タワーレコード渋谷店6階のアナログ専門フロア〈TOWER VINYL SHIBUYA〉は、外国人観光客で常に賑わっている。インバウンド消費の存在感が非常に大きい現在の日本経済を象徴する光景だが、その理由や背景とは? 社外秘のデータや現地の取材を通して考察した。 *Mikiki編集部


 

レコードの街・渋谷を象徴するタワレコのアナログ専門フロア

かつて渋谷という街は、世界中のレコードが集まっている、宇田川町は世界一レコード店が多い場所だ、と言われたほどだった(ただし、レコード店の数自体は渋谷よりも新宿や大阪ミナミのほうが多いようだ)。タワーレコード渋谷店は、そんな宇田川町に1981年に輸入盤店としてオープン。1995年に現在の神南1丁目に移転し、世界最大規模のCDショップとして、渋谷という街を象徴するランドマークとして、2024年現在も営業中だ。

周知のとおり、2010年代以降、アナログレコードは世界的な再評価ブームに沸き、生産・販売数は大幅に増大してきた。タワレコといえばCDショップだが、それに伴って、レコードの販売にも注力している。タワレコ渋谷店6階には2021年にTOWER VINYL SHIBUYAという専門コーナーがオープンし、今年2月にリニューアルされたことで2倍の大きさになり、1フロアすべてがレコード売り場になっている。東京のレコード店といえば狭小なイメージがあるが、TOWER VINYLに足を運んでもらえばわかるとおり、その開放的な様子は壮観である。

 

TOWER VINYLが海外観光客の〈聖地〉である理由

TOWER VINYLに行くたびにやはり感じるのは、訪日外国人観光客の多さだ。日本は外国人観光客の受け入れを2022年から徐々に再開し、コロナ禍からの回復期へ本格的に入ったと言える2023、2024年は各地がインバウンドで賑わっている……というのは説明するまでもないこと。その中にはレコードを買い求めに来ている人も少なくない。

コロナ禍以前、テレビ東京の番組「YOUは何しに日本へ?」の2017年の放送で、大貫妙子の『SUNSHOWER』を買いに来たアメリカ人男性に取材した回が話題になったことは記憶に新しい。シティポップ再評価、レコードブーム、そしてインバウンド消費の活性化と、色々な事実を映した名エピソードだったが、各メディアによる〈日本へレコードを買いに来る外国人〉への取材はコロナ禍明け以降も頻繁におこなわれており、TOWER VINYLへの取材も多い。

そんな中でタワレコ渋谷店への外国人来店客が絶えず、〈聖地化〉している理由の一つは、あれほどの大きさと規模で丸々一棟が音楽ソフトのショップである、という世界的に例がないこともあるだろう。TOWER VINYL自体、在庫数が10万枚を超える国内最大級のアナログ専門売り場である。またビヨンセによるサイン会を皮切りに、タワレコ渋谷店は今年、来日アーティストのイベントや来店の様子がたびたび話題になった。その積み重ねにより、国外の音楽好きにとって日本に来たら一度は訪れてみたい場所になっているのではないだろうか。

タワーレコードのデータや売上チャートによると、アナログ購入者の内が約7割のシェアを占めているのが外国人だという。中でもマイケル・ジャクソンやシャーデー、マドンナといったミュージシャンの1980年代のレコードが多く買われているそうで、これは店頭で確認できる様子と一致している(1980年代の盤を抱えている人が店内にやけに多いのだ)。一方で山下達郎や杏里などに代表されるシティポップはもちろんのこと、Mikikiが伝えたように日本産フュージョンのリバイバルも顕著で、高中正義や渡辺貞夫、カシオペアなどの盤も人気。日本特有のレコード文化から今や世界共通語になった〈Obi〉も国外の音楽ファンの興味を惹いており、新譜でも独自の帯付きレコードが好調だとのこと。