感情の表現と親しみやすさ
そんな強力すぎる連中を仲間として得て、自由奔放に想像を膨らませてみせるバーンをサポートしたもうひとりの頼もしい逸材が、グラミー賞受賞プロデューサー、キッド・ハープーンだ。ハリー・スタイルズやマイリー・サイラスの諸作でプロデュースを務め、ハイムの“Days Are Gone”の共作者などでも知られる彼は、多彩な音楽的バックグラウンドを活かした知的な遊び心を感じさせるな音作りがポップ・シーンで引っ張りだこになっているが、彼がもたらしたと思われるキラリとした閃きが全編に横溢していて、どこを切っても空気が新鮮。
先行シングル“Everybody Laughs”がその顕著な例といえよう。これまた良き音楽仲間のセイント・ヴィンセントをゲストに迎え、参加者全員が大声で笑い合っているような祝祭感のあるこの曲は、人懐っこいメロディーと意外性満点なオーケストラ・サウンド、そしてしなやかで骨太なグルーヴのバランス具合がとにかく絶妙。結果的にキャッチーにしてポップ、でもって魅力的なユーモアが立ち昇る曲に仕上がっているのはハープーン的センスが大きく反映していると見てよい。どこか中期ビートルズを思わせるフォーキーな“She Explains Things To Me”など、バーンが書く楽曲はオーソドックスなタイプが多めだけど、ときに前衛的な顔立ちをしたGTOのアンサンブルと組み合わることによって刺激的な音場が生成され、カラフルなイメージで包まれていく。NYのアンダーグラウンド・ロック・シーンを牽引してきた自身のキャリアを投影するような歌詞(従来以上にストーリーテリング性に富むと同時に、個人的な物語を多く提示しているのも特徴的)が印象的な“The Avant Garde”などはまさにシンボリックな一曲だが、両者の提示する複雑な要素を手際よく繋ぐバランサーとしても巧みな手腕を発揮するハープーンにはとにかく全幅の信頼を置いていたようで、“My Apartment Is My Friend”ではゲスト・ヴォーカルに起用していたりもする。
なお他のゲストとしては、パラモアのヘイリー・ウィリアムスが“What Is The Reason For It?”で歌唱。ザ・スマイルでも知られるドラマーのトム・スキナー、そして『American Utopia』にも参加したパーカッショニストのマウロ・ヘフォスコ、フルート奏者のアレックス・ソップとジネヴラ・ペトルッチといった面々が適材適所で優れた働きをしている点も見逃せない。
「僕の作品では、感情の部分があまり注目されないこともあるけど、今回はそれがはっきり現れていると思う。同時に、僕自身は親しみやすさというものを常に意識してきたし、今回それをより強く形にしたいと考えていた」と語るバーンだが、躍動的で親密さも兼ね備えているGTOの室内楽的サウンドはその点を押し出す役目を果たしているし、前衛性とポップネスを違和感なく交錯させながら他の何にも似ていない音楽世界を構築してきた男の最新作としてこれほどまでにこちらの期待に応えてくれる作品もないと思う。
尖っているけどまろやかな味わいの本作を引っ提げたツアーは今年後半に予定されており、演奏陣にシンガーやダンサーらも加えた13名編成で回るそうだ。どうやらそこには『American Utopia』のメンバーも含まれ、全員がステージ上を自由に動き回る構成になるという。そんなの絶対にスゲエものになるに決まってる。いずれにせよ、今日のデヴィッド・バーンは間違いなく昨日よりも大きく眼を開いて、でっかい笑顔を浮かべている。
左から、ゴースト・トレイン・オーケストラ&クロノス・クァルテットの2023年作『Songs And Symphoniques -The Music Of Moondog』(Cantaloupe)、セイント・ヴィンセントの2024年作『All Born Screaming』(Total Pleasure)、パラモアの2023年作『This Is Why』(Atlantic)、9月26日にリリースされるトム・スキナーのニュー・アルバム『Kaleidoscopic Vision』(International Anthem)、マウロ・ヘフォスコが在籍するフォホー・イン・ザ・ダークの2017年作『Sandcastle』(Nacional)、アレックス・ソップの2024年作『The Hem & The Haw』(Sono Luminus)、ジネヴラ・ペトルッチ&ダーヴィド三重奏団の2025年作『Ries: Quartets For Flute & Strings』(Brilliant Classics)