インタビュー

ジャン=ギアン・ケラス(Jean-Guihen Queyras)『相棒』兄弟みたいなピアニスト、アレクサンドル・タローと作り上げた一種のアンコール集

©Marco Borggreve

自由へ道づれ

 ジャン=ギアン・ケラスはいつも新しい驚きを運んでくる。ここ四半世紀の間、ずっとそうあり続けるのは、彼の旅する音楽の地図が勇敢かつ自在に拓かれてきたからだろう。バロックからコンテンポラリー、民族音楽や即興へと渡る多彩なアルバムは、それぞれがパラレル・ワールドのように拓かれているが、チェロと旅する主人公の面影はいつだって明快である。

 最新盤は20数年来の交友を通じ、「兄弟みたい」に冒険を重ねてきたピアニスト、アレクサンドル・タローとのデュオ。『Complices』(相棒、道連れ)と名づけられた一種のアンコール・アルバムである。ピアティゴルスキーやポッパーら時代を画した名手たちのトランスクリプションに、自らの編曲や20世紀作品、即興演奏を織りなして広大なストーリーを創り出す。過去から未来への遠望、ともみられるが、その実ケラスには目の前の現在しかないのかもしれない。

JEAN-GUIHEN QUEYRAS,ALEXANDRE THARAUD 相棒 Harmonia Mundi(2020)

 「アンコール集というアイディア自体に新しさはありませんが、私たちはそれを自由ということに関連づけて捉え直しました。メインのプログラムからは逸脱した、自由な瞬間。ここからは、私たちがしなくてはいけないと決められたことではないことをしようよ、という気持ちになる。そこには、聴衆とともに生き、分かち合うことの喜びもあるでしょう」

 ケラスらしく選曲も凝った構成で、多彩さのなかに集中した強度を保ちつつ、全篇を渡ってさまざまな光景を旅していくような道行きとなる。

 「それぞれ異なる種類の性格やムード、音楽的瞬間があるので、そこからストーリーを構築していくのは実にエキサイティングなことです。まずは、20世紀前半の音楽精神──ピアティゴルスキー、カザルス、クライスラー、ハイフェッツといった演奏家たちと私を関連づける作品を。そこにB.A.ツィンマーマンでブレイクを入れて、フレンチ・パートへ進みます。ツィンマーマンやデュティユーの音楽は、いまや私たちのDNAになっていて、彼らの作品とともに夢みることができますね。そして、CDの終わりに向かって、自由の精神が吹き荒び、なにか新たな扉を開けるように、コルトレーンを置いたのです。とくに、この即興のもとにした彼の『アラバマ』は、1960年代の南アフリカの出来事に根差した悲劇的な作品です。喪の趣があり、そこからバッハの第6組曲のインプロヴィゼーションにいたる。ポッパーやクライスラーから遠く離れ、光が落ちてきて、内面的な祈りのときへと入っていくような感覚があります。そして私は、ハイドンの非常に肯定的な音楽で、本作をしめくくりたかった。このアダージョは、私のいちばんのお気に入りの曲のひとつで、寛容なメッセージを伝える音楽だと思います。ここへきて、ヴィルトゥオージティはもはや姿を消し、ただ太陽のような、ある種静かで、寛大さを湛えた響きでアルバムが閉じられます」

 小品では端的に性格を打ち出せるから、ケラスの柔軟かつ多様な演奏表現の幅が、くっきりとしたコントラストで浮き上がってくる。

 「ただちに曲の本質をつかむことが大事です。早変わりのように、作曲家ごとの世界に入って行って、その核心を短い間に表現する。カメレオンが色を変化させる練習をしているみたいなもので、とても楽しいですよ。激しい人格変化をするには、直観的であらなければなりません。そこに、いまを生きている私自身やタローの人生経験やなにかしらが、演奏家の個性として、塩やスパイスのように自然と加わってくるのだと思います」

 前作ブラームスでの『ハンガリー舞曲集』に続き、タローとともに自ら多くの編曲も手がけた。

 「録音セッションのさなかでも、思いついたアイディアを直ちに試し、いろいろな変化をつけて楽しみました。すべての決断はコンセプトではなく、ともに音楽を生きる体験のなかから実を結んでいったのです。こうした共犯関係はよく起こります。ビルスマは音楽は生き物だと言いましたが、ラファエル・アンベールの即興演奏を私はとても気に入っています。彼のサクソフォンは息の摩擦も素材として活かし、音を鷲掴みにする感覚がありますから」

 


ジャン=ギアン・ケラス (Jean-Guihen Queyrasx)
モントリオール生まれ。リヨン国立高等音楽院、フライブルク音楽大学、ジュリアード音楽院でチェロを学ぶ。1990年より2001年までアンサンブル・アンテルコンタンポランのソロ・チェロ奏者を務める。レパートリーはバロックから現代まで多岐にわたり、ソリストとして世界の名だたる指揮者、オーケストラと共演するほか、室内楽でも世界中で演奏している。演奏楽器は1696年ジョフレド・カッパ製(メセナ・ミュジカル・ソシエテ・ジェネラルより貸与)。ドイツ・フライブルク音楽大学教授。

 


LIVE INFORMATION

ジャン=ギアン・ケラス~バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会~
○第1夜12/10(木)19:00
○第2夜12/11(金)19:00
【会場】いずみホール(大阪)

○第1夜12/17(木)19:00
○第2夜12/18(金)19:00
【会場】王子ホール(東京)
○ほか予定
earts.jp/artists/jean-guihen-queyras/

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