©Mike Lawrie

いま音楽界でもっとも注目されるプロデューサー、リオン・マイケルズのプロジェクトが新作を完成――ノラ・ジョーンズやクレイロ、坂本慎太郎までも招いたこの世界にはどんな音が渦巻いている?

 「自分自身の道を選び、世間でいうところの〈チャンス〉にはすべてNOと言うことに決めたんです。自分の好きな音楽、自分自身の音楽を作ることにしたんです。実際、それが結果的に僕自身の名刺代わりになってくれました。ポップスなんかをやっていたら、きっとこうはならなかったと思う」。

 何をポップスと呼んでいるのかはわからないが、独自の道を追求してきたリオン・マイケルズという存在やその音楽に、違う角度から光を当て、より多くのリスナーにその魅力を知らしめてきたのは、残念ながら(?)多種多様なポップ・フィールドの作品たちであろう。グラミーを受賞したノラ・ジョーンズの『Visions』はもちろん、クレイロの『Charm』を共同プロデュースしたことで、30年近いキャリアの持ち主にもかかわらず、この才人はいまやかつてないほど最注目プロデューサーとして認識されているのだ。デスコ〜ソウル・ファイア〜ダップトーンといったいわゆるディープ・ファンク〜ヴィンテージ・ファンク系のレーベルから出発し、マイティ・インペリアルズなどのバンドで活動してきた彼だが、そもそもその界隈をそうした古い視点だけで括ることはできない。60〜70年代のサウンドに敬意を払いながら、リオン(と仲間たち)はそうした音楽をあくまでも現代的な感覚で表現してきたのだ。

 「僕のサウンドの進化を一言で言えば、過去のレコードに根差しながらも、決して原理主義ではなく、現代のテクノロジーを肯定しているということです。僕がやっていることは新しいと思っています。過去と現在を融合させたもので、前例がないわけではないけれど、〈あの頃〉と〈今〉をうまくミックスしているんです」。

 2005年にトゥルース&ソウルを設立した際に、彼は〈シネマティック・ファンク〉を謳ったセルフ・プロジェクトのエル・マイケルズ・アフェアで初作『Sounding Out The City』を発表している。それ以前の彼はシャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスで演奏し、以降はトーマス・ブレネックやホーマー・スタインワイス、ニック・モヴション、デイヴ・ガイらと組んだメナハン・ストリート・バンドでも名を馳せ、他にもダップトーンでのオリンピアンズ、ダン・オーバック(ブラック・キーズ)らと組んだアークスなどさまざまなバンド/プロジェクトに名を連ねてきた。が、エル・マイケルズ・アフェアは常に自分自身がやりたいことを自由にやる場所として続いてきたのだろう。トゥルース&ソウルの崩壊を経てビッグ・クラウンを設立した彼はサイケやインディー方面にも及ぶ話題作を送り出し、その合間に自身の感性に従ってエル・マイケルズ・アフェアでの作品も増やしはじめていた。2023年にはルーツのブラック・ソートとのタッグ作『Glorious Game』をリリース。一方では先述したようなプロデュース作品によってリオンの作風もより広く深く認知されるようになり、ソウルやカントリー、レゲエ、サイケ、ヒップホップなどを内包したノスタルジックでシネマティックで美しい持ち味は彼のトレードマークとして定着しつつあるだろう。そんなわけで機は熟したということなのか、エル・マイケルズ・アフェアとしての待望の新作『24 Hr Sports』が堂々の完成を見た。

EL MICHELS AFFAIR 『24 Hr Sports』 Big Crown(2025)

 今回は近年のコネクションを活かし、クレイロをはじめ、ノラ・ジョーンズ、坂本慎太郎、フローレンス・アドゥーニ、ホジェー、デイヴ・ガイといった名の立ったゲストを曲ごとに多く並べたスタイルの作品になっている。なかでも予想外で驚かされるのは、洒脱な“Indifference”における坂本とのコラボだろう。他には故ラサーン・ローランド・カークのサンプルをフィーチャーした“Take My Hand”も注目だ。もちろん、秘蔵っ子のレディ・レイも要所にヴォーカルで参加しているし、バックの演奏を固めるのは相互の作品に参加し合っているホーマー・スタインワイスやトーマス・ブレネック(ホジェーの後見人でもある)、ニック・モヴションといったダイヤモンド・マインを開いた20年来の盟友たち、さらにはマルコ・ベネヴェントといった近年の仲間たちだ。彼らの演奏を確かなセンスで束ねた確かなグルーヴは、いまもっとも聴きたい作品という形で『24 Hr Sports』の世界に広がっている。 【次号へ続く】

左から、ノラ・ジョーンズの2024年作『Visions』(Blue Note)、クレイロの2024年作『Charm』(Clairo)、カリ・ウチスの2025年作『Sincerely,』(Capitol)、ホジェーの2024年作『Curyman II』(Diamond West)

『24 Hr Sports』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、坂本慎太郎の2022年作『物語のように』(zelone)、フローレンス・アドゥーニの2025年作『A.O.E.I.U. (An Ordinary Exercise In Unity)』(Philophon)、デイヴ・ガイの2024年作『Ruby』、ホーマーの2024年作『Ensatina』(共にBig Crown)