバンドが世界中で確かに愛されていたのだという証として。
〈闘った〉と述べたが、その闘いの相手は〈時代〉〈ロック・シーン〉〈バンド自身〉の3つだったと思う。リンキン・パークの公式コメントにはソツのない穏健なものが多いので、実際のところ彼らの胸の内に、時代とシーンに対する闘いの意識がどれだけあったかはわからない。しかし、彼らが自分たち自身に対して挑み続けてきたことはデビュー作『Hybrid Theory』(2000年)から『Meteora』(2003年)、『Minutes To Midnight』(2007年)、『A Thousand Suns』(2010年)、『Living Things』(2012年)、『The Hunting Party』(2014年)、そして『One More Light』(2017年)と、ロック史に刻み込まれてきた全オリジナル・アルバムを順に追えば明々白々だ。企画盤ではあるものの、ジェイ・Zとの共演作『Collision Course』(2004年)もそこに加えるべきか。
今回のライヴ盤は『One More Light』のツアー音源をまとめたもので、全体の半数にあたる8曲が『One More Light』からのナンバー。そして同作は、進化/深化という2つの意味でリンキン・パークのキャリアにおける最大の飛距離を記録した一枚だった。あまりにも大胆に。あまりにも勇敢に。例えば、もしも前情報がまったくないまま『One More Light』と『Hybrid Theory』を聴いたとして、同じバンドの作品だとわかる人はどれだけいるだろうか。
〈ヘヴィー〉とか、〈ラウド〉とか、〈アグレッシヴ〉とか――リンキン・パークの音楽を表現する際によく用いられる、そうした要素は『One More Light』には皆無だった。それどころか、ギター・サウンドを極限まで排し、もはや〈アンビエント〉とも呼べるエレクトロニックで優美なトラックにグッド・メロディーを歌うミディアム~スロウのナンバーが、全編に渡って奏でられている。もちろん、チェスターのスクリームなどあろうはずもない。美麗な歌声を聴かせる新人女性シンガーのキアーラ、ラッパーのストームジーやプッシャTをフィーチャーした楽曲の作りは、それこそチェインスモーカーズあたりとも通じる部分があるし、少なからずその影響が反映されているのかもしれない。
しかしながら、リンキン・パークがここへ来て、ある種の打算のもとに『One More Light』を作ったとは考えにくい。真逆とも言える激烈な内容の前作を踏まえても、こういう音楽的な地平に行き着くことが闘い続けるバンドの必然だったのではないかと思う。もうひとつ、サウンド・プロダクションとは対照的にヘヴィーでディープな歌詞からチェスターの心情を探ってみると、この濁りのない穏やかでたおやかな音にこそ束の間の救いを見い出せたのでは?……と、そんなふうにも感じられる。
チェスターはあちら側に旅立ってしまった。でも僕らは、リンキン・パークの音楽を聴き続けることができる。バンドの最後にして最高の記念碑的なドキュメントとして、このライヴ・アルバムを胸に刻みたいところだ。 *鈴木宏和
リンキン・パークのアルバムを紹介。