©Shervin Lainez

ミュージカルから映画へ発展した「アメリカン・ユートピア」の熱狂を経て、鬼才はいま何を表現する? 前衛性と親しみやすさの共存した新作『Who Is The Sky?』にはその答えが大きく広がっている!

尖らずにはいられない

 ブライアン・イーノのような古くからの盟友など多彩な仲間たちを伴って作り上げた『American Utopia』(2018年)によって、新たな音楽的地平を広げることに成功したデヴィッド・バーン。その後、ツアーの演出を発展させたブロードウェイ・ショウ、そしてステージ上で繰り広げられたパフォーマンス・アートをスパイク・リー監督が映像化したユニークなライヴ・フィルム「アメリカン・ユートピア」(2021年)が音楽/アート・シーンを瞬く間に席巻していく様は、トーキング・ヘッズの「ストップ・メイキング・センス」(84年)発表後に時代の風雲児と化していった状況を連想させたものだが、前作からけっこうな時間が経過したし、そろそろ新しい景色が見たいものだ、という声がこのところ高まっていたのは確か。そんななか、お待たせ!と現れたのは、トゲトゲに身体中を覆い尽くされてサイケな渦巻き模様を放射する彼だった。そんなへんちくりんなアートワークに思わず絶句してしまうバーン7年ぶりの新作『Who Is The Sky?』。ベルギーのアーティスト、トム・ファン・デル・ボルフトによる衣装、シラ・インバーによるアートワークのジャケット(インパクトの度合いでは初ソロ作『Rei Momo』のジャケと並ぶ)がいみじくも物語っているのは、やっぱり尖らずにはいられないという彼の主張であり、こんなの見せられたら中身を確認する前から思いっきりワクワクしてしまうというもの。

DAVID BYRNE 『Who Is The Sky?』 Matador/BEAT(2025)

 で、どうやらワクワクが高まっていたのは、アルバム作りに入るバーンも同じだった模様。というのは、彼が熱望していたNYを拠点に活動する15人編成の室内楽アンサンブル、ゴースト・トレイン・オーケストラ(以下GTO)とのコラボが実現しているからだ。GTOといえばクロノス・クァルテットと組んだムーンドッグ(フィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒにも影響を与えた盲目の作曲家/路上詩人)のトリビュート・アルバム『Songs And Symphoniques』(2023年)も記憶に新しいが、どうやらバーンもあの作品に聴き惚れたひとりだったようで、楽団のライヴに飛び入り参加するなど親交を深めつつ、「もし自分の新曲が、こんな音で鳴ったらどうなるだろう?」といった想像を巡らせていたという。そんな彼のオファーを、リーダーであるブライアン・カーペンターをはじめとして以前からバーンのファンだったGTOは即快諾、すべての楽曲のアレンジを担当し、シネマティックと呼ぶのがよく似合う立体的な構築性を持ったサウンドを提供している。