The Next Episode
説明不要な西海岸のレジェンドとアイコン、ドクター・ドレーとスヌープ・ドッグが丸ごとタッグを組んだ30年ぶりのアルバム! 圧倒的すぎる『Missionary』は互いのキャリアの集大成なのか、それとも次なるセレモニーへの導入となるのか……

 恩讐を超えて古巣デス・ロウの商標やカタログの権利などを獲得し、そのボスとして『BODR』(2022年)を発表して以来、新進のオクトーバー・ロンドンらを後見しつつドッグ・パウンドやイーストサイダズでの作品を送り出すなどして古参ファンを喜ばせてくれているスヌープ・ドッグ。相変わらずの多作ぶりに膨大すぎる客演などもあって、いまの彼に一発ごとの重みを期待する必要もないわけだが、2年ぶりのソロ名義作『Missionary』が師匠ドクター・ドレーとのタッグ作品となれば流石にその限りではない。しかも、かつて両者がデス・ロウで作り上げた『The Chronic』(92年)に続く金字塔『Doggystyle』(93年)から約30年というアニヴァーサリー的な一面も強いとはいえ、ドレーにとっても因縁深いデス・ロウとアフターマスのロゴが並んで刻まれた作品が出るなど、古くからのリスナーほど想像もできなかった事態のはずだ。

SNOOP DOGG 『Missionary』 Death Row/Aftermath/Interscope(2024)

 もちろん、『Doggystyle』以降も“B Please”や“Still D.R.E.”“The Next Episode”“Kush”などなど多くの名曲を生んできたこのコンビネーションに、2024年の時点で何を望むかは受け手にもよるわけで、2022年の〈NFLスーパーボウル〉におけるハーフタイムショウやパリ五輪閉会式でのパフォーマンスなど、両者の共演そのものがセレモニー的な伝統芸の意味合いを深めているだけに、顔合わせ自体が最大の価値となっているのは確かだし、その顔合わせに無条件でワクワクできたり、しょうもないジャケに懐かしさを感じるリスナーだけが聴けばいいものではある。それでも、言わずもがな全盛期を過ぎた両者が久々(?)の本気をぶつけて安定感やノスタルジー以上の音を鳴らす姿にはやはり震えるものがあるのだ。

 とりわけスヌープが往年のギラギラした凄みを漲らせて気合を入れた様子は、それだけでも予想外の驚きと本作が作られた意味となる。スタイリスティックス使いの仰々しい序曲から本人による前口上の“Shangri-La”というエントランスの長さも『Doggystyle』を思わせるし、そこからドレーもマイクを握ったアグレッシヴな“Outta Da Blue”へと流れ込むだけで無性にグッときてしまった。もはや時代がわからなくなるほど王道のドレー節がビシビシ轟く“Hard Knocks”、ジェネイ・アイコが20年代の色を麗しく添えた“Gorgeous”、シアトリカルなループで牽引する“Skyscrapers”、ココア・サライを交えたレゲエの“Fire”、50セントとエミネムが駆けつけた“Gunz N Smoke”、BJ・ザ・シカゴ・キッドにフックを委ねた“Now Or Never”など、テンションの上げ下げもありつつアルバムはシネマティックな“The Negotiator”でいい感じに幕を下ろす。なお、サウンド面の参謀にフォーカスやデム・ジョインツらと並んでサム・スニードの名があるのもポイントだ。

 もちろんトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ使いでジェリー・ロールを迎えた“Last Dance With Mary Jane”、ポリス使いでスティングをフィーチャーした“Another Part Of Me”のように(良し悪しではなく)ここでやらなくても良さそうな曲もあり、手放しで傑作と呼べるような類のアルバムではないはずだが、ほぼフォロワーがいないせいで新しさや古さから切り離されたドレー・ビーツならではの手触りが多くの楽曲とスヌープのラップを特別なものにしているのは間違いないだろう。素晴らしい部分は実に素晴らしい、昨今では他に望むことのできそうにないタイプの豪快な一作だ。