現在最も注目されているサックス奏者、西口明宏が、7年ぶりのリーダー・アルバム『FOTOS』をリリースする。西口のサックスとフルートに、ジェームス・マコーレー(トロンボーン)、ハクエイ・キム(ピアノ/キーボード)、マーティ・ホロベック(ベース)、吉良創太(ドラムス)というクインテット編成で、バンド名も〈FOTOS〉だ。全曲を作曲し、コンポーザーとしても進境著しい西口にたっぷりと話をしてもらった。

Akihiro Nishiguchi Group 『FOTOS』 APOLLO SOUNDS(2020)

 

多忙なサックス奏者が結成した新クインテットFOTOS

――〈FOTOS〉はどのようにして始まったんですか?

「2年前にカルテットでやったライブがすごくいい感じで、それからカルテットでやっていたんですけど、僕は他の人のクインテットへの参加が多いこともあって、クインテットでもやりたいな、と思ったんです。

たまたまトロンボーンのジェームスが日本に移住することになって、彼の音楽性を尊敬していたこともあって、ジェームスにお願いしてクインテットにしました。他のメンバーはカルテットと同じです」

――リーダー・アルバムは7年ぶりですね。

「ここ数年、ありがたいことにいろんなサポートに呼んでいただいたり、企画にかかわらせていただいたりして、自分のプロジェクトをすっかり忘れてたんですね。

〈デトロイト・ジャズ・フェスティヴァル〉にトリオで出たのは2017年で、実はあのときもNYでピアノのレオ・ジェノベーゼを入れたカルテットで録音していたんですけど、ちょっと突貫工事的な録音だったし、自分の中で考えが変わったこともあって、出しませんでした。いつかは日の目を見ることもあるかもしれませんが」

『FOTOS』トレイラー

 

オリジナルなジャズ志向のオーストラリア出身プレイヤーたち

――クインテットのメンバーについて教えてください。まずはハクエイ・キムさん。

「ハクエイさんとは10年ぐらいの付き合いですね。僕が東京に出てきたときからで、2枚目のリーダー作(2013年作『PINGO』)でも演奏していただき、ハクエイさんのプロジェクトにもいろいろ呼んでもらって、公私共になかよくさせてもらっています。音楽性の共通点も多いし、すごく影響を受けている、ミュージック・パートナーという感じですね。

僕のバンドではシンセサイザーやローズが中心なんですが、彼はもともとキーボーディストなので、ピアニストとしてのハクエイ・キムとは違う面を出していただければと」

――トロンボーンのジェームスとベースのマーティはオーストラリア人です。ジェームスと共演のきっかけは?

「ジェームスに出会ったのは1年半ぐらい前ですね、彼は前からちょくちょく日本に来ていて、(石若)駿くんのプロジェクトに参加してたりしたので顔見知りではあったんですが、日本に移住して、カルテットのライブに来てくれたので一緒にやってみよう、と。

僕は黒田(卓也)さんのバンド・aTakでやったり、もともとビッグバンドをやったりしていたので管楽器のアンサンブルが好きなんです。初めてですね、自分のバンドで2管でやるのは。

テナーとトロンボーンの2管編成ってあんまりないじゃないですか。ソニー・ロリンズがやってましたけど。僕はソプラノ・サックスも吹きますが、ソプラノとトロンボーンのハーモニーもとてもいい響きなんですね」

――ベースのマーティは、今や日本のジャズ・シーンの中心にいるという感じです。

「マーティは知り合って3〜4年ですか。彼なしでは日本のジャズが回らないんじゃないですかね。

オーストラリア組って、日本のジャズ・シーンに大きな影響を与えたと思います。アーロン・チューライから始まって、その後何人もが日本に来るようになって、ちょっとくすぶっていたシーンにばーん、と風穴を開けたみたいな感じですね。

ハクエイさんもシドニーにいたことがあって、共通の知り合いはたくさんいるようですね。ハクエイさんの先生のマイク・ノックというピアニストはオーストラリアではレジェンドですし。

あと、彼らとハクエイさんは音楽性も似ていますね。アメリカのジャズをリスペクトしつつも、それとは違う個性、音楽性を編み出そうとする、というのがオーストラリア的なのかな」

(左から)マーティ・ホロベック、ジェームス・マコーレー、西口明宏、吉良創太、ハクエイ・キム

――アメリカのミュージシャンとオーストラリアのミュージシャンとの違いは?

「僕はアメリカに6年間住んでいたのですが、オーストラリアのミュージシャンはオリジナリティーに対する意識が強いかなと感じます。

彼らに、なんでアメリカじゃなくて日本に来たの?と訊いたことがあったんです。そうしたら、日本のジャズに興味があって来たんだと言われて、納得したんですよ。たとえばフリー・ジャズ的なものについて、日本には菊地雅章さんとか富樫雅彦さんとか、オリジナルな表現をするすばらしいミュージシャンがいて、そういうところに興味があったというんですね。アメリカのミュージシャンにとって、〈ジャズの伝統〉というのは強いですよね。

いろんな角度でジャズを見ることができると思うけど、僕らがジャズを見ている角度と、オーストラリア人がジャズを見ている角度はもしかしたら近いのかもしれませんね」

――ドラムスの吉良さんの演奏もすばらしいですね。

「吉良くんは飛ぶ鳥を落とす勢いで、大西順子さんのバンドにも入って、すばらしいですよね。彼はもともとパーカッショニストなんですよ。

ストーリーの展開のしかたがすごい好きで、もちろん彼のグルーヴも大好きです。吉良くんとはブルーノート創立75周年のイベントで出会って、いいドラマーやな、と思ってお願いしたんだと思います」

※2014年のライブ〈Blue Note Record's 75th Anniversary Year BLUE NOTE plays BLUE NOTE〉