THE MAD CAPSULE MARKETS脱退後は、布袋寅泰や大黒摩季を筆頭に多くのアーティストをサポートしてきたギタリストのAi Ishigakiと、ブライアン・セッツァーのような海外勢からVAMPS、土屋アンナらまで多岐に渡るアーティストをサポートしてきたベーシスト、Ju-ken。20年近くに及ぶ旧知の2人が、レゲエ・ディージェイRueedをヴォーカリストに迎え、Derailersを結成した。〈脱線する者たち〉という意味をこめたそのバンド名は、ジャンルを超えた3人の姿を映すとともに、まだ見ぬ音楽へと向かう彼らの意志を表したものでもある。このほど発表となるファースト・アルバム『A.R.T』をもって、バンドは本格的な一歩を記す。
――バンド結成にあたって、旧知のおふたりがRueedさんに声をかけた経緯は?
Ju-ken「Ishigakiとヴォーカル探すかってなって何人かお会いしたんですけど、なかなかピンと来る方がいなくて。その時たまたまIshigakiが行ったライヴにゲストで出てたのがRueedで、Ishigakiが射抜かれて〈すげえのがいたからコンタクト取りたいんだけど〉て。それでコンタクト取ってこういうふうになりました」
Ai Ishigaki「いろんなヴォーカリストいるんですけど、出てきた時のインパクトと声、もちろん雰囲気含めて何か違ったんすよね。それで話をしたらRueedも自分と違う畑でもやってみたいと思ってたっていうから、〈じゃあ曲作ってみようよ〉っていう。だから話は早かった」
――バンドを始めるにあたって方向性のすり合わせなどはなかったんですか?
Ju-ken「基本はまず生(楽器)でやっていこうっていうことだけ。共通項として僕らブラック・ミュージックが好きだっていうことがあったんで、リズム的にそっち寄りになるかもしれないとは漠然と思ってたんですけど」
Ai Ishigaki「個人的に好きなものにブラック・ミュージックが多いのは(Ju-kenと)お互いに知ってたし、Rueedともルーツをたどっていけばつながる部分があるので、細かくちゃんとやりとりしてみたいなことはなかったです」
――そこで言う〈ブラック・ミュージック〉とはどのあたりの……?
Ju-ken「60年代後半から70年代を中心にジェイムズ・ブラウン、スライ・ストーン、マイケル・ジャクソン、パーラメント……」
Ai Ishigaki「もっと(時代が)近いところで言うんだったらザ・ルーツとかエリカ・バドゥ、ディアンジェロ、さかのぼってったらアレサ・フランクリンも好きだし、ブラスが鳴ってるファンクの艶やかさ、派手さに自然と耳が行くし、そこに自分のツボに来るメロディーが乗ってると余計惹かれますよね」
Rueed「俺はJBとかはホント有名な曲とかしかわかんないですけど、俺の中で流れてた一番最初のブラック・ミュージックがヒップホップだったりレゲエだったりするから、そこにギャップはなかったし、逆に俺の求めてるものもわかってもらえるっていう」
――じゃあすり合わせも特になかったと。ロックを中心に数多くのアーティストとレコーディングを共にしてきた中で、この3人での曲作りはどうでしたか?
Ju-ken「呼ばれる仕事ではオーダーに応えたい自分もいますから、ロックな自分やパンクな自分にモードを切り替える。ここでは本来の自分に戻れるというか、単純に楽しい」
Ai Ishigaki「人のサポートとは違ってパーソナルなものが表現できる場所だし、バンドをやってるから個人ではでない力とか、いろんなエネルギーが生まれて、今はまだ見えない何かに対して向かっていってる感じ」
――その延長で、今回のアルバム全体についてはどのようなコンセプト、テーマがあったんでしょう?
Ju-ken「そこは狙って作ってないです。前回EP(『Track"0"』)で作ったものの対極にあるものだったり、こういう曲が少ないから作ろうかとか。僕らの思ってるどレゲエな感じには寄らないでカッコいいトラックを作って、Rueedが仮歌乗せて、手直しして本番に向かうっていう感じで」
Ai Ishigaki「メンバー含めたミュージシャンそれぞれの血なり呼吸、鼓動なりがあってこその音楽っていうところがアルバムのウェイトのほぼ全て。人と人がお互い奏でることって、実は音以上にその後ろ側にある人間力、人間性が大事で、それがあって初めて音楽が作られると思ってるし、決して機械じゃ再現できない。そこで例えどんなジャンルと呼ばれる曲になったとしても、Rueedの歌詞だったり歌が乗ればそこで全部筋が通ると思ったし、その先はどこの方向に行っても大丈夫だなって」
――曲作りはどのように進めましたか?
Rueed「どういうゴールに向かってるとかは最初にないんだけど、3人で同じ方向向いて、いろんな可能性を探して、試してるみたいな感じですよね」
Ju-ken「Rueedに会う前に僕らそれぞれトラックを作ってきて、2人の曲も何曲かはあったんで、その中で書きやすそうなやつをピックしてもらって完成したのが前回のEPなんです。ただ、もっとバンド色をっていうとこで3人で一緒にやってみることも試してみたらそっちの方がよかったんで、今回のアルバムはほとんど3人でプリプロして作っていった。Rueedの声と歌詞の世界に一番いいハマりを探していって、〈あれもアリだよね、これもアリだよね〉っていうんじゃなくて、〈これだ!〉っていうのを見つけたかった。そのためのプリプロはいっぱいやりました」
――特にRueedさんにとっては、いつもと勝手の違う曲作りかと思いますが、そこで戸惑いなどはありませんでしたか?
Rueed「ヴォーカル面も含めて全部がチャレンジだったんですけど、返ってくる反応がすごくわかりやすい現場だったから、納得して一個一個進められましたね。ソロだと歌詞も決め打ちでこれ!って感じで完成させてたような細かい部分も、ここは〈が〉じゃなくて〈も〉かなっていうレベルまで何度も自分のリリックを見つめ直してすごく刺激になったし、なんか知らない部分の自分や、またちょっと違う切り口にまで到達できたり、いいアドヴァイスをもらってこうした方がいいなっていうのに気づいたりとか、いろいろ勉強になりました」
Ai Ishigaki「でも、逆にこっちがもらう新鮮味の方が強かったように思う。わりとこっちからテーマも無茶振りしてもそこから考えてくれてこういう表現ができるんだっていう発見もあったし、レコーディングでは、Ju-kenがピッチ一つからシビアに見てくれて、周りにいるスタッフもやりやすい環境を作ってくれて導いてくれたんで、その部分では楽でしたけど」
Ju-ken「サウンド面では俺とIshigakiがああじゃないのこうじゃないのって相当やりあいますけど、お互いの融合点っていうんですか、この辺がDerailersっぽいねっていうのがなんとなくわかりかけてきてるから、お互い引きずることもない。一回このラインがハマるなって思ったら、アレンジが決まってから早いし、歌詞に対しても、こちらから言うのは尺の部分だけですね。基本的に彼の表現の仕方がすごく好きなんで、そこは極力壊したくなかった」
――曲のアイディアについては実際どのようなやりとりがあったんですか?
Ju-ken「いろいろあるんですけど、元ネタ持って来ることもあれば、コードの組み立てのアイディアを誰かが持ってきたり、逆にRueedが昔書いた曲でこういう詞があるんだけど、それを3人で俺ら風にしてみようかって感じでスタジオでコードいじったり節を変えたり」
Rueed「リリックは内から出てくるメッセージを一番大事にしながら音のイメージで作ったり、キーワードもらってそっから広げてみたり、遊びで録ったまんま別にリリースも何もしてない曲が結構あったりするから、そこからちょっとつまんで持ってきてそれを3人で膨らませたり。埋もれてた曲に息を吹き込まれるその感じも嬉しかったですね」
――そうした中で"Good Vibration"は、タイトル通りバンドとしての一体感がキャッチ―なメロディーや音とともに弾けた曲だと思いました。
Ju-ken「僕はメロディー先行で曲作ることが多いんですけど、ヴァイブレーションとかヴァイブスってレゲエでよく使われる言葉だけど、意外と避けてその言葉使ってなかったなと思ってたんですよ、他の曲聴いても。そういうのとロックなリフが一緒になったら面白いんじゃないかなと思って。そのメロディーを3人で膨らませた。"Master Blaster"もそんな感じでIshigakiが持ってきたリフを3人で膨らませてコードを付け直したり、ストリングスのアレンジをしました」
――それぞれに思い入れのある曲についても聞かせてもらえますか?
Ju-ken「"My Town"ですかね。これは歌詞が最初にあったんですけど、自分じゃ表現できない気持ちをホント見事に曲にできたと思っていて。仲間だったり自分の生まれ育った街だったり、親への感謝の気持ちって、ちょっと間違うとすごく臭かったり、カッコつけすぎたものになっちゃうと思うんですけど、Rueedの感性、Rueed節によってスーッと素直に聴ける曲です」
Rueed「俺は"Satisfaxion"ですね。前回のEP出した後にはもう原型があってライヴでもやったんですけど、次の作品では形にしようって話からできた曲で。詰まって詰まって書くのに時間かかる曲ってなんか歌わなくなったりとかして、意外とさらっと書いちゃった曲の方が体に染みこんでることが多いんですけど、この曲もすぐ書けた曲で、ホントに言いたいこと、自分が自分に言いたいことも詰まってるのかなと思いますね。そん時降ってきたフロウとメロディーもハマったんですぐ録らしてもらいました」
Ai Ishigaki「今"Satisfaxion"を言われたので、"I’m Free"にします(笑)。アルバムの中にあるべき世界観の一つとして、自分達の曲でなくても好きになるような曲。歌詞は抽象的な表現になってますけど、自由ってものに対するRueedの捉え方、逆説的な意味、すごい狭い世界にいるようだけど、心の中はすごく広いところにあって、全てが対比されてる。これだけドラムと鍵盤とコーラスでmabanua君が参加してくれてるのも嬉しいし、曲にもマッチしてると思う」
――それらを踏まえて、改めて本作の手ごたえを。
Ai Ishigaki「タイトルにもなってる『A.R.T』にはいろんな意味があるんですけど、表現者である以上は自分の主義主張、価値みたいなものをまず提示することから始まらない限り、その先はないと思ってる。音楽は聴いてくれる方がいて成り立つものだから、そこでサービスと芸術のバランスをどこで取るかが大事。サービスばっか増えてもアートはなくなるし、アートばっかだったらマスターベーションにしかならない。そのバランスを取った中で自分達の立ち位置、意義みたいなものはここにあると思ってます」
Rueed「今一番欲してるものといったらライヴですけど、この盤も多くの人に聴いてもらいたい。バーッと通しで聴いて、一発で全部理解できるようなアルバムじゃないと思うんですよ、どういうこと言ってんだろみたいな。もちろん〈ノリいいね。ドライヴで聴きたいね〉っていうのでも別にいいんですけど、もう一個深いところで俺のメッセージに何か思ってくれたら、たぶんもっと面白くなる。そういう音楽が俺は好きだし、そういうのも含めアートとして楽しんでもらえたらなと思いますね」
Ju-ken「テンプレートとしてこれが僕たちの基本だよっていうものは出せたけど、録音したものとライヴで培うバンド力は別物。こっち(作品)は生み落としたんで、あとはもう一つのバンド力を上げていく作業になる。これからはアコースティックでやるライヴも出てくると思うし、ドラマーとキーボーディスト入れてやるライヴもある。どの形態でもDerailersとしての音、グルーヴ、メッセージを出せるようなバンドになりたいし、とにかくライヴで音の結束をもっと強くすることをやっていけば自然に制作の欲望もまた出てくるだろうと思う。それがいい風にループしていくといいですね」
――本作はあくまで、バンドとしての始まりだということですね。
Ai Ishigaki「お互い〈カッコいい!〉ってつながる以外の部分もそれぞれいっぱいあるから、3人がどこのチャンネルでつながるかで発見もあるし、お互いの活動もフィードバックできる。それがバンドの進化でもあるし、それぞれがまた歳を重ねて違った感覚で音楽に触れることでバンドの引き出しも増えていくから、また違う表情が出ると思う。バンドはやっぱりそうでなきゃいけないですよね。会社とは違うんですけど資本金が増えていく感じというか(笑)」
〈Derailers デビュー・アルバム『A.R.T』発売記念インストア・イヴェント〉
・2014年12月7日(日)16:00~ タワーレコードNU茶屋町店 イヴェント・スペース
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・2014年12月17日(水)20:00~ タワーレコード横浜ビブレ店 イヴェント・スペース
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