©Markus Klinko AndIndrani

マライア・キャリー傑作の20周年記念盤から辿るR&Bの2005年と2025年

 今年3月に行われた〈iHeartRadio Music Awards 2025〉でマライア・キャリーのトリビュートがあった。そこでマニー・ロングが“We Belong Together”、トリー・ケリーが“Always Be My Baby”を本人の前で披露。共にジャーメイン・デュプリ(以下JD)の制作曲で、そのパフォーマンスは現在裏方として第一線に返り咲いているJDへのトリビュートだとも受け取れた。マニー・ロングに関しては、JDが舎弟のブライアン・マイケル・コックスらと手掛けた“Made For Me”が“We Belong Together”の雰囲気を纏ったバラードで、マライアの客演版も出されたことを踏まえると両者へのオマージュでもあったのだろう。マライアの同曲は2005年にR&B/ポップの両チャートで14週1位を記録した、現時点でソロ最大のヒット。その名曲を収録していたのが、今回20周年記念盤が出される10作目のアルバム『The Emancipation Of Mimi』である。

MARIAH CAREY 『The Emancipation Of Mimi (Deluxe Edition)』 Island/ユニバーサル(2025)

 90年のデビュー以来、マライアに駄作なし。唯一ヴァージンから発表された半自伝的映画のサントラ『Glitter』(2001年)、その後アイランドに移籍して放った『Charmbracelet』(2002年)はセールス的には完敗だったが、どのアルバムも一定水準以上のクオリティを保っている。その中でも2005年発表の『The Emancipation Of Mimi』はズバ抜けて完成度が高い。21世紀突入直後の低迷や苦悩をバネに、3年間の小休止後、アイランド・デフ・ジャムのCEOに就任したLA・リードのテコ入れで制作したアルバム。〈Mimi〉とはマライアの愛称で、タイトルでは、初期の後見人だった前夫トミー・モトーラとの離婚も含めた過去からの〈解放〉を謳っていた。