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手放したくないものの始まり

 そして、聴きどころはもうひとつ。多彩な顔ぶれのゲスト・シンガーたちとの共演だ。冒頭の“Here”でしゃがれた歌声を響かせ、いきなり存在感を見せつけるグラミー受賞カントリー・シンガーのクリス・ステイプルトンは、マーカスいわく「いま世界でいちばん好きなシンガー」。マーカスと共に歌い上げ、バラードの“Rubber Band Man”に熱を込めるアイルランドのシンガー、ホージアはマムフォードのメンバーたちとは長い付き合いなのだそうだ。アルバムの全曲を聴いたうえで、ブランディ・カーライルも共作した“Rubber Band Man”を歌いたいと申し出たという。

 ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンが参加していると聞いたら、“Prizefighter”のアトモスフェリックなサウンドも、あぁ、なるほどねと頷けるだろう。“Icarus”に可憐な歌声を加えているジジ・ロペスは、USインディー・シーンのブライテイスト・ホープ。マムフォードとステージを共にしたことから、今回、客演が決まったようだ。さらに、クラシカルなピアノがメランコリックに鳴る“Badlands”では、ビリー・アイリッシュ、オリヴィア・ロドリゴと並び称される新世代シンガー・ソングライター、グレイシー・エイブラムスが美しい歌声を重ねている。彼女の参加は、そもそもはアーロンのコネクションなのだと思うが、当初アルバムのレコーディングでマーカスいわく「チアリーダー役」を務めていた彼女はメンバーたちから客演を求められ、〈それなら〉とみずから“Badlands”を選んだのだという。

 そんなグレイシーをはじめとするゲストの歌声もまた、『Prizefighter』が『RUSHMERE』の単なる続きなどではないと思わせる要因のひとつなのだろう。そういう意味で聴きどころなのだが、かつてファンの間で物議を醸した、バンドの進化を目的としたさまざまなチャレンジとは違って、『RUSHMERE』における原点回帰の延長上でバンドの前進を確信させる今回の試みは、昔からのファンからも歓迎されるに違いない。

 きっとメンバーは自分たちが求められているものをちゃんと理解したうえで、何をやるべきなのかしっかりと把握しているのだろう。そこに結成から20年を迎えようとしているバンドの成熟を感じたりもする。

 「僕たちはまだまだ終わっていないよ。僕はいま、自分たちが手放したくないものの始まりにいると願い、信じている。このバンドの一員でいることに、これまで以上に興奮しているんだ」。

 そんなマーカスの言葉からも、マムフォード&サンズというバンドが現在のメンバーたちにとって、どれだけ大事な存在なのかが窺える。『Prizefighter』を聴きながら、その思いを分かち合いたい。 *山口智男

『Prizefighter』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、クリス・ステイプルトンの2023年作『Higher』(Mercury Nashville)、ホージアの2023年作の豪華版『Unreal Unearth Unending』、ジジ・ペレスの2025年作『At The Beach, In Every Life』(共にIsland)、ボン・イヴェールの2025年作『SABLE, fABLE』(Jagjaguwar)

マムフォード&サンズのアルバム。
左から、2009年作『Sigh No More』、2012年作『Babel』、2015年作『Wilder Mind』、2018年作『Delta』(すべてIsland)

左から、マムフォード&サンズの2025年作『RUSHMERE』、マーカス・マムフォードの2022年作『(self-titled)』(すべてIsland)