ジェフ・パーカー(Jeff Parker)『Suite For Max Brown』ジャズとヒップホップの優しい同居 母に捧げた素晴らしき新作

2020.01.27

大反響を得た前作から引き続き参加の主要メンバーに、マカヤ・マクレイヴンとジェイ・ベルローズという2人のドラマーも加えた贅沢極まりない新作が完成した。ジェフの情感溢れるギターが美しいジョン・コルトレーン“After The Rain”のカヴァーや、ジェフ~マカヤ~ポール・ブライアンの3名で飛びきりグルーヴィな演奏を繰り出す“Go Away”などバンドのダイナミズムを伝える楽曲に、ジェフ単独のテクノな耳にも馴染みむ“Fusion Swirl”、アンビエント風な“Metamorphoses”もあり、彼が年数をかけて追及してきた生演奏とビートメイカー的な側面が再び理想的なかたちで結実している。

 


前作『The New Breed』(2016年)で高い評価を得て、ここ日本でも話題となったジェフ・パーカーが帰ってきた。新作『Suite For Max Brown』、これまた傑作である。

リリースは前作同様にインターナショナル・アンセム(International Anthem)から。今回はさらに、名門ノンサッチとのダブル・ネームになっている。それだけ『The New Breed』での成功が大きかったのだろう。

ちょっと余談になるが、マカヤ・マクレイヴンらの挑戦的なジャズ作品を届けてくれるインターナショナル・アンセムは、実にユニークなレーベルだ。詳しく知りたい方には、先日掲載されたPitchforkの特集記事〈シカゴのレーベル、インターナショナル・アンセムはいかにしてジャズのルールを書き換えているのか?〉を読むことをおすすめする。

さて、ジェフ・パーカーはトータスのメンバーで(2月には98年作『TNT』の再現ライブのために来日)、一時期はシカゴ・アンダーグラウンド・カルテットに在籍していたギタリストである。また、『The Unstable Molecule』(97年)のリイシューも記憶に新しいアイソトープ217°の中心メンバーでもあり、90年代からシカゴのジャズや実験音楽、ポスト・ロック・シーンでプレイヤーとして活躍してきた。

前作では、制作中に亡くなった父のアーニーが営んでいた服飾店の名前をタイトルに掲げていた。それを受けた今回の〈Suite For Max Brown〉という題は母の名前と旧姓である〈マクシーン・ブラウン〉から取られており、ジャケットを飾っているのは19歳の頃の母の写真だ。「母が存命中のいま、彼女に何かを捧げるいい機会だと思った」とパーカーは語る。つまりこのアルバムは、〈母のための組曲〉というわけだ。

音楽的にも『The New Breed』から地続きだと感じる。〈まったくインプロはやっていない〉というトータスとは異なり、即興演奏とパーカーが愛するヒップホップ的なポスト・プロダクションの幸福な同居がここにはある。サンプルをエディットしたJ・ディラ風の“C'mon Now”や、みずからすべての楽器を演奏した実験的な“Fusion Swirl”など、完全に後者(ヒップホップ)の制作方法に寄った楽曲も。

ヨレて遅れたリズムが印象的な冒頭の“Build A Nest”も、娘のルビーの歌以外はすべてパーカーの演奏だ。ピアノの音がザラついていたり、奇妙にゆがんだヴォイス・サンプルがさまざまな定位に配置されていたりと、それぞれの音の質感や響きがバラバラで、それらを繋ぎ留めたミックスは実に立体的。キュートな親しみやすさと異物感を同時に感じる、パーカーらしい一曲だ。

ジョン・コルトレーンの楽曲を取り上げたスピリチュアルな“After The Rain”(ドラマーはジャマイア・ウィリアムズ)と、対照的にビートを強調したファンキーな“Gnarciss”(ジョー・ヘンダーソンの“Black Narcissus”の再解釈)や“Go Away”(いずれもドラマーはマカヤ・マクレイヴン)が一つのアルバムに収められているのもおもしろい。曲によって編成もサウンドも異なっているが、なぜかアルバムとしての統一感がある。舌打ちと深い残響に包まれたハンド・クラップの音が坦々とビートを刻み、ジャマイアのドラムが加わっていく10分超の最終曲“Max Brown”まで、一気に聴かせる。

この作品が、〈ジャズ・プレイヤーが演奏したヒップホップ・アルバム〉にも、〈ヒップホップ・プロデューサーが作ったジャズ・アルバム〉にも聴こえないことは、とても興味深い。『The New Breed』からの連作と言っていい本作で、彼は唯一無二の〈ジェフ・パーカーの音楽〉を作り上げた、と感じる。この優しく、エクスペリメンタルで、オーガニックなのにどこか乾いた距離感を感じさせる音楽は、他では聴けないものだ。ロバート・グラスパーらとはまた別の形でヒップホップからの影響を咀嚼し、新しい感触の独特なジャズをパーカーは奏でている。

本作の国内盤はHEADZから1月29日(水)にリリース。ブレインフィーダーからリリースした『Overload』(2018年)が話題になったジョージア・アン・マルドロウの“Blackman”をカヴァーしたものがボーナス・トラックとして収められるとか(もともとはソノシートで発表された貴重音源)。柳樂光隆によるライナーノーツも封入されているとのことで、本作をより深く聴くのに絶好のアイテムとなっている。

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