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新たな旅は、亡き父とブラック・アイビーへのオマージュから

 3部作の制作を終えた後、アレクシス・フレンチは、新たな旅をどう始めるべきか、模索し続けた。すでにUKでは人気も名誉も得て、大活躍するコンポーザー・ピアニストだ。深慮する時間は、自分と対峙する機会となった。

 「環境を変えた方がいいと思って、スコットランドの海辺で過ごすなか、僕にとっての真実は何なのか、どこにあるのかと考え続けた。そのなかで西インド諸島からの移民である両親のもとで育った子供時代のこと、亡くなった父のことがいろいろ蘇ってきたんだ」

ALEXIS FFRENCH 『Classical Soul Vol. 1』 Sony Classical/ソニー(2024)

 回想するなかで浮かんだキーワードが2つあった。ひとつは〈ソウル〉。5つのインタールードで、“やさしく歌って”や“チェンジ・イズ・ゴナ・カム”など名曲をピアノソロで演奏している。

 「5曲はよくソウルを聴いていた父へのオマージュだけれど、“やさしく歌って”などはハーモニックスが興味深く、それをピアノでどう弾くか、どう再解釈できるか、という取り組みにもなった」

 もうひとつのキーワードは、〈ブラック・アイビー〉だ。彼の作品は、これまでも潜在意識に優しく語りかけてくるような、ストーリーテリングなピアノが大きな魅力だったけれど、その物語の視点を今回は、移民の歴史に向けた。

 「ブラック・アイビーとはUKなどに移住して成功した移民のこと。その一方で、才能があるのに正当に評価されずに埋もれた人も大勢いる。そういった移民の物語を表現したいと思った。誇りを持ってね。認められなかった人の中にはコンポーザーも結構いるんだけれど、彼らの想いを自分なりに深堀りしたいと考えたんだ」

 そんな新たな旅に大いに刺激をもたらしてくれた人がいる。チェリストで、人気アカペラグループのペンタトニックスでビートボックスを担うケヴィン・オルソラだ。2曲でチェロとビートボックスを披露している。彼とはアフリカ系であること、クラシックとソウルがベースという共通点がある。

 「頭脳明晰な男で、彼とのコラボはスリリングだったし、ストーリー、スピリットの両面でこの作品に貢献してくれた。ケヴィンのチェロは、R&Bシンガーのような音を響かせるんだよね。彼はソウルを物理的に音楽で演っていて、僕は感覚的なソウルをこのアルバムでやっている。その違いがコラボしながらおもしろかった」

 アルバム・タイトル『クラシック・ソウル』にはVol. 1と記されている。今回も3部作になるのか。最後にそう聞くと、「そうなるといいなとは思っている」とのこと。次なる展開にも期待したい。