デイヴィッド・リンチが死去した。
デヴィッド・リンチが亡くなったことは、遺族によってFacebookで発表された。リンチは昨日1月16日に亡くなり、78歳だった。死因などは発表されておらず、訃報には〈彼がこの世に存在しなくなったことで今、世界に大きな穴が空いた。しかし彼が言ったように、「穴ではなく、ドーナツ自体に目を向けよ」〉というコメントが記されている。
デヴィッド・リンチは、米モンタナ州ミズーリ生まれの映画監督/プロデューサー/ミュージシャン/アーティスト/俳優。友人の父が画家だったことから絵画に興味を持ち、美術学校に通った。
1971年に映画学校AFIコンサバトリーに入学。娘の誕生や父になることへの恐怖をモチーフにした自主製作のデビュー長編映画「イレイザーヘッド」を4年かけて撮り、1977年に公開した。同作はショッキングかつグロテスクな表現が評判を呼び、深夜上映などによってカルト的な人気を獲得していった。
1980年には、長編第2作「エレファント・マン」を公開。プロテウス症候群だったとされる19世紀イギリスの青年ジョゼフ・メリックの半生を描いた。そして1984年、フランク・ハーバートのSF小説を原作にした「デューン/砂の惑星」を公開したものの、失敗作として酷評されてしまう。次作「ブルー・ベルベット」では1950年代アメリカの田舎町に窃視や虐待、性的倒錯などを描き、賛否両論を巻き起こした。
1990年には、テレビドラマ「ツイン・ピークス」が放送開始。1991年まで2シーズンが放送され、1992年には映画「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」も公開された。架空の土地を舞台に、殺人事件の謎を巡るミステリーの体裁をとりつつ、狂気的で混沌とした物語が展開していく同作は、現在もカルト的に厚く支持されている。2017年には、「リミテッド・イベント・シリーズ」として新作も製作された。
さらに同年、「ワイルド・アット・ハート」でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを獲得。2001年の「マルホランド・ドライブ」では監督賞も受賞し、映画監督としての名声は頂点に達する。さらに2006年、第63回ヴェネツィア国際映画祭では栄誉金獅子賞を受賞。
また以前から音楽活動もおこなっていたリンチだが、2011年にソロミュージシャンとしてデビューし、1stアルバム『Crazy Clown Time』をリリース。2013年には2ndアルバム『The Big Dream』を発表している。
2006年作「インランド・エンパイア」以降、リンチは長編映画を製作していなかったが、2017年に映画監督からの引退を表明。一方2019年には、アカデミー名誉賞が贈られた。そして2022年、スティーヴン・スピルバーグの映画「フェイブルマンズ」にジョン・フォード役で出演した。
長編の本数こそ少ないものの、「イレイザーヘッド」「エレファント・マン」「ブルーベルベット」「ツイン・ピークス」「ロスト・ハイウェイ」「マルホランド・ドライブ」「インランド・エンパイア」といったカルトクラシックの数々は、世界の映像作家や好事家に多大な影響を及ぼした。リンチが作り上げるシュールレアリスティックで悪夢的な映像世界は、ほかに似たものがない唯一無二のビジュアルアートだった。
スパークスやX JAPAN(!)、インターポール、ナイン・インチ・ネイルズらのミュージックビデオや映画「デュラン・デュラン:アンステージド」を撮り、自身も音楽活動を展開するなど、音楽との関りも常に深い監督だった。誰にも似ない孤高の作家の死に、哀悼の意を表したい。