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作品がよかったらどうでもいいじゃん

――では、今のモードでは何が大事なのでしょう?

「私は天才でもないし、技術が優れているわけでもないんですね。よく見せようと編集したところで、元から才のある人には絶対に敵わないし、それは〈いい偽物〉ではないなと。だったら、調子が狂ったままでいた方が個性が出るんじゃないかと。綺麗にするのは誰でもできますが、自分から出る汚れたものは真似できないんじゃないか、という考えもありますね」

――その発見は今作にどう反映されていますか?

「増幅しましたね。今作は制作期間があり得ない短さで、3~4週間くらいしかなかったんですよ。なので物理的に直す時間がなくて、歌も楽器も録り直してないんです。適当に作ってるとかではないですけど、演奏前に入った音とかも消してなくて。部屋がそのまま入ってる感じですね。『STRANGE POP』の時の気づきがなければ、こういう手段は取れなかったと思いますし、収録曲が半分になっていたかもしれません」

――前作がファンへの愛を伝える作品だとすれば、今作はどのような作品でしょうか?

「大前提として、自分はもう聴いてくれる人のためにしか作品を作ってないので、その根幹は変わらないんですが……制作中に一番考えていたワードは〈どうでもいい〉で。

曲の作り方に関しても、どうでもいいという気持ちが溢れてました。歌はできたばかりの歌詞でレコーディングして終わり、みたいな感じだったし、楽器演奏もデモのつもりで弾いたものをそのまま使っています。打ち込みも9割くらいキーボードで弾いているので、ピアノロールはいじってなくて。パソコンが古いのでレイテンシー(遅延)が凄いんですが、それも直してないです。(完成したものが)よかったらどうでもいいじゃん、というか。〈どうでもよろしい〉という感じかもしれません」

――では自動書記的な作り方が、より徹底されているんですね。

「そうですね。ただ、メンタルは前作より安定しているので、自動書記という感覚ではなかったです。コントロールして作っているけど、本当に勢いだけ、みたいな感じですね。

歌や楽器を録り直してないと言いましたが、一応もう一本くらい録ってみたりしたんです。でも、そのテイクは使わないことが多くて。デモの〈なんだろう、このよれ方は?〉みたいな演奏が、今のモードにハマった感覚がありました」

――前作で新たな〈笹川真生らしさ〉ができた面もあると思いますが、それについてはどう捉えていますか?

「虚飾の部分が大きかったものより自分自身で愛せていますし、ポジティブに捉えています。ファンにも喜んでもらえて、〈気のままの自分の方がよかったのか〉〈ああ、よかった〉と思いました。『STRANGE POP』でRAWデータの自分を愛してもらえたので、〈じゃあもっといくよ〉というのが今作ですね」

――その結果、前作からさらに踏み込んだようなサウンドになった。

「そうですね。自分の中の枷みたいなものが外れて、昔やっていたことをやったり、やったことがなかったことを取り入れたことで、感覚が麻痺してきて。それで今作の方がうるさくなったのかもしれません」

――麻痺した結果なんですね(笑)。『CULTURE DRUG ORCHESTRA』というタイトルの意味って訊いてもいいですか?

「うーん……降りてきた(笑)。何か意味があってつけたわけではなくて、最初にアルバムタイトルを思いついて、そこに曲を寄せていく作り方をしました。今作は概ね曲順通りに制作していて。〈CULTURE DRUG ORCHESTRAとは言ったけど、それってなんだ?〉と自分で紐解いていく制作でしたね」

――それは紐解けたんですか?

「紐解いていった結果、〈もうどうだってよくね?〉と。全部めちゃくちゃだから、どうだっていいじゃないかという気持ちがこもっている気がします」

 

一番好きな声優・平塚紗依さんにどうしてもお願いしたかった

――リード曲の“懐古主義わたし”には、声優の平塚紗依さんが参加されていますね。これはどのような経緯で?

「この曲には、自分と同世代で似たインターネット(の光景)を見ていた人は〈あれね〉と勘づく要素があるんです。それを考えると、可愛い声で、歌を本職にしていない人が歌うのがいいなと。それなら絶対に声優さんがいいし、声優さんなら平塚さんが一番好きなのでお願いしたという感じですね。

いつも曲の赤ちゃんができたタイミングでマネージャーに共有しているんですが、仮歌すら入れていない段階で〈どうしてもお願いしたい人がいるからアポを取ってくれ〉とお願いして。そうしたら、有難いことに引き受けていただきました」

――平塚さんに依頼した時点で歌詞は決まってなかったんですか?

「その時点では〈エーテル ナイファー……〉と詠唱するところだけできていました。そこができたタイミングで〈今言わなきゃ!〉とお願いした感じですね」

――なるほど。平塚さんが歌うことを前提に書いた歌詞もあるんですか?

「最後のサビに〈サンデーモーニング〉という歌詞が入ってるんですが、それは平塚さんが日曜の朝に放送されるアニメの主人公をやっていたからですね。(歌手が)他の人だったらこの歌詞にはなってなかったし、自分がそのアニメを毎週見ていたので、すっと出てきました」

――この曲はサウンドも凄いですね。

「意味わかんないですよね」

――(笑)。デジタルハードコア的な激しいトラックに高速のボーカルが乗って、最後にとてもメロディアスになるという……。なぜこうした曲が生まれたんですか?

「やりたかったからやったに過ぎないかもしれません。〈うるさいテクノがやりたい〉とかではなくて、〈このドラムの音いいな、じゃあここに変なギターを乗せたら面白いな、じゃあオタクボーカルじゃないか?〉みたいに作っていって。結果的によくわからないものになって嬉しいです。どの曲もそうなんですが、アウトラインを決めて出発してる訳ではないんですよ」

――難しい曲だと思いますが、平塚さんのレコーディングはどうでしたか?

「早口のところは結構録り直しましたね。平塚さんが歌えなくて〈あー!〉となってるのがいいなとレコーディング中に思って。その様子も曲に入れたくて、特に目的は伝えずに〈全部つるっと歌ってもらっていいですか?〉と最後にお願いしてみたら、全然失敗しなかったんです」

――レコーディングを通して上達しちゃったんですね(笑)。

「そうなんです。失敗しているテイクは2番で使ってるんですが、これを録るのが一番大変でした(笑)」

――声優さんなので声色も多様だと思うんですが、その辺りはどうリクエストしたんですか?

「平塚さんのボイスサンプルを聴いて、地声が素敵だと思って。なので、声色に関しては何もお願いしなかったですね。実際の歌声も素晴らしくて、一本録るごとに心から〈ありがとうございます〉と言っていました」