2025年最大の〈新人〉が拓く、オーディオ/ビジュアルの新領域

 前世紀末のリリースながら世界各地でいまなお熱狂的な支持をあつめるプレイステーション用ソフト「LSD」、そのプロトタイプとしての「東脳」など、類例のないゲーム世界を提示するともに、サウンドアーティストとしても継続的に作品を世に問うクリエイター、佐藤理と、METAFIVEやpupaのメンバーをつとめ、YMOをはじめ、幾多の客演、サポートワークで八面六臂の活躍をみせる作曲家で金管楽器奏者のゴンドウトモヒコの新ユニット〈LIG〉のデビュー作『Love Is Glamorous / Life Is Gorgeous』は2枚組、初回盤だと24ページのブックレットがついてくる。全20曲、1曲ごとのサウンドイメージを図像化した佐藤のグラフィックは記号と形態と色彩が複雑に構造化している、それらに見入りながら、非パッケージ化がすすむご時世に豪華ですね、と水を向けた私に、佐藤は「新人なのに」と言葉を返した。

LIG 『Love Is Glamorous / Life Is Gorgeous』 ソニー(2025)

 先に述べたキャリアをふまえるまでもなく、 軽々しく「新人」などとは呼べないふたりだが、近年の佐藤のソロライヴへのゴンドウの客演が発端だという来歴をとると、フレッシュさはいまだ褪せぬものとみえる。

 「そもそものきっかけは僕がライヴをはじめ、いろいろやっていたときにゴンちゃんをサポートで呼んでいたんですけど、回数を重ねていくうちにゴンちゃんの曲もやろうよ、ということで〈withゴンドウ〉だったものを並列にしたんです。並列になってゴンちゃんの曲とかMETAFIVEの曲をアレンジがえしたりYMOの曲をやったりするうちに、どうせなら新しいユニットをつくってどこかで出すような方向にもっていこうか、というような話をしたんです」

 佐藤+ゴンドウの音源上での初顔合わせは2017年佐藤のソロ『ALL THINGS MUST BE EQUAL』へ遡る。その後、佐藤が10数組におよぶコラボレーターとの共作をものした2020年の『GRATEFUL IN ALL THINGS』でも“GROUND S”と題した楽曲を連名で収めている。上の発言はその後、ライヴ活動を本格化する過程で佐藤がおぼえた手応えのようなものだが、相方のゴンドウの目(と耳)に佐藤とのライヴの場はどのように映っていたのか。

 「カラオケ的なトラックにラッパを吹くのはハードルが高いですが、生の音とエレクトロニクスがひとつの作品として聴いている方に届くようなものであればいいと思うんです。ふたりだと佐藤さんは楽器を弾くわけでもないですから、演奏している姿がみえるのはどうしても僕なんです。それもあって、この曲で(管楽器を)吹いてもな、という場合はパーカッションを演奏することもあるんですが、そういう曲でも僕は演奏していて楽しいし、ということはお客さんもきっと面白いだろうし、バックには映像も流れているし、これならいけるのではないかと思ったんですね」

 テクノやエレクトロニカ、広義のエレクトロニックミュージックに分類可能な音楽性でありながら、この種の形式に特有の構想ないし観念に偏ることなく、生の場で触知したものを循環する──。

 後日、お茶の水のRITTOR BASEで開催したライヴの、しなやかでたくましい音像を目あたりにするにいたり、なぜゴンドウがLIGのスタイルについて述べるにあたり、ライヴの場をひきあいに出したか得心した。舞台後方のスクリーンには映像が投射してあり、それがサウンドと同期することで楽曲のイメージは何層にも膨らんでいく。立ち位置は上手にゴンドウ、下手に佐藤。ユーフォニアムとフリューゲルホルンをかわるがわる手にとり、ときに電化パーカッションを奏するゴンドウの演奏がやはり目を引くが、佐藤のテルミンやカオシレーターが発する響きもライヴらしい一回性をつよく喚起した。聞けば、スクリーンに映し出す映像でもフレキシブルに操作可能なストックが多数あるとのこと。細部に変数を埋め込めば、パフォーマンスのイメージもおのずと変質する。そのような流動性とも可塑性ともいうべきものもLIGのポテンシャリティの一端をなしている。