監督が愛情を込めて演出した家族の物語を、彩る音楽
こちらはジョン・ウィリアムズ&スティーヴン・スピルバーグ監督の黄金コンビ50周年を記念する作品。実は最後のコラボレーションになるはずであった(※6月30日公開「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」はジェームズ・マンゴールドが監督)が、今年になってウィリアムズは映画音楽からの引退宣言を撤回した。彼が考えを改めたのは二人のコラボを記念するイヴェントで、スピルバーグ監督が100歳まで電気工学者として働いた父の話に言及したのがきっかけ。長年の付き合いであるウィリアムズは、監督の両親とも親しかったのだとか。
さて、本作はスピルバーグにとって初の自伝的作品。主人公は幼い頃映画に魂を奪われて以来、自らも8ミリカメラを手に妹たちを起用し撮影の楽しみに目覚めるフェイブルマン家の長男サミー。彼はやがてボーイスカウト仲間と手に汗握る戦争映画を完成させ、転校先では学校イヴェベントをドラマティックな記録映画に仕立てて一躍注目を集める。それはまさに映画史上最も成功を収めた偉大なるスピルバーグ監督〈誕生〉の物語であり、そこには〈撮る〉及び〈撮ったものを編集〉する側の覚悟や葛藤、〈撮られた〉者(役者)の宿命や悲劇など、映画文化の光と影を象徴するような場面も垣間見ることができる。しかしこの作品の真の魅力は、あるユダヤ人家族の何気ない日常を細やかに描き出しているところにある。天才エンジニアの父親とピアニストで奔放な芸術家肌の母親、正反対の気質ながらも理想の夫婦だった両親が抱える〈ある秘密〉とは?
……今回はサントラも母ミッツィが家のピアノで弾く“バッハ:協奏曲ニ短調BWV927 第2楽章アダージョ”などが印象的で、ウィリアムズによるテーマ曲も家庭劇に相応しい親密な雰囲気に満ちている。特に劇中の幻想的なシーンで奏でられる“ミッツィズ・ダンス”の美しさが忘れがたい。それらはまるでウィリアムズからスピルバーグ監督(の両親の想い出)に捧げられた、素敵な贈り物のようだ。
MOVIE INFORMATION
「フェイブルマンズ」
監督・脚本:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
編集:マイケル・カーン/サラ・ブロシャー
配給:東宝東和
(アメリカ|2022年|151分)
20223年3月3日(金)より、全国公開!
https://fabelmans-film.jp/