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進化したトラック・メイキングと、オルガニック・サウンドの融合

 黒田卓也が、約2年半ぶりのフル・アルバム『Everyday』をリリースする。トラック・メイキングと、スタジオでのミュージシャンのオルガニック・サウンドの融合に挑んだ『フライ・ムーン・ダイ・スーン』は大きな成功を収め、パンデミックが明けてからの黒田は、アメリカ、ヨーロッパ、日本で精力的なツアーとレコーディングを繰り広げ、コラボ作品、EP、サウンド・トラックを次々とリリース。黒田自身が「キャリア史上、最も多忙だった」と語る、充実した日々を過ごしていた。

黒田卓也 『EVERYDAY』 PPK/ユニバーサル(2025)

 その最中で、レギューラー・ドラマーだったアダム・ジャクソンが、パンデミックでテキサスへと移り、その後任として、バンド・メンバーのクレイグ・ヒル(テナー・サックス)のグループに参加していた、デイヴィッド・フレイザー(ドラムス)を起用した。フレイザー自身、ドラムをプレイしながら、トラック・メイキングにも精通しており、この数年でトラック・メイキングの技術を向上させてきた黒田と意気投合し、ニュー・アルバムのタイトル・チューンの“Everyday”と、“Car 16 15 A”を制作する。確かな手応えを掴んだ黒田は、フル・アルバムのレコーディングを決意した。「デイヴィッドが、このアルバムの最大の貢献者。彼がいなかったら、このアルバムはできなかった」と、絶大な信頼を寄せている。

 『フライ・ムーン・ダイ・スーン』では、黒田は「自ら制作するリズム・トラックに、自信が持てた」と話す。今回も、まず自宅でトラックを作り、それをスタジオでフレイザーと、20年来の付き合いのラシャーン・カーター(エレクトリック・ベース)に聴かせ、実際にプレイしてもらったという。「この過程の中で、トライ&エラーを繰り返しながら、驚くようなマジックが起きた」と黒田は、レコーディングを振り返る。そして黒田のリズム・トラックと、カーター、フレイザー2人のプレイを、エンジニアのトッド・カーダーが見事にシームレスに繋ぎ、この独自のビートが完成した。そのグルーヴの上で、黒田がパーカッシヴさとメロディが絶妙のバランスでブレンドされてるインプロヴィゼーションを展開し、ツアーを共にして黒田がそのメロディ・センスを高く評価しているクレイグ・ヒル(テナー・サックス)が、コントラストをなすソロを執る。アキラ・イシグロ(ギター)が、シャープなカッティングとメロディをきめる。盟友コーリー・キング(ヴォーカル)をフィーチャーした、ヴォーカル・トラックの“Must Have Known”は、「オルガニックとマシン・ビートが、最もうまく一体化した曲となり、嬉しかった」と、黒田は語る。“Bad Bye”では、黒田が発見した東京で活動するシンガーFiJAをフィーチャーして、1990年代のネオ・ソウルの空気感を醸し出している。「アルバムの5曲目の“Must Have Known”までは、プリ・プロダクションに比重がかかった曲だが、“Off To Space”からの4曲は、スタジオでのセッションをメインとしている」と解説してくれた。唯一のカヴァー曲、アイザック・ヘイズ(ヴォーカル/キーボード)の“Hung Up On My Baby”は、オリジナルもインスト曲で、ギターのラインがヒップホップで多く引用されている曲だが、黒田はあえてギターを使わず、アフロビートに乗ってメロディを慈しむようにプレイした。日本でのオーヴァー・ダビングは、FiJAのヴォーカルとともに、黒田がどうしても共演したかった、バス・クラリネットの名手である土井徳浩にお願いした。その土井のバス・クラリネットをメインにしたホーン・セクションで、2曲を収録している。

 「Everyday、毎日音楽に真剣に向かい合っているという、正直な気持ちを込めて制作した。バンドも今、最もタイトになっていると思う」と、黒田は熱く語る。3月からは、アルバム・リリース・ツアーも始まる。この成熟したバンド・サウンドが、どのような新たな地平を見せてくれるのかが、期待される。

 


黒田卓也(Takuya Kuroda)
1980年兵庫県生まれ。12歳からトランペットを始める。1996年から神戸や大阪のジャズ・クラブでの演奏活動をスタート。2003年に渡米。ニューヨークのニュースクルール大学ジャズ課に進学。2005年ブルックリン在住の日本人ミュージシャンを中心に、チキン・グレイビーを結成。2011年、ホセ・ジェイムズ・バンドに参加し、ワールド・ツアーに同行。2014年、USのブルーノート・レーベルよりホセ・ジェイムズのプロデュースでアルバム『ライジング・サン』でメジャー・デビュー。ホストを務める音楽大忘年会〈aTak〉を渋谷とNYで開催。

 


LIVE INFORMATION
TAKUYA KURODA “EVERYDAY”

2025年3月5日(水)大阪・Yogibo META VALLEY
開場/開演:18:45/19:30

2025年3月7日(金)東京・LIQUIDROOM
開場/開演:18:15/19:00

2025年3月8日(土)高崎・高崎芸術劇場(スタジオシアター)
開場/開演:17:15/18:00

2025年3月9日(日)東京・ BLUE NOTE TOKYO
[1st]開場/開演:15:30/16:30
[2nd]開場/開演:18:30/19:30

■出演
黒田卓也(トランペット)、クレイグ・ヒル(サックス)、コーリー・キング(トロンボーン)、泉川貴広(ピアノ/キーボード)、ルーベン・ケイナー(ベース)、ジェイレン・ペティノー(ドラムス)

https://www.bluenote.co.jp/jp/lp/takuya-kuroda-2025/