現代ジャズきっての人気ドラマーにしてオーガニック・ビート・ミュージックの担い手が放った新作は、独立しつつも繋がった4つのEPの集合体? まずは聴いてみよう!

 ジャズのフィールドでの問答無用な支持はもちろん、それ以外のリスナーからも常に注視される限られた存在のひとりがマカヤ・マクレイヴンだ。現代ジャズを代表するドラマー、コンポーザー、プロデューサーとして活躍する彼のニュー・アルバム『Off The Record』は、4作の配信EPをまとめた2枚組CD/LPという大作となった。それぞれのEPは『Techno Logic』『The People’s Mixtape』『Hidden Out!』『PopUp Shop』と題されて互いに独立しつつも有機的に結び付いており、形式を見れば4つのシチュエーションから生じたトラック群のコンピと捉えることもできるし、各章を通してこそ意味を深くする4部構成のパッチワーク的なアルバム作品と見なすこともできるだろう。ともかくオリジナルの新録音源集としては〈キャリア史上もっとも野心的な作品〉と評された傑作『In These Times』(2022年)以来のアルバムで、今回は彼がキャリアを通じて深化させてきた〈オーガニック・ビート・ミュージック〉の進化型が追求されている。

MAKAYA McCRAVEN 『Off The Record』 Nonesuch/International Anthem/XL/BEAT(2025)

 制作の基盤はすべてライヴ・パフォーマンスの模様を録音したライヴ音源で、それらの素材をマカヤがシカゴの自宅スタジオでエディットやオーヴァーダブを施して再構築し、独自のビート・ミュージックに仕立てている。つまり、それら録音素材には生身の即興演奏のみならず、会場や観客の存在が作り出した雰囲気そのものも封入されているわけだ。

 まず、ベン・ラマー・ゲイ(コルネット/パーカッション/エレクトロニクス他)とシオン・クロス(チューバ/エレクトロニクス他)が参加した『Techno Logic』は、2017年のロンドン、2024年のベルリン、そして2025年のNYで行われた3回のライヴ録音で構成されており、同じメンツで紡いだ8年間の信頼とコンビネーションの記録にもなっている。テューバの野太い響きをダンサブルなループに加工した“Gnu Blue”や曲名通りの“Boom Bapped”からもわかるようにエレクトロニック感やヒップホップ感がもっとも直球で楽しめるのはこのパートだろう。

 一方で『The People’s Mixtape』は、2015年作『In The Moment』の10周年を記念して2025年1月にブルックリンで行われたパフォーマンスの模様を土台としている。その『In The Moment』で重要な役割を果たしたジュニアス・ポール(ベース)とマーキス・ヒル(トランペット)が駆けつけたほか、常連のジョエル・ロス(ヴィブラフォン)や初共演となるSMLのジェレマイア・チウ(シンセサイザー)も参加。“Choo Choo”からのパーカッシヴな流れもいいし、優美なテンポの変化で場面を転換していく“Lake Shore Drive Five”の展開ぶりが実に心地良い。

 さらに『Hidden Out!』は、2017年6月にシカゴで行ったレジデンシー企画での複数日の録音を基に構成されたもの。ここには先述のジュニアス・ポールとマーキス・ヒルのほか、トータスの構成員としても知られるジェフ・パーカー(ギター)、SMLのジョシュ・ジョンソン(サックス)が名を連ねている。ジェフのギターを軸にした“Battleships”やドープで不穏な“Dark Parks”など、他のEPと比べても明らかにディープな重めの空気が感じられるのもおもしろい。

 そして『PopUp Shop』は、2015年にLAで〈RAWS:LA〉というイヴェントに出演した際にジェフ・パーカー、ジャステファン(ヴィブラフォン)、ベンジャミンJ・シェパード(ベース)と繰り広げた即興セッションの録音を用いたもの。他3作と比べるともっともライヴ感を残して整えられている印象で、幻想的なヴァイブやギターが現場の生々しい煌めきを象徴している。……以上4篇、どこから聴いても最高に心地良い、熱気とクールネスに溢れたグルーヴを味わってみてほしい。

左から、マカヤ・マクレイヴンの2015年作『In The Moment』、2018年作『Where We Come From (Chicago X London Mixtape)』『Universal Beings』(すべてInternational Anthem)、2021年作『Deciphering The Message』(Blue Note)、2022年作『In These Times』(Nonesuch/International Anthem/XL)、グレッグ・スピーロらとの2023年作『The Chicago Experiment』(Ropeadope)、マカヤ・マクレイヴンが参加したブランディー・ヤンガーの2025年作『Gadabout Season』(Impulse!)、『Off The Record』に参加したシオン・クロスの2025年作『Affirmations (Live At Blue Note New York)』(Marathon Artists)、ベン・ラマー・ゲイの2025年作『Yowzers』、ジュニアス・ポールの2019年作『Ism』、ジェレマイア・チウ&マルタ・ソフィア・ホーナーの2025年作『Different Rooms』(すべてInternational Anthem)、マーキス・ヒルの2024年作『Composers Collective: Beyond The JukeBox』(コアポート)、ジョエル・ロスの2024年作『Nublues』(Blue Note)、ジョシュ・ジョンソンの2024年作『Unusual Object』(Northern Spy)、11月5日に日本盤がリリースされるトータスのニュー・アルバム『Touch』(International Anthem/rings)