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ジャン=ポール・ブロードベックとの、クラシックを巡る旅、再び

 2022年に『ショパン・プロジェクト』でコラボレーションを始めた、コンテンポラリー・ジャズ・ギターの皇帝カート・ローゼンウィンケルと、スイス出身のピアニスト、ジャン=ポール・ブロードベックのコラボレーションが、続編をリリースした。

KURT ROSENWINKEL, JEAN‐PAUL BRODBECK 『The Brahms Project』 Heartcore/Mocloud(2025)

 今回のテーマは、ドイツ・クラシック音楽で、バッハ、ベートーベンと並び三大Bと称されるヨハネス・ブラームス。ブロードベックは「私が17歳の時、教授がブラームスの“幻想曲 Op. 116”を課題として与えてくれました。10代の私にとって、この成熟した傑作はすぐに心に響きました。私の音楽的な旅の雰囲気を形作ったからです」と、ブラームスへの想いを語った。

 レコーディング・メンバーは、前作に続き2人と、ルーカス・トラクセル(ベース)、ホルヘ・ロッシィ(ドラムス)。ローゼンウィンケルが深い信頼を寄せる、ブロードベックを中心としたヨーロピアン・クァルテットが再集結した。

 ブロードベックは、「私はこのバンドのために、ブラームスの音楽を取り入れることに、大きなインスピレーションを感じました。ブラームスの作品は、接病や情熱に満ち、非常に強いリズム構造を持つことが多く、それが即興演奏の出発点として最適でした。また『ハンガリー舞曲』のような作品に見られる民謡の要素は、まるで歌のような感覚を与え、それは時代を超えたものです。私たちにとってのスタンダードとなった〈グレート・アメリカン・ソングブック〉の楽曲と同じように感じられました」と、プロジェクトを振り返る。

 ブラームスを出発点としながら、ローゼンウィンケルの、エッジの効いたギター・プレイ、ブロードベックの繊細なタッチとハーモニー、トラクセルの力強いベース・ラインと、変幻自在なロッシィのドラミングは、見事な換骨奪胎を遂げ、ブラームスを、19世紀のロマン派のクラシック音楽から、強いビート感を持ちながら、リリカルなヨーロピアン・テイストのコンテンポラリー・ジャズへと、変容させる。本来スコアがあり、その解釈で様々なアプローチを試みるクラシックの方法論から、さらに拡張したインプロヴィゼーションと、インタラクティヴなアンサンブルが、ブラームスの音楽に新たな視点を付け加えた。

 17歳のジャン=ポール・ブロードベックが踏み出した音楽的な旅が、カート・ローゼンウィンケルらとの共鳴するサウンドで、一つの高みに到達した瞬間の克明なドキュメントである。