マッスルと闇の両極
近年のTrySailは〈お祭りマッスルユニット〉を自称しており、その兆候は躍動感と可愛らしさ溢れるライヴ定番曲“Baby My Step”にも現れていたように思うが、そこに油を注いで燃え上がらせたのは間違いなく“adrenaline!!!”だろう。以降、飛び道具的な中華風エレクトロ・ポップ“Sunset カンフー”、ライヴならではの〈おふざけ感〉を落とし込んだパーティー・チューン“マイハートリバイバル”、TrySail史上もっともコミカルでカオスな怪曲“華麗ワンターン”といったライヴ特化型の楽曲が増え、それに伴いライヴのお祭り騒ぎの度合いも際限なく上昇している。
そう、TrySailの真骨頂はライヴにあると言っても過言ではない。デビュー10周年に合わせてリリースされた直近のシングル“そんな僕らの冒険譚!”でもダメ押しするようにマッスル路線を打ち出しており、TrySail自身も〈私たちは、これでいく〉と腹を決めたようでさえある。機会があれば、観る側もマッスルを酷使することになるフィジカルなパフォーマンスを体験してほしい。
もっとも、TrySailの強みはマッスルだけではない。“Lapis”はどこまでも沈んでいく陰鬱なエレクトロニカ・サウンドで、雨宮はこれを〈闇堕ち曲〉と評している。同曲はTVアニメ「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-」のエンディング・テーマで、同じく〈マギレコ〉タイアップ曲であった“ごまかし”“うつろい”にもメランコリックなムードは漂っていたが、そこからいきなり深淵へとダイヴした感がある。現時点での〈お祭りマッスル〉の頂点が“そんな僕らの冒険譚!”だとしたら、〈闇堕ち〉のどん底が“Lapis”であり、今後、マッスルの太さも闇の深さも更新されていくだろうが、その両極を表現できるのがTrySailなのだ。
また、メンバー3人によるハーモニーとユニゾンも聴きどころのひとつ。主に夏川が高音域、麻倉が中音域、雨宮が低音域を担い、とりわけ“whiz”や“azure”といった透明感のあるミディアム・チューンを鮮やかに彩っている。しかも、3人の声の調和はただ楽曲を彩るだけにとどまらない。TrySailのレコーディングは3人別々で、基本的には3人のバランスを考慮したディレクションがなされるが、ときには楽曲の解釈を個々に委ねられる場合もあり、そこで生じた解釈のズレが緩急や起伏を与えるのだという。あるいは解釈のズレという次元を超えて、1曲の中で3人が自由に振る舞い、遊び倒したからこそ、先の“マイハートリバイバル”や“華麗ワンターン”のような突き抜けた楽曲が生まれたのではないか。
もちろん自由に振る舞うには相応のスキルやセンスが求められるが、TrySailの3人は並行してソロのアーティスト活動も行っている。しかも3人とも音楽性はバラバラで、それぞれにクセが強い。具体的には、麻倉は少女マンガ的な恋愛観に立脚したキュートなポップス、雨宮は昭和歌謡とダークなロック、夏川に至っては〈声優らしさ〉に背を向けたオルタナティヴな道を志向している。各々がソロで磨いてきた個性をユニットとして表現することでTrySailの多彩さやユニークさも増幅されていったのだとすれば、『BestSail』はその10年の記録でもある。
なお、この記事では〈ALL SINGLES BEST〉収録のシングル表題曲を中心に触れてきたものの、“Sail Out”“Baby My Step”“マイハートリバイバル”“Sunset カンフー”の4曲は〈MEMBER'S SELECT BEST〉に収録のカップリング曲およびアルバム曲だ。どれもシングル表題曲と遜色なく、なかでも“Sunset カンフー”は“adrenaline!!!”“High Free Spirits”に並ぶ人気曲。この『BestSail』を〈入り口〉に、オリジナルのアルバムに触れれば、さらなるTrySailの深みにハマれるはずだ。 *須藤 輝
TrySailの作品。
左から、2016年作『Sail Canvas』(アニプレックス)、2017年作『TAILWIND』、2019年作『TryAgain』、2021年作『Re Bon Voyage』、2023年作『SuperBloom』(すべてSACRA MUSIC)