タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/
つねにリスナー視点を大切にした語り口とユーモラスな発想をもっと多くの人に知ってもらいたい、読んでもらいたい! ということで始まったのが、連載〈パノラマ音楽奇談〉です。第13回は、Mikiki 10周年の特別企画として、北爪さんと関わりが深い六角精児さんへのインタビューの後編となります。 *Mikiki編集部
★連載〈パノラマ音楽奇談〉の記事一覧はこちら
★Mikikiの設立10周年を祝う記事一覧はこちら
今回は前回に引きつづきMikiki 10周年を記念した特別企画として、俳優の六角精児さんが選ぶ〈ロックアルバムベスト10〉の後編をお送りします。旅先で酒を呑みながら進めた対談(というか雑談)なので、その辺りをふんわりと汲みつつお読み頂ければ幸いです。
六角「(焼酎をコップに足しつつ)ジョニー・ウィンターの『Nothin’ But The Blues』ってアルバムあるじゃん。ドブロギターでスライドしててさ、あれはカッコいいなって思った」
北爪「さっき(前回参照)言ってたジョニー・ウィンター・アンドの『Live』じゃなくて?」
六角「俺のルーツって意味では『Live』なんだけど、でもベスト10に入れるんだったら『Nothin’ But The Blues』かな。だって今でも聴いてるもん。最近もマイク・ブルームフィールドとジョニー・ウィンターを2枚ずつ聴き直したんだけど、ブルームフィールドは大人だけどジョニー・ウィンターは子供だねぇ(笑)」
北爪「子供?」
六角「ギターのフレーズの作り方とかさ。でもそれが熟成されて本当にブルース化したのが『Nothin’ But The Blues』だと思うんだよな。あのアコースティックのボトル(ネック)プレイが最高ですね」
北爪「渋いセレクトだけど(ベスト10に入るのは)面白いかも」
六角「あとはやっぱりニール・ヤングかな。最近でも買うのが追いつかないくらいアルバムを出してるけど、一枚選ぶなら『American Stars ’N Bars』だな。スカートの中が見えてるジャケットの」
北爪「でもいま『Zuma』(ニール・ヤングのアルバム)のTシャツ着てるじゃないですか(笑)」
六角「そうなんだけどさ(笑)。『American Stars ’N Bars』はなんてったって“Like A Hurricane”が入ってるじゃないか。アコースティックじゃないロックなニール・ヤングならクレイジー・ホースとやってるあの曲が一番だよ」
北爪「たしかにエモーショナルな名曲ですよねぇ」
六角「じつは最初リアルタイムで聴いたときはよくわからなかった。でも金が無かったから買ってしまったレコードは何度も何度も聴き返すわけだよ。それで飽きてしまうものもあるんだけど、その噛みに耐えて好きになったアルバムの一枚だな」
北爪「音楽として繰り返せる耐久度が高いってことか」
六角「うん。ステイタス・クォーとかフォガットは聴いてすぐにわかったけど、そのぶん耐久度が低かった(笑)。だから俺がいま選んでいるべスト10は、スルメイカのように何度もしゃぶってもそれでもなお味がするものが多いかもしれないな」
北爪「“Like A Hurricane”もそうだけど、ニール・ヤングってなんとも個性的なエレキギターを弾くじゃないですか。あれはプレイヤー視点だと上手いんですか?」
六角「あんなギターが弾けたら上手いとか下手とか関係ないよ。あの音にニール・ヤングの人間味がダダ漏れしてるわけだから、テクニック云々ではない凄みがあるんだよ」
北爪「なるほどな。そういや、よくわからなかったといえばザ・バンドの『Music From The Big Pink』は高校時代に聴いたけど2年くらい理解できなかったです」
六角「俺もそうだよ。でも俺はボブ・ディラン&ザ・バンドの『The Basement Tapes』を先に聴いていたんだよ。それで〈何なんだこのリチャード・マニュエルって人の頼りないボーカルは。ロックやフォークとちゃんと向き合ってないんじゃないのか〉と思ってた(笑)」
北爪「言いたいことは少しわかります(笑)」
六角「あとさ、あのアルバムって地下室で適当に演奏しながらズルズルと始まってダラダラと終わる感じがするじゃないか。ロックってこんな不真面目でいいのかよと(笑)。でも買ってしまったから仕方なく毎日聴くわけなんだけど、そしたら……」
北爪「スルメイカだったってわけですね」
六角「そうなのよ。だけどその後に『Music From The Big Pink』を聴いて、やっぱりもっさりとした変なアルバムだなと思った(笑)。もちろん今では大好きなんだけど、でもディランを入れているからザ・バンドは外すことにするわ」
北爪「じゃあヴェルヴェット・アンダーグラウンドってすぐに理解できました? 僕は最初よくわからなかったな……」
六角「わからないとかじゃないんだけど、『The Velvet Underground & Nico』ではなくてニコのソロアルバムの『Chelsea Girl』は高校時代によく聴いたなぁ。女性ボーカルではサンディ・デニーも好きだったけど、先に聴いてたニコのインパクトの方が大きいな」
北爪「え、ヴェルヴェッツじゃなくてソロ?」
六角「そう、とくに“Chelsea Girls”の〈フェンフェンフェンフェンフェンフェン〉っていう単純なんだけどエッジの利いたギターで始まってニコの静かな歌声が入ってきてさ、〈これは何だ!?〉ってすごくショッキングだった。アメリカやイギリスではなくて東欧とか共産圏のロックなんじゃないのかって勝手に思ってたんだよ」
北爪「あの退廃的な感じがエキゾチックに思えたんですかね?」
六角「そうなのかも。当時はアンディ・ウォーホルも知らなかったし、ヴェルヴェッツやルー・リードも後になって聴いたからな」
北爪「それはなかなか奇特ですね」
六角「『Chelsea Girl』はとにかく衝撃だったのでベスト10に入れよう」
北爪「そういえば前にクラフトワークも意外と聴いてたって言ってませんでしたっけ?」
六角「(柿ピーを食べつつ)“Showroom Dummies”は好きだったな。……そう、これこれ(スマホから“Showroom Dummies”が流れる)」
北爪「いま聴くとやたらシンプルな音楽ですよねぇ」
六角「素朴だよなぁ(笑)。でも当時はすごく新しい音楽だと思ったんだよ。これはもう持ってないんだけど、『Autobahn』は今でもたまに聴くね」
北爪「高速道路を運転するシミュレーションの音楽って発想が面白いですよね」
六角「一つのテーマでずっと同じような曲調なんだけど、途中で〈ファンファンファン〉っていう間抜けなコーラスが入ってさ。高校3年の頃によく聴いてたから、入れてもいいかもな」
六角「……そうだ、あとブライアン・セッツァーは入るかもしれない」
北爪「いいですね、ネオロカ!」
六角「ストレイ・キャッツがデビューしたときのフルアコをガンガン弾きまくってる感じは、フォークギターをポロポロ弾いてただけの俺にはかなり衝撃的だったんだよ。しかもジミー・ペイジやリッチー・ブラックモアと違って同世代の、まるで子供みたいなヤツが弾いてるんだから(笑)」
北爪「先輩じゃなくて同じ学年にすごいやつがいるみたいな(笑)?」
六角「そう。それに50年代のロカビリーとはギターのアタックも全然違うしさ。でもあの人は上手いとかフレーズが云々とかよりもノリというかグルーヴ感が抜群なんだよ」
北爪「ノリってテクニックよりも大事なんですかね?」
六角「大事だね。最近わかってきたんだけど、音楽的に色々なものを抜いてったとしてもちゃんとグルーヴがあるってのが一番すごいんだよ。それは六角バンドの目指すところでもある」
北爪「ああ、なるほど。じゃあその後のブライアン・セッツァー・オーケストラはどうです?」
六角「大好き。ストレイ・キャッツだとギターが常に前に出てるけど、オーケストラだとラッパとかの分厚い音が入ったなかで途中からギターが出てくるじゃん。あの〈さあ主役の登場だ〉って感じがたまらない。それでよりグルーヴが引き立つんだよ」
北爪「自分自身の見せ方ってことかな」
六角「演出が上手いんだよな。だから『The Dirty Boogie』を初めて聴いたときは〈コレだよコレ!〉っていう感じで嬉しかったなぁ。もともと好きだったのがさらに好きになったね」
北爪「(ポテチを食べつつ)そういえばまだライ・クーダーが出てきてないな。『呑み鉄(六角精児の呑み鉄本線・日本旅)』のBGMでいつも流れてるし、大本命じゃないですか」
六角「そうなんだけど、ライ・クーダーは選ぶのがすごく難しいんだよ。うーん……でも一枚に絞るのならば一番最初に買った『Ry Cooder』だな」
北爪「お、デビューアルバムだ」
六角「“Police Dog Blues”っていうオープンDチューニングの曲が入ってるんだけど、高1のときそれをコピーして毎日ギターの練習をしていたんだよ。だから思い入れが強いし、自分がずっとルーツミュージックを追いかけていくことになる最初のきっかけのレコードでもあるし」
北爪「ヴァン・ダイク・パークスのプロデュースってのもあるけど、あのアルバムはバーバンク系のテイストがありますよね」
六角「そう、ちょっと不思議なヒネリがあるんだよ。それと『Into The Purple Valley』や『Chicken Skin Music』と比べるとブルースっぽいんだけど、それもいい」
北爪「ライ・クーダーは以降もずっと聴き続けているんですか?」
六角「新作が出るたびに必ず買っているよ。色々なブルースマンやテックスメックス、ハワイ音楽なんかを教えてもらった、先生みたいなもんだね」
北爪「必殺ルーツ紹介人みたいなところがありますもんね」
六角「あ、ライ・クーダーで思い出した。最近さ、久保田麻琴と夕焼け楽団の『ハワイ・チャンプルー』を聴き直したんだけど、あれは素晴らしい」
北爪「僕も大好きなアルバムですよ」
六角「でも昔聴いたときはライ・クーダーの焼き直しみたいだなと思って正直ピンと来なかったんだよ。若い頃は日本人がやるルーツ音楽を良しとしない変な頑固さみたいなものがあってさ。でも最近改めて聴いてみたら久保田麻琴はすげえよ」
北爪「じゃあ今までのベスト10候補とは違う感じですね。スルメイカともちょっと別だし」
六角「そうなんだよ。青春期の思い出とかではなくて、大人になって本当の良さがわかった一枚。夕焼け楽団は他のアルバムもいいんだけど、『ハワイ・チャンプルー』は飛び抜けてるね。音作りが全然違う。この手の音楽は洋楽の方が上だっていう偏見を持ってたせいで、当時はわからなかったんだろうなぁ」
北爪「それが今は、日本人がやってるからこそいいって思えるようになったんですかね?」
六角「うん、いま聴き返すと〈いやいや日本のアーティストだって昔からすごいことやってたじゃないか〉って思うんだよ。自分の音楽の知識が増えたことによってようやくそれに気付いたのかもしれないけど」
北爪「色々なものを聴いて自身の経験値がアップすると、わからなかったものが不意に理解できたりしますよね。自分にとってザ・バンドはまさにそんな感じだったかも」
六角「そうそう。細野(晴臣)さんも昔はよくわからなかったけど、今はとてもいいなって思うし。だから音楽って面白いんだよな」
北爪「ところで、いい加減酔いどれてきたのでそろそろベスト10を決めませんか」
六角「そういやもう4時間近く呑んでるじゃないか!」
北爪「うーむ、ちょっとメモを整理してみます」
(この後もメモしたリストを見ながらああだこうだと選別が続きますが、非常にユルいので省略)
六角「よし決まった。これが俺の10枚だ」
六角精児のロックアルバムベスト10(順不同)
The Beatles『Please Please Me』
Bob Dylan『Blonde On Blonde』
泉谷しげる『’80のバラッド』
Yes『Fragile』
Johnny Winter『Nothin’ But The Blues』
Neil Young『American Stars ’N Bars』
Nico『Chelsea Girl』
The Brian Setzer Orchestra『The Dirty Boogie』
Ry Cooder『Ry Cooder』
久保田麻琴と夕焼け楽団『ハワイ・チャンプルー』
PROFILE: 北爪啓之
72年生まれ。99年にタワーレコード入社、2020年に退社するまで洋楽バイヤーとして、主にリイシューやはじっこの方のロックを担当。2016年、渋谷店内にオープンしたショップインショップ〈パイドパイパーハウス〉の立ち上げ時から運営スタッフとして従事。またbounce誌ではレビュー執筆のほか、〈ロック!年の差なんて〉〈ろっくおん!〉などの長期連載に携わった。現在は地元の群馬と東京を行ったり来たりしつつ、音楽ライターとして活動している。NHKラジオ第一「ふんわり」木曜日の構成スタッフ。











