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トッド・ラングレンの来日公演が2025年2月28日(金)にビルボードライブ横浜で、3月3日(月)にビルボードライブ東京で開催される。1960年代から活躍し、日本でも特に人気が高い彼のライブとあって、早くも完売している人気公演だ。今回はこれにあわせ、“虹の都へ”“ベステン ダンク”といった名曲をトッドのプロデュースで作り上げ、彼から影響を受け続けてきた高野寛に特別寄稿してもらった。高野は一人のリスナーとしてトッドの音楽をどのように聴いてきたのだろうか? *Mikiki編集部
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僕がトッド・ラングレンの名前を知ったのは多分高校生の頃、1980年代前半だったと思う。エンジニアリングに興味があった僕は、中期ビートルズ以降発展していった〈多重録音〉という手法を知った。当時の録音機材・テープレコーダーを使い、いろいろな音を重ねて、時間を飛び越える作り方だ。
中でも、一人で音を重ねる〈一人多重録音〉に興味を持った。今でこそ〈宅録〉という言葉も一般的になって、一人で制作するアーティストも珍しくないが、デジタル機材のない70年代にそれを実現するには、機材を使いこなす専門的な知識と様々な楽器の演奏技術が必要だった。トッド・ラングレンはそんな70年代から宅録を続けてきた黎明期のパイオニアの一人だ。
僕が初めて買ったトッドのソロは、8枚目のオリジナルアルバム『Hermit Of Mink Hollow』だった。ジャケットは青白い無表情なポートレート。その無機質な印象とは裏腹に、アルバムはポップなメロディと開放感に満ち溢れていて、僕は一気に大ファンになってしまった。それまでニューヨーク市内のマンションで制作していたトッドが、自然に囲まれたニューヨーク州ウッドストックの地に小さなプライベートスタジオを構えて、そこで初めて録音されたのがこの作品だったという。トッドはかつてインタビューで、自分のシンガーとしてのスタイルが完全に定まったのはこの作品だったと語っていた。
そう、トッドは歌が上手い。R&Bやソウルに影響されたその歌い回しは、さらっと歌うSSW系のさり気なさとは違う濃さがある。その声は多くのファンを引き付けてやまない。
このアルバムは、僕の歌とソングライティングの教科書でもあった。対訳のない歌詞カードを辞書を引きながら訳して、レコードに合わせて歌い、“Can We Still Be Friends”“Lucky Guy”などのピアノバラッド曲を耳コピした。
宅録三昧で、誰とも会わず何日も創作に没頭することもあった。そんなときアルバム『Faithful』収録の“Love Of The Common Man”を聴いて、〈象牙の塔から出ておいで〉と歌いかける詞が刺さった。これは本当の孤独を知る人の歌詞だ、と感じた。
トッドの作品は、実に様々なジャンルを横断している。SSW然とした2nd(名盤)『Runt. The Ballad Of Todd Rundgren』に始まり、名曲揃いの2枚組の大作『Something/Anything?』、サイケデリックな『A Wizard, A True Star』など初期の代表作を経て、先述の『Hermit Of Mink Hollow』、80年代にはサンプリングと生声を駆使した『A Cappella』、大所帯バンドの一発録りでR&Bを軸に据えた『Nearly Human』など、特に20世紀はハイペースなリリースが続いた。音楽に対する飽くなき好奇心を全開に(時にファンを置き去りにもしながら 笑)、新しいことを追求し続けるその貪欲な姿勢も、トッドの魅力の一つだ。そして、さまざまなアプローチの真ん中にはいつも、ソウルフルな歌声がある。
トッドは以前インタビューで、アメリカの歌手、トニー・ベネットを敬愛していると語っていた。2021年、95歳にしてレディー・ガガとのデュエットアルバムをリリースした伝説的シンガーだ。トッドからトニー・ベネットの名前が出たのは意外だったけれど、76歳の今も精力的に世界を旅して歌い続けている姿を見ていると、それも頷ける。今回の来日では、どんな編成で、どんなアレンジで聴かせてくれるのだろう?
このまま10年、20年先にも歌い続けるトッドに会えますように。
LIVE INFORMATION
Todd Rundgren
トッド・ラングレン
2025年2月28日(金)神奈川・横浜 ビルボードライブ横浜(1日2回公演) ※SOLD OUT
1stステージ 開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ 開場/開演:19:30/20:30
2025年3月3日(月)東京・六本木 ビルボードライブ東京(1日2回公演) ※SOLD OUT
1stステージ 開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ 開場/開演:19:30/20:30
■チケット料金 ※飲食代金別
【横浜】
DXシートカウンター:16,900円
S指定席:16,900円
R指定席:15,800円
カジュアルセンターシート:16,400円(1ドリンク付)
カジュアルサイドシート:15,300円(1ドリンク付)
【東京】
DXシートDuo:36,000円(ペア販売)
Duoシート:34,900円(ペア販売)
DXシートカウンター:18,000円
S指定席:16,900円
R指定席:15,800円
カジュアルシート:15,300円(1ドリンク付)
■発売日
2025年1月6日(月)正午12:00=Club BBL会員・法人会員先行(ビルボードライブ)
2025年1月13日(月・祝)正午12:00=ゲストメンバー・一般発売(ビルボードライブ/e+/ぴあ)
*チケットはビルボードライブ公式HPおよびプレイガイド(e+・ぴあ)にてご購入いただけます
*ビルボードライブ公式HPでチケットをご購入いただく際にはHH cross IDへの登録(無料)が必要となります
*HH cross IDとは阪急阪神ホールディングスグループが提供する様々なサービスを、ひとつのIDでご利用いただくためのIDです(https://www.hhcross.hankyu-hanshin.jp/参照)
ビルボードライブ公式HP:https://www.billboard-live.com/
■公演に関するお問い合わせ
ビルボードライブ横浜:0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5丁目57番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
ビルボードライブ東京:03-3405-1133
〒107-0052 東京都港区赤坂9丁目7番4号 東京ミッドタウン ガーデンテラス4F
PROFILE: 高野 寛
1964年生まれ。大学生の頃から宅録による創作を開始。1988年、高橋幸宏プロデュースによるアルバム『hullo hulloa』でソロデビュー。1990年発表のトッド・ラングレンのプロデュースによるシングル“虹の都へ”がオリコン2位を記録。2019年までにベスト盤を含む22枚のソロアルバムを発表。ソロのほか、宮沢和史らと結成したGANGA ZUMBA、高橋幸宏・原田知世らと結成したpupa、BIKKE・斉藤哲也と結成したNathalie Wiseなどのバンドでも活動。世代やジャンルを超えたアーティストとのコラボレーションでも多数制作している。ギタリストとしてもYMO、高橋幸宏、細野晴臣、TEI TOWA、星野源を初めとした数多くのアーティストのライブや録音に参加し、坂本龍一や宮沢和史のツアーメンバーとして延べ20カ国での演奏経験を持つ。2024年春、デビュー35周年を期にミニマルやアンビエントを中心としたソロユニット〈HAAS a.k.a. Hiroshi Takano〉を始動させる。数年間のワークスからコンパイルしたインストアルバム『Calm/hibinohibiki』をカセットとBandcampでリリース。写真と⾳の展覧会〈Calm/hibinohibiki〉を目黒区のギャラリー・JULY TREEにて開催。11月にアルバム『Modern Vintage Future』リリース、随筆集「続く、イエロー・マジック」を上梓。多方面で精力的に活動を行なっている。