多彩な交流と執念深い構成術でとくと聴かせる、フラメンコギタリスト20年目の傑作
ソロ・デビュー作から20年目の銘を刻む最新アルバム『ベインテ』。名実ともにトップを独走するフラメンコギタリストは、「20年かけてまた原点に戻ってきたような感覚」と言う。ライナーノーツには「あの頃より少し遠くまで見渡せ……螺旋階段を一周登ったのかも」とたとえた記述がある。2年ほど前に生誕地=軽井沢へ引っ越したこと、所属事務所から独立したことも少なからず影響しているとか。遥か彼方に聳えるかと思われたピークをいくつも登攀し、穏やかなマイペースで次のステップへと歩を進める沖仁。充実の新作は聴きごたえ満点だ。
20年前のデビュー作で録音賞を受賞したエンジニアの林原正明、パーカッション大儀見元とのスタジオワークは久しぶり。一方「ヨルタモリ」酒場をきっかけに続くタブラ奏者ユザーンとの交流、〈live image〉シリーズ楽屋セッションから発展したピアニスト、アレクシス・フレンチとの共同制作ほか、ゲストとの新趣向も冴える。「自分にないものをたくさん持っている人との共演は夢のように楽しい」とギタリスト。
ビンテージ楽器の使用や国産アコースティックギターに挑戦するなど、重なる弦のさんざめきの美しさもさることながら、特筆すべきはアルバム構成の妙に尽きる。緩やかにフラメンコ世界へと導く“サパト・ビエホ”、軽やかなルンバの後でズシンと腹に響く真骨頂、圧巻のソレア“ススペ”はアルバムの白眉。流麗な後半部を締めくくる“樫と樅”で身近なところに着地し、ホッとさせてくれるこの余韻……いやぁ、さすがです!
「みなさんそうかもしれないけど、曲構成は死ぬほど考えますね、かなり執念深く。もうこれは絶対に妥協したくなかった。ラストは旅を終えて帰って来たよというイメージ。ちょっとインディーズ的な発想ですけど、自分の頭の中で鳴り始めていた音をちゃんと形にしたいという思いで、最初から最後まで好きにやらせていただいた。初期の頃と変わらないメンタリティを汲み取ってもらえて感謝しています」
コロナ禍にあっても「ヒントや核の部分だけできている曲をたくさん作り溜めました。今回のアルバムに入れたのは、もう少し前から作り溜めたものですけど」と環境の変化まで活かせたようだ。さらに次なるサイクル「ここ4、5年の夢だったフラメンコギターで合奏するという目標」の実現に向け邁進中とは、嬉しい。その成果の一端がリリース記念ツアー東京公演で垣間見られるそうだ。
LIVE INFORMATION
沖仁 デビュー20周年/アルバムリリース記念ツアー ~20 VEINTE[ベインテ]~
2022年11月23日(水)東京・晴海 第一生命ホール
開場/開演:13:45/14:30
2023年1月7日(土)愛知・名古屋 三井住友海上しらかわホール
開場/開演:12:30/13:00
2023年1月8日(日)大阪・梅田 あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
開場/開演:12:30/13:00
2023年1月13日(金)宮城・仙台市宮城野区文化センター パトナホール
開場/開演:18:15/19:00
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