
ソウルやファンクへの愛をようやく自分の音楽にできた
――なるほど、このアルバムにはいろんなドラマがあるんですね。でも、アルバムを初めて聴いた時は驚きました、宅録ではあるけれど、60~70年代のポップスを思わせるサウンドで様々なアイデアが詰め込まれている。ロックンロール、サイケ、ソウル、ディスコなど音楽性も多彩です。
「音は多くなるだろうな、と思ってました。でも、ギターとベースとドラムでしっかり支えていれば、どれだけ音を乗せても大丈夫だという確信があったんです。
当時2人でGYRO, What’s The Frequency?を始めた時に、いちばんよく聴いていたのがBUDDHA BRANDの『病める無限のブッダの世界~BEST OF THE BEST(金字塔)~』で、彼らのサウンドを生でやったらどうなるんだろう、と思っていろいろ試してはいたんです。生音をサンプリングして作った音をもう一回生にしてから録る。それって結局のところ自分でエンジニアリングまでしてみないと効果を実感できないことだったのかもしれません。で、結果的に今回のレコーディングを通じて、全ての面でこれまででいちばん納得できましたね。
そして、サウンド的にイメージしていたのはフォー・トップスの『Meeting Of The Minds』です。大好きなアルバムなんですよね。腕利きのスタジオミュージシャンが集められて、プロのソングライターが作った曲を、バカみたいに歌が上手い人が歌う、というショウビズのシステムの中で生まれたアルバムなんですけど魅力満載なんですよ。ギタリストとして真似したいリフがあってグルーヴも最高。聴けば聴くほど発見があるけど散歩のBGMとしても気軽に聴ける。どんな用途でも楽しめるアルバムなんです。あと、自分がブラックミュージックが好きというのもあって」
――そういうところはジャック達ではあまり出していませんでしたね。
「ジャック達のメンバーはイギリス派が多いんですよ。俺は完全にアメリカ派。もともと好きだったのはソウルやファンクで、面影にいたのもそういう流れだったし、面影に憧れて始めたのが極楽トレインなんです。自分がブラックミュージックが好きだったことを、このアルバムでもう一度思い出せました」
――アルバムに収録されている“諦念”や“SYNDROME”にはブラックミュージックへの憧れがストレートに出ていますね。
「“SYNDROME”の下敷きになっているのは、スライ&ザ・ファミリー・ストーンとリトル・フィートなんです。そこにPファンクも少し入っている。
こういう音楽は20代の頃から作っているつもりでいたんですけど、今回、曲をある程度のボリュームでまとめて作ってみて、昔は全然やれてなかったなって改めて思いました。それがやれるようになったのはキャリアもあると思うけど、自分で録音して編集できるようになったことも大きいと思いますね。そして、トシさん、原さん、マヒトさんの組み合わせもすごく良かった。3人ともブラックミュージックをちゃんと聴いてきてるので」
――マヒトさんが入れるホーンやシンクラヴィアの音色がまた良くて。
「マヒトさんからは、思いもつかないような音がいっぱい飛んできました。最初、マヒトさんに〈ホーンはいらない〉って言ってたんですけど、ホーンの音色も使い始めて百花繚乱になってしまって。こんなにいっぱい音をもらってどうしようかな、と思ったんですけど、全てのトラックが素晴らし過ぎて消す音がひとつもないから全部使いました。
“そう思えば”という曲では〈スティーヴィー・ワンダーみたいな雰囲気で〉とマヒトさんに伝えたんですけど、マヒトさんは〈この曲はビートルズです。曲が呼んでいるから仕方ありません〉って音を重ねてくれて(笑)。マヒトさんは“Hey Bulldog”あたりを思い出したのかもしれませんが、マヒトさんはこっちがイメージしていたものより何倍も良い形に仕上げてくれました」

キース・リチャーズもミック・テイラーもジ・エッジもジョージ・ハリスンも召喚
――キハラさんのギターも百花繚乱というか、いろんなプレイを盛り込んでいますね。
「自分の中にいろんなギタリストがいる、というか、好きなギタリストがいっぱいいるんです。たとえば“JUST A TWO OF”は、キース・リチャーズがいて、ロン・ウッドがいて、トム・ヴァーレインがいて、U2のジ・エッジがいる、というイメージで弾いてます。でも、フレーズをコピーするというのではなく、自分が思うキースやジ・エッジで演奏するので結局は自分の音色になっているんですけどね」
――曲によっていろんなギタリストが召喚される(笑)。“アゼトウナ”のスライドギターは?
「スライドでいちばん影響を受けたのはミック・テイラーなので、70年代にローリング・ストーンズでミックが弾いていたスライドの雰囲気を意識しながらも、南部っぽい曲なのでジョージ・ハリスンも入りつつ、The Street Slidersの蘭丸のフレーズもブチ込んでます(笑)。スライダーズも大好きだったんですよね」