多くのゲストと共に、さらなる拡張を見せたエキゾティシズム。初のヴォーカル・アルバムとなった新作には、音楽を媒介としてさまざまな境界を曖昧にする、いくつもの〈Secret Life〉が映し出されていて……

境界を曖昧に

 古いビデオテープから音楽や映像をサンプリングし、独自の表現を生み出すVIDEOTAPEMUSIC。彼はサンプリングした音の背景や文脈もコンセプチュアルに作品に取り込むことで、聴く者の想像力を掻き立てるサウンドを生み出してきた。そんななか、新作『The Secret Life of VIDEOTAPEMUSIC』は初めての歌ものアルバムだ。横山剣(クレイジーケンバンド)、折坂悠太、高城晶平(cero)、ロボ宙、mmm、カベヤシュウト(odd eyes)、メロウ・フェロウ、キム・ナウン、周穆(Murky Ghost)など、曲ごとに国境や世代を越えた多彩なシンガーをフィーチャー。演奏陣としてもDorian、エマーソン北村、TUCKER、角銅真実などさまざまなミュージシャンが参加している。この新たな挑戦について、彼はこんなふうに語ってくれた。

VIDEOTAPEMUSIC The Secret Life of VIDEOTAPEMUSIC KAKUBARHYTHM(2019)

 「自分の音楽制作の出発点って、個人的な楽しみに過ぎなかったんです。リスナーは意識せず、頭に浮かぶイメージをもとにジオラマを作るみたいにひとりで宅録していた。でも、音楽活動を続けているうちにいろんな人と関わるようになって。僕はすごく人見知りなんですけど、音楽を通じてならコミュニケーションができるようになってきた。そういうところに今、真剣に取り組んでみたいと思ったんです」。

 思えば前作『ON THE AIR』は、VIDEOTAPEMUSICの視点で郊外の風景を切り取った作品。どこか私小説的なテイストを感じさせる一枚だったことを考えると、多様なアーティストとコラボレートした本作は、真逆のアプローチと言えるかもしれない。今回、彼は歌唱だけではなく歌詞もゲストに依頼している。

 「歌詞に関しては、アーティストによっていろんなテーマを投げたんです。その依頼内容を混ぜて歌詞にしたのが1曲目の“教えて”。例えば〈あなたの知ってる夏を教えて〉とか〈あなたの見た色を教えて〉みたいに、質問を投げ掛けることで、それぞれのパーソナリティーが曲に反映されるようにしました」。

 自分が書いた曲に、自分のなかにはないイメージや言葉が乗ることで楽曲に新しい命が宿る。それがこのアルバムのおもしろさだ。そのイントロダクション的な“教えて”はVIDEOTAPEMUSIC自身が歌っているが、2曲目の“南国電影”では横山剣がヴォーカルを担当。この曲は、古本屋で見つけた同タイトルの古い映画雑誌から想像を膨らませて作ったという。

 「英語、中国語、タイ語の3つの言葉で書かれた雑誌なんです。恐らく香港で出版され、アジア各地で読まれていた雑誌だと思うのですが、その雑誌をスキャンしたデータを剣さんに送って、そこからインスパイアされたことを自由に歌詞にしてもらいました。その際に〈東南アジアのB級映画の世界観で、かつ、いろんな言語が入っている歌詞にしてほしい〉とお願いしたんです。オープニングのブラスのフレーズはメキシコのビデオから。途中の中国語の声は香港映画からのサンプリングで、この曲にはいろんな要素を入れ込みました。目一杯に詰め込んでも、剣さんならうまく乗りこなしてくれるんじゃないかと思って」。

 そんな狙い通り、横山剣の独特の節回しがCKBスパイスを振り撒いて、東南アジアの雑踏に紛れ込んだような熱気が充満するナンバーに仕上がった。続く“Stork”を歌うのは折坂悠太。ここでは折坂の歌声を生々しく聴かせるミックスが印象的だ。

 「折坂さんと対バンした時、歌声にピンときて依頼したんです。この曲では、折坂さんの境界が揺らぐような歌声――音符だけじゃ表せないような節回しを活かしたミックスにしようと思いました。今回のアルバムはそれぞれのヴォーカルを活かしたミックスにしようと考えていて、曲ごとに方向性がバラバラでオムニバスっぽくなってもいいと思って。そうやって歌声を曲の中心に据えて、そこに引っ張られることで、自分の手癖を越えるような曲を作りたかったんです」。

 ちなみに〈Stork〉とは〈コウノトリ〉のことで、この曲はギリシャ国境に暮らす難民たちを描いた映画「こうのとり、たちずさんで」に着想を得て生まれたもの。国境を越えることを許されず苦しんでいる難民たちの物語に、今の断絶された世界が映し出しされているように感じたという。

 「でも、音楽なら国境みたいに人が勝手に引いた線を越えることができる。いろんな境界を曖昧にする力があると思ったんです。それがこのアルバムのテーマ的なものでもあるんですけど、折坂さんの歌声だったら身軽に人が行けないようなところまで飛んでいける気がしたんですよね」。

 

さまざまな〈Secret Life〉

 自分と他人の境界、自分と世界の境界を音楽で溶かす。その〈融け合う〉というテーマをサウンドとして体感できるのが、高城晶平がヴォーカルを担当した“PINBALL”だ。ラップ、歌、サンプリング、演奏……すべてが立体的に融け合った官能的な音響空間が生み出されている。

 「前作から音の境界が溶けるような音作りをやろうとしてたんですけど、この曲は僕が意図していた音像が完璧に出来た曲で、出来映えが予想以上で戸惑ったくらい(笑)。これまで僕の音楽の考え方って平面的だったんですよ。油絵をやってたというのもあると思うんですけど。それが今回、ようやく三次元的に音を混ぜられるようになりました」。

 また、曲の構成でユニークなのが“You Drive Me Crazy”だ。マンボのリズムをベースにして曲の前半はガレージ・サーフ風だが、途中からテンポが変わって中国語のラップが入るという不思議な展開。この曲はVIDEOTAPEMUSICの実体験がベースになっているという。

 「台湾でタクシーに乗ったら、映画のカーチェイスみたいにめちゃくちゃ飛ばす運転手で。しかも、現地のラッパーのトラップをガンガンかけてたんですよ。命の危険を感じるような状況だったんですけど、窓の外を流れて行く街のネオンとかそこで流れている台湾のトラップとか、いま自分が体験していることを曲にしたらおもしろいんじゃないかと、タクシーの中で震えながら思ってたんです(笑)。それでこういう曲になりました。参加してもらった台湾のラッパー、周穆には、そういう曲の成り立ちを説明して〈あなたが過ごした台湾の夜の景色とか夜の匂いみたいものをラップで入れて下さい〉ってお願いしました」。

 つまり、この曲では音楽のジャンルだけでなく、二人のアーティストの体験が融け合っているというわけだ。彼は「ビデオのサンプリングやフィールド・レコーディングを扱うようにゲストと向き合いたかった」とも言うが、本作では彼らの歌声だけではなく、その人物の背景(記憶や感覚)も曲に取り込んでいる。そうすることで曲の奥行きやイメージの広がりは一段と増して、これまでVIDEOTAPEMUSICがひとりで作り上げてきた音のジオラマに、生々しい温度や感情が生まれた。それはVIDEOTAPEMUSICのサウンドにおいて画期的な変化だ。

 「新作のタイトルは大好きなアルバム、スティーヴィー・ワンダーの『Journey Through The Secret Life Of Plants』を意識してるんです。これは一般公開されていない映画のサントラなんですけど、映画や音楽にはあまり世に知られないまま消えていくものがある。今回のアルバムは、もし僕が訊かなかったら引き出せなかったようなゲストの個人的な体験や記憶をアルバムに盛り込みたくて。僕だけじゃなく、いろんな人の〈Secret Life〉がこのアルバムに入っているんです」。

 音楽、言葉、土地、記憶……さまざまな要素が融け合い、重層的に混ざり合うことで生まれた、特定のジャンルに収まらないエキゾティシズム。そして、それを不思議な心地良さで聴かせるストレンジなポップセンスと極上のメロウネス。人やモノを隔てる境界がなくなった『The Secret Life of VIDEOTAPEMU­SIC』は、音楽だからこそ作り上げることができたビザールな楽園なのかもしれない。

VIDEOTAPEMUSICの作品。

 

『The Secret Life of VIDEOTAPEMUSIC』に参加したアーティストの関連作品。

 

VIDEOTAPEMUSICのエキゾ世界を拡張したシンガーたち

クレイジーケンバンド PACIFIC ユニバーサル(2019)

ソウルに昭和歌謡、ラテン~ボサノヴァなどを自在に折衷してきたCKBにおいて、聴き手を未知の場へ引き込むエキゾな感覚はとりわけ重要なエッセンスであり続けてきた。そんな志向は、VIDEO­TAPEMUSICがリミックスで参加した最新作のタイトルにも見い出せるのでは? *澤田

 

折坂悠太 平成 ORISAKAYUTA/Less+ Project.(2018)

平成元年生まれのシンガー・ソングライターは、この初アルバムでジャズ的なアンサンブルにアメリカーナやブラジル音楽、日本の民謡~唱歌までを織り込んだ独自の音世界を提示。幅広いジャンルと接続する多面性を備えた、無国籍でユニヴァーサルなフォーク・ミュージックがここに。 *澤田

 

Parasol 何でもない人 LWM/AWDR/LR2(2017)

過去には〈カクバリズムの夏祭り〉にも出演した韓国のインディー・サイケ・バンド。本作でミツメやシャムキャッツらとも交流があることにも納得のシンプルなポップセンスを発揮したトリオのギタリスト兼ヴォーカリストは、その歌声で“ilmol”のサウンドが孕むメロウネスを体現している。 *土田

 

ロボ宙 SCRAPPIN OMIYAGE(2017)

スチャダラパーのライヴ・サポートなど数多の客演でも知られるヴェテランMC。この15年ぶりのソロ作では、ブラジリアンやレゲエ、ラップ古典のカヴァーなど、盟友たちが担ったカラフルなビートを取り揃え、地に足の着いたストーリーテリングで日常に寄り添うラップ作品を作り上げた。 *澤田

 

cero POLY LIFE MULTI SOUL KAKUBARHYTHM(2018)

広義のシティー・ポップとエキゾチカの交錯点から出発した3 人組は、軽やかかつ大胆な足取りで作品ごとに音楽的な冒険を重ねてきた。本作ではポリリズムも呑み込んで複雑に深化したグルーヴを、ライヴを通じて研鑽してきたアンサンブルでスムース&メロウに展開している。 *澤田

 

Murky Ghost NO BOYS ARE GODS Offtrecord(2019)

You Drive Me Crazy”にクールなラップを乗せた台湾の周穆(Murky Ghost)は、感情の起伏の小さいロウなポエトリー・リーディングで聴き手を奇怪な空気が渦巻くサイケ世界へと誘う。アーティスト名がまさに体を表していて、タブーに触れるような妖しい魅力がある。 *土田

 

odd eyes SELF PORTRAIT KiliKiliVilla(2018)

過去作にはVIDEOTAPEMUSICやceroの髙城晶平を招聘するなど、雑食的なセンスも備えるハードコア・パンク・バンド。本作ではポスト・パンク調の鋭利なリズムを採り込みながらも、オーセンティックなハードコアとして成立させているのが新しい。その姿勢は何よりも実直な言葉に表れている。 *澤田

 

MELLOW FELLOW Jazzie Robinson Deluxe Lirico/インパートメント(2018)

シンガー・ソングライター、ポロ・レイズによるこのソロ・プロジェクトは、アリエル・ピンクやマック・デマルコ以降のUSインディーの潮流に対するフィリピンからのアンサーといったところか。ソウルに由来する甘美なメロウネスが、ローファイを極めた宅録ポップに美しく滲む。 *澤田

 

mmm ほーひ kiti(2012)

ソロのほか、見汐麻衣とのデュオであるアニス&ラカンカや、アヴァン・フォークを奏でるバンド形態のマリアハトなど、さまざまなスタイルで自由なヴォーカリゼーションを操るシンガー・ソングライター。耳馴染みとしては素朴で柔らかな歌声ながら、時折ハッとするような言葉を投げ掛ける鋭さも。 *土田