現在ではハイエイタス・カイヨーテを筆頭に、ソウル~R&B/ジャズをモダンに折衷した音楽性を持つアーティストやバンドが少なからずいるオーストラリア。そのなかで、ハイエイタスに続く存在としていま注目を集めているのが、ブリスベン出身で現在はロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライターのジョーダン・ラカイだ。

2013年のEP『Franklin’s Room』以降、自身の作品を発表する一方で、FKJやディスクロージャー作品など多数のフィーチャリング仕事を通じて認知を広めてきたジョーダン。ネオ・ソウル的なサウンドを基調にしつつ、レゲエやアフロ風味なリズムなどを柔軟に採り入れた音楽性で、昨年6月にリチャード・スペイヴン(ドラムス)をゲストに迎えたことも注目を集めた初アルバム『Cloak』を発表、9月には日本盤化も果たした。そんな同作を携えて世界各地をツアーしている彼が、3月14日(火)、15日(水)に東京・COTTON CLUBで初の来日公演を行うことが決定。それに先駆けて、ここではジョーダン・ラカイのこれまでの音楽キャリアを振り返ってみたい。 *Mikiki編集部

JORDAN RAKEI 『Cloak』 Soul Has No Tempo/Pヴァイン(2016)

 

ダビーでエクスペリメンタルなスタイルの萌芽

昨年9月に日本国内でのリリースが実現したジョーダン・ラカイのデビュー・アルバム『Cloak』を取り巻く世評は、彼が包含する多様な魅力をそのまま映し出しているかのようだった。ジョーダンを賞賛する声と共に引き合いに出されていた主なアーティストは、ディアンジェロ、ハイエイタス・カイヨーテ、キング、ロバート・グラスパー、ジェイムズ・ブレイク、ジェイミー・ウーン、サム・スミスなど――要するにこのジョーダン・ラカイという男は、ネオ・ソウルの現在を体現すると同時に、いまをときめくイギリスのソウルフルな男性シンガー・ソングライターたち(サム・スミスは2015年3月に自身のTwitterで〈Big big fan of your work〉とジョーダンにメンションを送っている)、そして新世代のジャズ・アクトとも共鳴する感覚を持ち合わせているのである。

「僕はあらゆる音楽が好きなんだ。どんな音楽に惹かれたかを告白することはアーティストにとって少々危険を孕んではいるけれど、影響を受けた順でいうと……スティーヴィー・ワンダー、ボブ・マーリー、マイケル・ジャクソン、ア・トライブ・コールド・クエスト、ファット・フレディーズ・ドロップ、レディオヘッド、ディアンジェロ、ロバート・グラスパー、ニック・ハキム。彼らはずば抜けて素晴らしいアーティストだよ。でも、いま挙げたものとはまったく違うタイプの音楽やアートからもたくさん影響を受けていると思う」。

『Cloak』収録曲“Rooftop”

ニュージーランドで生まれ、オーストラリアはブリスベンで育ったジョーダンは、2013年夏に同郷のユニット、イエスユー(YesYou)の“So Much To Give”で初レコーディングを経験後、同年9月にEP『Franklin’s Room』でデビューを果たしている。同作のBandcampのページには〈r&b / soul〉〈soul〉〈hiphop〉〈neosoul〉などに加えて〈reggae〉のタグが付けられているが、収録曲の半分となる“Selfish”から“Living In The Past”に至る3曲では心地良いレゲエ・ソウルを展開していて、現在のジョーダンのシグニチャーであるダビーでエクスペリメンタルなスタイルの萌芽はすでにこの時点で聴き取ることができる。

「当時は音楽学校を卒業してはみたものの、どうやってミュージシャンのキャリアをスタートさせればいいかわからなかった。それで曲を6曲書いて、それらすべてを『Franklin’s Room』としてリリースしたんだ。あれは自分で書いてプロデュースした最初の6曲だった。僕にとって、プロダクションと作曲を行うのはごく自然なことなんだ。そうすることによって、自分の歩んできた道を振り返ることができるのはいいよね。あのとき僕はまだ19歳だったし、ただ純粋に音楽を求めている感じだった」。

2013年作『Franklin’s Room』

2013年作『Franklin’s Room』収録曲“My Time”

ジョーダンの転機はFKJ“Learn To Fly”やユーモ(Yumo)“Liquid”への参加を経た翌2014年8月、セカンドEP『Groove Curse』のリリースと共に訪れる。スクールボーイQ“Collard Greens”やフォーリン・エクスチェンジ“Can’t Turn Around”への客演で知られるグウェン・バンをフィーチャーした“Street Light”、そして敬愛するア・トライブ・コールド・クエストに向けた粋なトリビュート曲“A Tribe Called Goverment”など、わずか1年で劇的な進化を遂げたジョーダンの深遠なソウル表現は、インターネットを中心に高い評価を獲得。ルイス・ベイカー“Just Want To Thank You”やLHA“Hyperspace”など、客演も徐々に増えつつあった彼はこの好機に乗じてロンドンへの移住を決意する。

FKJの2014年のEP『Take Off』収録曲“Learn To Fly”

「曲を作るときの絶対的な手法みたいなものはないんだ。『Groove Curse』にしても、そのとき好きだったことを書いて、そこからベストな5曲を選んだだけ。『Groove Curse』はヒップホップ色が強いから、制作中もすごく楽しかったよ。バッキング・ヴォーカルについての探究もしたし、自分のギターに対する愛情にも気付くことができた。ロンドンに拠点を移してからの変化は、もちろんすごくあったよ。ここに移ってきたことによって、音楽を作るうえでの優先順位が変わった気がするんだ。以前は、ただ音楽を作ってパフォーマンスすることだけだった。でも、いまは聴いてくれる人たちに良い影響を与えたい。自分のいまの環境も変えていきたいと思ってるよ」

2014年作『Groove Curse』