ケラス・ファンはもちろん、バッハの無伴奏を愛する方、学んでいる方にとって必読の書。ここでケラスは、(1)音楽学者レイベルとの対話、(2)世界各地でのバッハ演奏の思い出、(3)和声・装飾音・テンポなど演奏上の要点、という三つの柱から、全39の視点でこの〈チェロの聖典〉に迫っている。(1)では、彼自身の体験や様々な師との出会いを通じて、バッハ演奏が深化していった過程が率直に語られる。(2)は、バッハ演奏を介した聴衆との交流の記録であり、とりわけ生地モントリオールでの記述が印象深い。(3)では、演奏の要諦についてケラスが明快かつ柔軟に語りかけてくれるように感じられる。