心に刺さる歌がグラミーに2年連続でノミネートされ、アルバムも世界中で大ヒット、待望の初来日公演はすでにソールドアウト――ついに本邦デビューを果たしたグレイシー・エイブラムスとは何者なのか?
愛される親しみやすさ
スターダムに向けてまっしぐら。いまもっとも輝いているアーティストのひとりであるグレイシー・エイブラムス。音楽界の面々はいち早く彼女の才能に気づいていたようで、すでに2年連続でグラミー賞にノミネートされている。だが、日本のリスナーたちも侮れない。ちゃんとアンテナを張っていたようで、日本デビュー前に発表された4月の初来日公演は、あっという間にソールドアウト。海外アーティストの新人としては異例の早さと熱さで歓迎されているようだ。
2024年6月に発表された彼女のセカンド・アルバム『The Secret Of Us』は、本国USで2位、UKで1位を記録するなど、世界を席巻した。今回の日本デビュー作となるその〈Japan Edition〉には、オリジナル盤収録の13曲に、8曲を追加。本作を耳にすればグレイシーの魅力や、なぜこれほど期待が寄せられているのかが一聴瞭然でわかるのではないかと思う。
もちろんルックスも、その大きな要因だ。スラリと伸びた手足に、モデルのような出で立ち。清楚でスタイリッシュで、男女を問わず憧れずにはいられないスター性を備えている。とはいえ、高嶺の花ではなくて、気さくで親しみやすい雰囲気を纏っているのが魅力的だ。そうした魅力は彼女の音楽性にも共通する。誰もが自然に惹かれる素朴さと、素直に共感できるわかりやすさが特長だ。リスナーの嗜好とは関係なく、誰もが楽しめる音楽。それでいて俗物的な使い捨てではなく、清らかさや高潔さも持ち合わせている。
さらに彼女にはテイラー・スウィフトという強力な味方も付いている。グレイシーの注目度がここまで高まった要因のひとつとして、テイラーとの友情を抜きには語れないだろう。音楽的にもテイラーからの影響は公言されていて、なかでも近作のフォークやインディー・ポップからの遺伝子を受け継いでいる。しかもテイラーを取り巻く人々とも、あちこちで密接に繋がっている。
共作者/プロデューサーとして本作の最大の協力者であるアーロン・デスナー(ザ・ナショナル)は、テイラーの『folklore』(2020年)から最新作『THE TORTURED POETS DEPARTMENT』(2024年)までに関わってきた重要人物。テイラーやサブリナ・カーペンターを手掛けるジャック・アントノフも同様で、ジャックやサブリナ、グレイシーは、いずれもテイラーの最新ツアー〈The Eras Tour〉にゲスト参加した、言わば身内のような存在だ。レコーディングに参加したボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンもテイラーとは共作/共演している。また、発表されたばかりの“Call Me When You Break Up”は、テイラーの大親友であるセレーナ・ゴメスとそのフィアンセのベニー・ブランコとグレイシーによる3者の共演曲だった。さらに、グレイシーが“Everywhere, Everything”で共演したノア・カーンと、テイラーはいつコラボするのだろう?とファンが待ち構えている状況だ。
そんなグレイシーとテイラーは、『The Secret Of Us』に収録の“us.”で共演を果たしている。その曲作りの様子は、彼女がInstagramにアップした動画でも確認できる通り、お酒を飲みながらテイラーのNYのアパートで制作していたら、キッチンの蝋燭が燃え上がり、消化器で消し止める様子まで記録されている。両者が仲良く制作した“us.”はグラミー賞の最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス部門にノミネート。〈The Eras Tour〉の終盤にはステージ共演も実現した。なお、そのツアーの2023年の初期にもオープニング・アクトを務めたグレイシーは、そのツアーに参加したことが大きな転機になったと語っている。オーディエンスの規模もさることながら、いかに説得力をもってリスナーに伝えるかという点で格段に飛躍を遂げている。