この11月に英米で本人公認の伝記が出版された英ロックの重鎮ロバート・ワイアット。それに合わせて、彼の半世紀近い音楽活動を振り返る同名の2枚組編集盤『Different Every Time』 が編纂され、日本でも発売となる。

ROBERT WYATT Different Every Time Hostess(2014)

 実は、今年で69歳になったワイアットは、2年前に音楽の制作を止めたという〈引退〉を先日明らかにした。ファンには非常に残念なニュースだが、73年の転落事故以来の車椅子生活だけでなく、近年は断ち切った飲酒の問題などもあり、長年苦労をかけてきた妻で、創作の重要なパートナーでもあるアルフィーさんと一緒に残りの人生の日々を楽しみたいという理由である。幸いに我々には彼の残した素晴らしい作品がある。日本では、この編集盤と同時に、74年の名作『Rock Bottom』から、2003年の『Cuckooland』までのソロ・アルバム8枚も再発売される。

 『Different Every Time』のCD1はソフト・マシーンマッチング・モールのバンド時代から2007年のソロ・アルバム『Comicopera』まで、ワイアットの代表曲を集めた内容。冒頭のソフト・マシーンの曲が19分あるので、収録曲数は13曲となり、彼の長い音楽史を凝縮するには少な過ぎるわけだが、それでもジャズ・ロック・バンドのドラマーからソロ・アーティストへの転身、その忘れ難い特徴的な歌声を活かしての独創的なカヴァーでも知られ(シックの“At Last I Am Free”の名唱も収録)、そして友人の音楽家たちに声をかけての制作も増えた近作という要点を押さえた選曲となっている。

【参考動画】ロバート・ワイアットが2007年に行ったレクチャーの映像

 

 だが、実のところ本作の価値は、他のアーティストの作品に客演したコラボ集のCD2の方にある。熱心なファンにも馴染みの薄い録音もあり、本人もこれらをまとめられたことを喜んでいる。ビョークホット・チップ、もしくはピンク・フロイドニック・メイスンやジャズ奏者のマイク・マントラーなどの名前にまず目が引かれるだろうが、イタリアのクリスティーナ・ドナやノルウェーのアンニャ・ガルバレク、ブラジルのモニカ・ヴァスコンセロスといった国際的なコラボにも注目したい。これはワイアット自身が様々な文化への関心を持つことに加え、そういった国々に多くはなくとも熱心なファンが存在し、彼らの支援が彼の音楽活動を支えてきたことの反映でもある。

 なお、例外的に、彼の最も有名な録音でもある静かなる反戦歌“Shipbuilding”もCD2の方に含められた。これはクライヴ・ランガーエルヴィス・コステロがワイアットに歌ってもらうために、彼の歌唱や作品の雰囲気を念頭において作った曲なので、コラボとみなしたのだ。