現代日本ジャズのプラットフォーム、〈Days of Delight〉(ファウンダー&プロデューサー:平野暁臣)から、またしても話題を集めること必至の力作が登場する。いまや日本のジャズシーンの原動力の一人といっても過言ではないデヴィッド・ブライアントが、待望の新譜『COAT OF ARMS』を2024年1月15日(月)にリリースするのだ。

デヴィッドはニューヨーク・ブルックリン生まれのピアニスト/コンポーザー/マルチインストゥルメンタリスト。これまでロイ・ヘインズ、クリスチャン・マクブライド、スティーヴ・コールマン、ヘンリー・スレッギル、エイブラハム・バートン、ウィントン・マルサリスら錚々たるミュージシャンと共演し、活動拠点を日本に移してからは、文字通りのファーストコールとしてさまざまな場で演奏するいっぽう、マーティ・ホロベック(ベース)、石若駿(ドラムス)とのトリオ〈TRISMIC〉をはじめ、多彩なリーダーバンドで自らの音楽を追求している。

『COAT OF ARMS』は、TRISMICのメンバーにermhoi(ボーカル)と井上銘(ギター)を加えたスぺシャルプロジェクトによるアルバムで、デヴィッドにとって初のスタジオ録音によるリーダー作品。世界にひとつの〈デヴィッド・ブライアントの音楽〉を繰り広げる、この鬼才の声に耳を傾けてみよう。

DAVID BRYANT 『COAT OF ARMS』 Days of Delight(2024)

 

ジャズという音楽の偉大さ、深さが理解されない現実

――ピアノに取り組もうと思ったきっかけを教えていただけますか?

「クラシックのピアノを学び始めたのは4歳のときです。私の両親は私に音楽教育を受けさせることにこだわっていました。その当時はピアノだけでなくチェロも得意だったんですが、ジャズに出会うまではミュージシャンになろうとは思ってなかったですね。

最初に大きな影響を受けたピアニストは、アート・テイタムとマッコイ・タイナーかな。ニューヨークに住んでいたので、当時の一流ジャズミュージシャンの演奏を簡単に見聴きできたし、その文化に浸ることもできたんです」

――ジャズに感銘を受けたのはいつ頃ですか?

「私の子供時代と青春時代を通して、音楽はいつも身近にありました。だから、あまりジャズに馴染みのない国や田舎から来た人たちにとっては衝撃を受けることもあるかもしれませんが、私にとってはジャズが特に衝撃的であったわけではないんです。

一口に〈ジャズ〉というと一つの音楽のジャンルを指しているにすぎないようですが、実際にはもっともっと深い意味合いがあると思います。ジャズミュージシャンは通常、音楽理論、聴音訓練、作曲、編曲などに精通しています。私の尊敬するミュージシャンたちは、世界中が感嘆するような偉大な音楽性を持っていますが、残念ながら、社会的、人種的な問題のせいでより深い要素を理解されることがない場合があります。そしてこれらの偉大なミュージシャンたちを単に〈ジャズミュージシャン〉と限定しようとする人がいるのも悲しい現実です」

――スティーヴ・コールマンやヘンリー・スレッギルのバンドに抜擢されたきっかけを教えてください。彼らからはどんなことを学びましたか?

「きっかけは確か、どちらもそれぞれのバンドに推薦されたんじゃないかな。2人のどちらも私にとって大きな影響力を持っているので、それぞれすべてを事細かに説明するのは難しいんですけど……。

まず、スレッギルさんからは、バンドにおいて真のリハーサルをする重要性を学びました。ときには6小節の曲を何時間も繰り返しリハーサルさせられることもあったんです。そうすることで、私たちは確実に結びつきを深めることができたし、また彼の音楽を演奏することにとても興奮するようになりました。ただ、今日に至るまで、実は私はリハーサルをするのがとても苦手です。なぜなら大抵の場合は何も進まなかったり、逆に疲れてしまう原因になったりするからです。

コールマンさんは、私が知っている中で最も熱心に音楽に取り組んでいる演奏家の一人です。彼は学び続け、努力し続けるという確固たる強い意志を持っています。一緒にいてとても刺激になります」

――ジョージ・クルーニーの映画「かけひきは、恋のはじまり(Leatherheads)」(2008年)のサウンドトラックに関わったいきさつを教えていただけますか?

「当時、私はクリスチャン・スコットのバンドで仕事をしていました。この映画で演奏したときは、確かスコットさん(映画にも登場していますね)と私との二度目のギグだったと思います。その撮影の3、4日の間、ジョージ・クルーニーさんと一緒に過ごす機会がありました。彼はとても良い人で、音楽とジャズが大好きなようでした。彼の叔母のローズマリー・クルーニーさんとの話を聞かせてくれたのも良い思い出です」