幸せになるために音楽はある
――変化も挑戦もあった20年を記念して、今回トリビュート盤がリリースされますが、参加アーティストはどのように決まっていったのでしょう?
「テーマは、今日まで私を支え続けてくれた〈楽曲たちへの感謝〉で、この20年の間、私に作品を書き続けてくださった〈小林武史さんへのプレゼントにもなったらいいな〉という想いもモチヴェーションになっていました。私の方からアーティストさんご本人、ときには先方のマネージメントへ問い合わせをしていきました」
――初回生産限定盤に収録のDisc 3ではSalyuさんと小林さんのコンビで“LIFE(ライフ)”“青空”“有刺鉄線”“旅人”をセルフ・カヴァーされてますね。いずれもプライヴェート感のある、リラックスしたムードのジャズ・アレンジです。
「そうですね。制作が始まった頃はもうお腹も大きくて。何よりプライヴェートを最優先にしていたので、きっと小林さんも生活のなかに溢れているテンションをイメージして作ってくださったのかなって」
――歌ってみていかがでした?
「レコーディングは産後だったんですが、自分のなかでは、出産を経てまたヴォーカル作りをしている途中の歌といいますか、やや青臭みがあるんですね。でも成熟しきっていない歌を残すことができて嬉しいなと思ってるんです。理想とするヴィジョンを体現しきれてないこともあるのですが、それはそれで人間が成長していく過程のリアルな歌だなと思って」
――そういえば、お子さんが生まれたことを発表されたときに、〈今後の活動にどう影響が出るのか楽しみです〉とコメントされていましたね。
「出産は〈人間〉という生き物についてとか、自分自身についての捉え方が大きく変わる体験でした。そういう経験を経て改めて思ったのは、音楽は人を幸せにするためにある、ということ。わかってはいたけれど、ほんとにそうだなって実感しているところですね。20年のなかでは戦いの時期もありましたし、葛藤の時期もありました。でも、やっぱり音楽は人を幸せにしてくれる。そういうものでありたいし、自分の子どもにもそう伝えさせていきたいって思いますね」
左から、salyu × salyuの2011年作『s(o)un(d)beams』、Salyu × haruka nakamuraの2023年のEP『聖者の行進』(共にトイズファクトリー)
Salyuの作品を紹介。
左から、2005年作『landmark』、2007年作『TERMINAL』、2010年作『MAIDEN VOYAGE』、2012年作『photogenic』、2015年作『Android & Human Being』(すべてトイズファクトリー)