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現実がヤバくなった今、音楽や芸術は何をすべきか

――なるほど。2011年に『幻とのつきあい方』を発表した時、タワレコの〈NO MUSIC, NO LIFE.〉に登場したじゃないですか。

「あぁ、携帯電話がいっぱいあるやつ」

――あの広告って今でも話題になるというか、インターネットでよく見かけるんですよ。〈音楽は役に立たない。/役に立たないから素晴らしい。/役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい。〉という言葉がそこには添えられています。もし当時の年齢の坂本さんが2026年を生きていたとしたら、同じような言葉を自然に添えて、『幻とのつきあい方』のようなアルバムを作っていたと思いますか?

「んー、ちょっと違うんじゃないですかね? 感じているものは変わらないと思うんですけど、社会情勢が違うので。当時は震災の後でしたし、独特のムードがあったんですよ。かなりシリアスだったのでああいうポスターになったんだと思います」

――2011年当時のシリアスさと今のシリアスさは違いますかね?

「違いますね。うーんと、今は基盤になっていたものが崩壊してしまったというか。例えば誰かが法律に違反しても罰せられなかったり、フェイクニュースやデマが流れていたり、複雑にヤバい感じがしますね。2011年はフェイクニュースがそこまで目立ってなかったですし、生成AIもないですから、情報の信頼度がある程度あったと思うんです。 

ただ、今は情報が本当か嘘かわからなかったり、その上で公文書の改ざんとかがされちゃうと何が正しいか信じられなくなるじゃないですか。そういう意味でベースとなるものが崩壊してるような気がしていて。インターネットで調べたら何でもわかるっていう時代がちょっと前にあったかもしれませんけど、今は全てを疑って自分で精査しなくちゃいけないっていう段階になってて」

――そういった時代状況と坂本さん自身の作風もリンクしているというか、〈空疎でただ楽しい音楽を提示する〉というのが難しくなるにつれ、ある種の転向として重くならざるを得なくなったのではないかと。

「そうですね。若い頃は、頭がおかしくてヤバい人が一番ヤバくて変な音楽を作れると思ってたんです。 今はもう……頭がおかしい人は、ただおかしいだけ。そんな感じがしません?」

――頭がおかしい人……。

「なんかヤバい人……あ、そっか。そもそも〈ヤバい人がヤバい音楽を作れる〉っていう感覚がないですか?」

――個人的なロマンとしてはあります。ただそれはロマンでしかなくて、どの程度正しいのかはわかりかねます。

「社会から逸脱した人がすごい芸術を作れるみたいな、そういう感じが昔はなんとなくあったんです。今はそういうのって単なるヤバいやつっていうか(苦笑)。世の中の方がめちゃめちゃ過ぎて、困りますよね」

――正常と異常がひっくり返るというか。坂本さんは自分のことを正常だと思いますか?

「そうですよね……そういうことも疑わなくちゃいけないですよね」

――無闇に疑っているわけではないです(笑)。

「みんな自分が正常だと思っているはずなんです。それでも自分が正しいと思っている人と、その反対にまた自分が正しいって思ってる人がいて、今は分断されているんでしょうけど。難しいですよね」

――地球が平面だと思っていたり、アポロ11号が月に行っていないと思っていたり……。

「それ本当に思ってるんでしょ? そういうことを言う人って昔もいたんですけど、みんな〈冗談で言ってる〉と考えていたというか、それをちょっと面白がっていたはずなんです。でも、そういうのを真面目に信じている人の方が今はぶっ飛んでるじゃないですか。そんなのよりぶっ飛んだ音楽を作るのは中々難しいですよね」

――ただ、どこかで自分を〈正常〉なものとして捉えないと創作における飛距離は生み出せないとも思うんです。その点において、坂本さんはやはり〈正常〉なのではないかと。

「本当はこんな真面目なことばっか言いたくないんですけどね。突き抜けた、見たことがないような感覚を得られる楽しい音楽をやりたいんです。

ただ、歌詞にしても何にしても、やっぱり現実の方がヤバくなっちゃったってことじゃないでしょうか。そういう時に音楽や芸術っていうのは何をしなきゃいけないか、それを考えないといけないですよね。俺もまだわかってないです」

――その上で『ヤッホー』は〈今出すならこれだな〉と納得できた作品になりましたか?

「まぁまぁ、そうですかね。今自分ができることを真面目にやったらこうなりました」

 


RELEASE INFORMATION

坂本慎太郎 『ヤッホー』 zelone(2026)

リリース日:2026年1月23日(金)

■CD
品番:zel-029
価格:2,860円(税込)
2枚組/インストBONUS CD付

■LP
品番:zel-030
価格:3,200円(税込)

配信リンク:https://virginmusic.lnk.to/Yoo-hoo

TRACKLIST
1. おじいさんへ(Dear Grandpa)
2. あなたの場所はありますか?(Is There A Place For You There?)
3. 正義(Justice)
4. 脳をまもろう(Protect Your Brain)
5. 時の向こうで(On The Other Side Of Time)
6. 時計が動きだした(The Clock Began To Move)
7. 麻痺(Numb)
8. なぜわざわざ(Why Do This?)
9. ゴーストタウン(Ghost Town)
10. ヤッホー(Yoo-hoo)

Written & Produced by Shintaro Sakamoto
Recorded, Mixed & Mastered by Soichiro Nakamura at Peace Music, Tokyo, Japan 2025

Vocals, Bass (10), Keyboard, Acoustic, Electric & Lap Steel Guitar: Shintaro Sakamoto
Bass & Chorus: AYA
Drums & Percussion: Yuta Suganuma
Flute & Saxophone: Tetsu Nishiuchi
Marimba: Manami Kakudo (8, 9)  

 


PROFILE: 坂本慎太郎
1989年、ロックバンド、ゆらゆら帝国のボーカリスト&ギタリストとして活動を始める。2010年、バンド解散後、2011年に自身のレーベルzelone recordsにてソロ活動をスタートさせる。2017年、ドイツのケルンでライブ活動を再開。2022年、4thソロアルバム『物語のように(Like A Fable)』を発表。2024年、USツアー、インドネシア、タイ、台湾、韓国でのライブを国内ツアーと並行して開催。2025年、Netflixにてライブフィルム作品「坂本慎太郎LIVE2022@キャバレーニュー白馬」期間限定配信。グラミー受賞プロデューサーのリオン・マイケルズ率いるエル・マイケルズ・アフェアの新作『24Hr Sports』収録の“Indifference”に歌唱と作詞で参加。新作からの先行シングル“おじいさんへ”と“あなたの場所はありますか?”を配信リリース。3度目のUSツアーとメキシコ公演を開催した。また様々なアーティストへの楽曲提供、アートワークの提供ほか、活動は多岐にわたる。
Official Site:https://linktr.ee/shintarosakamoto_official