2026年もCDを回して回して回して回して回して参ります〈CD再生委員会〉。などと書いてる時点でもう古くなってるミームからスタートしてしまいましたが、今回のテーマはずばり「あたらしい音楽のデザイン」です。株式会社ビー・エヌ・エヌ様より発売中の書籍「あたらしい音楽のデザイン」を編集した松岡優さんと、本書にデザイン例を提供しているデザイナーのKMI(ケーエムアイ)さんに取材しました。プロフェッショナルから見た、今の時代の音楽もといCDのデザイン! 必見です。

令和以降の多様ですぐれた音楽デザイン
――そもそも、この本の企画はどのように始まったのでしょうか。
松岡優「ビー・エヌ・エヌは出版社として、さまざまなジャンルのデザイン事例集の本を出しております。『アニメ・ゲームのロゴデザイン』や『農業とデザイン』など、他にもいろいろありますが、音楽にまつわるデザインについての本が、近年、あまり無いように思いまして。
私自身、音楽が好きですし、配信なども含めて音楽の形態がいろいろ移り変わっている中で、今の音楽のデザインというものを改めて見てみれば面白いのではないか、と考えました。もう1人の外部編集者と情報収集し、ほか多数の方々にご協力いただきました」
――KMIさんは、どのような形でこの本に関わられたのでしょうか。
KMI「私は松岡さんのお誘いで、本の協力者の内の1人ですね。掲載されている作品の貸し出しや、各作品のコメント執筆などで参加させていただきました」
松岡「KMIさんはパソコン音楽クラブやミームトーキョーなど、さまざまなアーティストのパッケージやグッズをデザインされていますし、以前から存じ上げていたので、ご協力をお願いしました」
――LiSAや藤井 風、YOASOBIといった超メジャーな方の作品もあれば、冥丁のようなマニアックなアーティストのものまで、さまざまな作品が掲載されていますよね。どのように掲載作品を選んだのでしょうか?
松岡「やっぱり実物を見る必要があるので、それこそタワーレコードさんにも足を運んで、リサーチしました。また、歌詞カードのクレジットを確認しきれないこともあり、ホームページやSNSなどを通じてデザイナーさんのお仕事をチェックしています。
掲載の基準については、令和の、つまり2019年以降の作品に限定しました。その上で、知名度にかかわらずすぐれたデザインであること、なるべく幅広いジャンルから選ぶことを意識しました。
また、デザインのタイプも、アーティスト本人の写真主体のものもあれば、もっとグラフィック主体のものまで、両方が混在するようにしています」
アイディア勝負なパソコン音楽クラブのMVやグッズ
――KMIさんは、パソコン音楽クラブのグッズデザインを初期から手掛けていますよね。この本には、KMIさんの手掛けたパ音のアイテムも多く掲載されています。
KMI「そうですね、いろいろ載っています。MVの章では、スケブリさん(杉山峻輔/デザイナー)が手掛けたパ音のMVなども掲載されていますが、やっぱりすごい作品だなあと思いました」
松岡「スケブリさんには弊社の書籍のエディトリアルデザインでもお世話になっています。ビジュアルの制作だけでなく、モノとしての設計(本でいうと版面の設計)や書体の使い方が面白いと以前から感じていました」

――実際、パ音のグッズを作る時は、どのようなやり取りがあるのでしょうか?
KMI「ご本人たちに〈こういうグッズを作りたい〉という構想がまずあり、そこから話し合って進めて行く感じですね。マッキーやIDカードは、柴田さんのアイディアです。Pのロゴのパーカーやシャツは、2000年代テック系企業のスタッフTをモチーフにしています。
逆に、こちらが提案する場合もあって、例えば10周年記念の皿とか、ヘンなアイディアでも面白がってくれたり(笑)」
――こちらの提案も受け入れられるのは、仕事していて楽しいですよね。
KMI「お金や時間がかかっても〈こっちの方がお客さんも喜ぶよね〉ということでやらせてもらえるのは、ありがたいですね」

短冊CDも特殊ケースも、ハレトキドキのこだわり抜いたパッケージ
――KMIさんは、パ音以外にも、ハレトキドキのデザインも手掛けていますよね。
KMI「はい、本には掲載されていないですが、今日はいろいろ持ってきています。ハレトキは本当にデザインにはこだわっていて、DIYでやっていますね。
最初に作った8cm CD『winter memory』は、パッケージはメンバーが自ら内職のように手作業で組み立てました。オークションで8cm CDのトレーだけが売ってて、それをハイターで漂白して、乾かして。ジャケットに折り目が2本いるのですが、印刷業者の注文では一本しか折れないので、2本目はひたすら手で折って。それをトレーに貼り付けて、販促風のステッカーも作って貼って、袋詰めして……」

――まさに内職ですね。
KMI「今はプレスミーさんで8cm CDのプレスが出来るようになりましたが、その頃はまだ自分たちで作るしかありませんでした。『ユーロビートをとめないで』は、3タイプのCDなのですが、ジャケットを並べて1枚のイラストになる仕様です。



『HARETOKI HYPER EURO MIX』は元ネタがあって、浜崎あゆみの『kanariya』というCDが、半透明のジュエルケースで、盤面にあゆが全身収まるようなポーズのデザインになってるんです。それを意識してますね。『ayu-mi-x II』みたいなラメのジュエルケースとかも、いつかやってみたいですね」
――90年代のアニメっぽいジャケットはよくありますけど、ハレトキはジャケットだけでなくモノ自体も当時の質感を再現しようとしているのが、他とは違うこだわりですね。
KMI「特殊なパッケージやディスクのケースも、海外のオークションやサイトで購入されてるようです。流通の規模感や枚数によっては、CDも手作りみたいな感じで個性的なパッケージが作れますからね。同人イベントの〈M3〉なんかでも、面白いCDを売っている人はいっぱいいます」
松岡「アーティストさん自らが積極的にデザインに関わる例も、多いですよね。本に掲載している方だと、山二つさんやtoconomaさん、OGRE YOU ASSHOLEさんなどがそうです。ジャケットやグッズのアートワークをメンバーご自身で制作したり、ディレクションをされたりしています」
配信ジャケに必要な情報量
――掲載されている作品で、他にも印象的なものを挙げていただけますか。
松岡「細野晴臣さんの『Vu Jà Dé』(書籍には10 inchアナログ盤を掲載)というアルバムをディレクションした岡田崇さんは、(細野晴臣の孫・細野悠太が在籍する)シャッポの作品も手掛けているんですよ。違う世代が繋がっているようでもあり、面白い縁なので、ぜひ掲載したいと思った作品ですね」
――同じデザイナーさんのそれぞれの仕事を見比べると、面白いですよね。90年代や2000年代と、本で取り上げた〈あたらしい〉今の時代とでは、音楽のデザインはどのように変化したとお2人は思いますか?
松岡「昔は、CDジャケットのアートワークが、アーティストさんのパブリックイメージに大きな影響をもたらしていたように思います。現在は、さまざまなメディアやSNSがありますし、セルフブランディングに積極的なアーティストさんも多く、よりイメージが伝わりやすい時代になっています。
加えて、配信の普及だったり、楽曲の届け方そのものの変化もあり、CDなどのフィジカルな体験を経ずに音楽に出会うリスナーさんが増えました。ジャケットのアートワークやデザインに求められる役割そのものが、90年代と今とでは異なってきている点があるように感じています」
KMI「昔のCDは、ジャケットのタイトルもアーティスト名も無い抽象的なものも多かったと思うんですけど、今のジャケットだと、そういう具体性の低いデザインは少なくなってる印象ですね。作字ブームや、レタリングのグラフィックが流行ってるのも関係あるかも知れません。SNSでの展開なども考えると、画像一枚で情報がまとまっている方が有利というのもありそうですね。
あと、CDだと帯があるから、タイトルなどの情報はそこに入れられますが、配信だと帯がないという違いがありますよね」

デジタル領域で求められる立体感や実体感
――あらすじがそのままタイトルになっているアニメみたいな感じで、デザインにインフォメーションを埋め込む手法が求められている訳ですね。
松岡「MVや映像方面でも、その影響があるのかも知れませんね。今は一曲ごとに、リリックビデオなどの何らかの映像が作られるので、それに合わせてデザイナーさんが曲名の作字やロゴのデザインをしますし、グラフィックデザイナーさんがMVの領域でも仕事をされる傾向があるんじゃないでしょうか。昔はもっと、映像とグラフィックデザインが分けられてたのではないかと。それこそスケブリさんは、CDのデザインもMVのディレクションもやってますよね」
KMI「あと、今のトレンドとして、プニッとした感じはありそうですね。平面であっても立体感を模したデザインが流行っている気がします。iPhoneのUIなんかも、昔は写実的だったけど、一度フラットになって、今またちょっとガラスの質感が出たものになっていたり。グッズの発注でも、そういうご要望が増えている気がします。Illustratorの3D機能がすごく使いやすくなったという、技術面の理由もありそうですが」
――たしかに、ボンボンドロップシールとかも流行ってますしね。配信のみの曲のジャケットでも、シュリンクの光沢とか中古レコードの埃っぽさがレイヤードされたデザインもよくあるし、フィジカルっぽさは求められている気がします。
KMI「それで言うと、ミームトーキョーさんの『リバーズ・エンド』も、そうかも知れません。私がディレクションさせていただいたのですが、まず写真がありつつ、ストリートっぽさ、グラフィティっぽさが欲しい、というようなご依頼でした。なので、ポラロイドのフレームに、手書きのペン、ステッカーなどを配置しています」
松岡「配信シングルで、こういう実体感のあるデザインは面白いですね」

CD特有の自由さや工夫の余地
――それも踏まえて、CD特有の魅力というものがあるとすれば何でしょうか?
KMI「やっぱり〈光る〉というところですかね。自分が過去にデザインしたCDの盤面はどれも、インクで全部覆うということはなくて、どこかしらにディスクそのものの光沢が露出するデザインにしているんです。それは無意識にやっていたんですが、子どもの頃に〈こんな虹色に光る円盤から音が出て、CDってすごい!〉と思ったことがあり、その頃の感覚が今もあるからかも知れません」
――カニエ・ウェストの『Yeezus』みたいな、ディスクであることを活かしたデザインは自分もテンション上がります。
松岡「本にも掲載している、ラッパーのJJJさんのアルバム『MAKTUB』は、レコードとCDでデザイン自体は同じなのですが、CDの方は凹凸感のあるエンボス紙になっているんです。デザインを手掛けたItsuko Kiraさんも〈CDの方が気に入っています〉と仰っていて、レコードとCDでデザインが微妙に違うことはよくありますけど、CDの方がよりこだわりがある、というのは面白いなと思いました。本の写真も、その質感がなるべく伝わるように、ズームで撮っているんです」
――デザイナーさんのこだわりを含めて、作品がモノとして残ってるということは、改めて素敵ですね。
松岡「弊社も書籍というモノを作る仕事に携わっている中で、やっぱりフィジカルの良さというのは常に意識していますし、CD特有の自由度の高さや工夫の余地はあるんじゃないかと思います」
KMI「こうして出来上がった本を見ていると〈素敵なデザインって、いっぱいあるんだな〉と思いました。自分が見ていたものは、ごく一部に過ぎなかったというか」
――名盤レコードジャケットの本なんかはよくありますけど、こういう現在進行形のデザインをまとめた本は、なかなか無いですよね。これまで自分の関心外にあったアーティストの作品も、パッケージや中身のデザインに目を向けるきっかけになります。年鑑みたいに、後から振り返って読んでも発見がありそうです。どうもありがとうございました。

BOOK INFORMATION

発売日:2025年11月27日(木)
ISBN:978-4-8025-1325-8
仕様:B5判/276ページ
編集:BNN編集部
カバーアート:丸井元子
デザイン:中山正成(APRIL FOOL Inc.)
定価:3,740円(税込)
CONTENTS
Part 1 Jacket Artwork / Package Design
Part 2 Promotional Design / Merchandise / MV
Interview 1 河島遼太郎
Interview 2 Ricks Ang(KITCHEN. LABEL)
Interview 3 益本タカオ
Interview 4 maxilla
PROFILE: KMI
グラフィックデザイナー。音楽をはじめとしたポップカルチャー分野を中心に、グッズ、CD・デジタルアートワーク、ロゴなどのデザインを手掛ける。イベント出展やオリジナルグッズの制作・販売といった自主制作活動も行い、近年はトークイベント出演など活動の場を広げている。
オフィシャルサイト:https://kimoiomik.net/
Instagram:https://www.instagram.com/ki_moi/
INFORMATION
トークイベント〈スーパーの販促シールナイト2〉アーカイブ配信中
出演:せきしろ/reina(lyrical school)/sayo(lyrical school)/KMI(グラフィックデザイナー)
配信チケット:通常チケット 1,500円/応援チケット 2,000円
アーカイブは2026年2月24日(火)23:59まで購入可、購入後14日間視聴可能
詳細:https://premier.twitcasting.tv/rockcafeloft/shopcart/413243
書籍「イメージから導く色のアイデア ロゴデザイン配色ブック」発売中
AYA graphics/カジデザイン/KMI/芝山綾乃/Panzoo 共著
発行:エムディエヌコーポレーション

PROFILE: BNN
2002年設立の出版社。デザインとテクノロジーの分野に主軸を置きながら、アート・クラフト・映像・ファッション・建築など、さまざまなジャンルに領域横断した書籍を刊行している。デザインの価値を世に伝え広めること、デザインする人を増やすこと、作る人を支援することを目指して本づくりを行う。
オフィシャルサイト:https://bnn.co.jp/
PROFILE: 松岡 優
BNN編集部に所属。立命館大学経営学部卒。学生時代はライブイベントの企画を行うなど音楽に明け暮れる日々を過ごす。アニメ制作会社での勤務を経て2018年にBNNへ入社。「あたらしい音楽のデザイン」のほか、担当書籍に「アニメ・ゲームのロゴデザイン」「スタジオジブリの撮影術」「アニメ音響の魔法」などがある。
PROFILE: Kotetsu Shoichiro
ミュージシャン(トラックメイカー/DJ)。90年生まれ、香川県出身。ダンスミュージック全般を手がけ、ラッパーやゲーム音楽、CMなどに楽曲提供の実績多数。2021年にはラッパー・T-STONEへの提供曲“Let’s Get Eat”がBillboard JAPANのTikTok Weekly Top 20で1位を獲得。また2022年にはtofubeatsのアルバム『REFLECTION』収録の“Vibration feat. Kotetsu Shoichiro”へラップで客演し話題を呼んだ。ライター/インタビュアーとしてはミュージック・マガジン、Quick Japan、CINRA、関西ソーカルなど数々の媒体に寄稿。ほか、さとうもか“Lukewarm”“Loop”をはじめ他アーティストのMVなど映像/アニメーションの編集も手がけるなどジャンル/形式に囚われない幅広いスタイルで活動をおこなっている。
オフィシャルサイト:https://kotetsu-shoichiro.com/
X:https://x.com/y0kotetsu
Instagram:https://www.instagram.com/y0kotetsu/
YouTube:https://www.youtube.com/@y0kotetsu



