あいみょんが2016年にメジャーデビューしてから今年で10年を迎える。これを記念して、彼女の1stから3rdまでのアルバム3枚が初めてアナログ化されるほか、今では入手困難な4thアルバムと5thアルバムのアナログレコードも再プレスされることが決定した。
ここでは、2026年4月29日(水・祝)にアナログ盤がリリースされる1stアルバム『青春のエキサイトメント』について、文筆家・神野龍一に再考してもらった。 *Mikiki編集部
吉田拓郎らに憧れたあいみょんの迷いなき態度
タワーレコード限定シングル“貴方解剖純愛歌 〜死ね〜”でインディーズデビューしたあいみょんが、2017年にワーナーミュージック・ジャパン内のレーベルunBORDEからリリースした記念すべきメジャー1stアルバムが『青春のエキサイトメント』だ。
伝えたい気持ちがあり、届けるための言葉があり、それを乗せるメロディーがある。本作は弾き語りを元に作られた曲を、バンド演奏を基本に時折オーケストレーションなども用いて、日本のフォークからニューミュージック、そしてJ-POPへと至るいわば王道とも言うべきサウンドでまとめ上げた作品である。そうした伝統を更新するスタイルは、彼女が度々リスペクトを捧げてきた吉田拓郎の言葉を引くなら〈古い船には新しい水夫が乗り込んで行く〉(“イメージの詩”)ようであった。
ヒップホップやDTMの誕生以降、ビートやサウンドから曲を作ることもスタンダードとなった時代において、なぜあいみょんがそうした制作のスタイルを取っているのか。それは“憧れてきたんだ”で言及しているように、彼女が憧れてきたロックスターやシンガーソングライターがそうであったからだろう。そしてそんな憧れた表現者たちに自分は心を動かされてきたんだ、という迷いなき態度を本作からは強く感じる。
200曲ほどストックがあったものの、本作は全11曲中“生きていたんだよな”“RING DING”以外の9曲が上京後に新たに作られた曲というところから、あいみょんのソングライティングが東京に来て以降めきめきと上達したことがわかる。それまでのインディーズ時代の楽曲に比べ、言葉を畳み掛ける性急さよりもメロディーがより伸びやかになり、“マトリョーシカ”のような人懐っこいメロディーや“漂白”のように大きいスケール感のある楽曲が印象的だ。
決して背伸びをしない力の抜けた生活感がありつつ、その延長線上に突然〈セックス〉(“ふたりの世界”)や〈飛び降り自殺〉(“生きていたんだよな”)といった聴き手をハッとさせる言葉が飛び込んでくる。こうした独特の詞世界は、彼女と同じ現実を生きている同世代の若者から支持を得た。
特に“いつまでも”“風のささやき”のように、家族と離れて単身上京し、これから自分がどうなっていくのか、成功する確信もない20歳を過ぎたばかりのあいみょんの素直な心情が語られている曲も今となっては貴重である。そして身近な物を真っ赤に染め上げたとんだ林蘭によるアートワークによって、この詞世界が見事にビジュアル化されている。
彼女のややハスキーがかった歌声も、歌詞の繊細なニュアンスを表現することに長けており、高い音から低い音へ移行するメロディーラインを歌う時に宿る温かみのある声のトーンも素晴らしい。また飛躍のあるメロディーよりも“ジェニファー”の〈今もまだ覚えてる〉の最後の半音下がるフレーズのような微妙な音階のニュアンスの込め方が上手い。そして何より、言葉を伝えようとする真っ直ぐな声が胸を打つ。
“君はロックを聴かない”で歌われる〈ロック〉とは何か
楽曲のスタイルとしては、先述した彼女の憧れの存在である吉田拓郎に最も近いが、身投げした少女について描いた鮮烈なメジャーデビュー曲“生きていたんだよな”などは、そのモチーフからどうしても荒井由実“ひこうき雲”を連想せずにはいられない。同曲の冒頭で一気に畳み掛けても明確に言葉が聞き取れる発声とともに、途中に挿入される〈危ないですから離れてください〉〈ドラマでしかみたことない〉といった警察や野次馬と思われる人物たちの言葉を演じ分ける技術などは、後にスタジオジブリの映画「君たちはどう生きるか」に声優として起用された際にも活かされているような気がする。
恋人に対する堂々巡りな感情を循環コードの中で歌う2ndシングル“愛を伝えたいだとか”は、村田シゲ(□□□)のベースが冴えるスライ&ザ・ファミリー・ストーン風のファンクなアレンジが特に光る楽曲で、そのダンサブルなサウンドはリリース当時から現在において最もDJ人気の高い楽曲である。
そして何よりあいみょんのイメージを決定づけた曲といえば、42局ものラジオ局でパワープレイを獲得した3rdシングル“君はロックを聴かない”だろう。ロックを聴かない女子に自分の好きな古いロックのドーナツ盤を聴かせる男子の気持ちを歌ったこの曲は、ロック少年にとってのささやかかつストレートなラブソングであると同時に、必ずしもロックが主流ではなくなってしまった現代に〈それでもロックをやっていく〉という、あいみょん自身の決意表明の歌のようにも聴こえる。
さて、この〈ドーナツ盤〉とは一体何のレコードだったのだろうか。これは筆者の勝手な解釈だが〈手を叩く合図/雑なサプライズ〉というささやかな押韻の部分から、スピッツ“ロビンソン”の〈思い出のレコードと/大げさなエピソードを〉を連想した。
また、ここで歌われる〈ロック〉とは何か。かつて〈ロック〉は〈革新〉と同じ意味で使われてきた。その結果、新たな世代が現れるたびに過去のロックは終わったり、死んだり、ゴミにされたりもした。それに対してあいみょんが歌う〈ロック〉は、そういった革新性の中にあるものではなく、〈過去〉そのものを意味しているのではないだろうか。
時代を選ばない〈普遍性〉
本作の何が優れているかといえば、あいみょんの作る楽曲、極論すれば歌詞とメロディーさえあれば成立してしまう歌、それ自体の圧倒的な強度としか言いようがない。あいみょんがもう10年早く生まれていても、このアルバムはそのままの内容で2007年に出ていたかもしれないし、彼女があと10年遅く生まれていても、やはり同じ内容で2027年にリリースされていたかもしれない。そんな時代を選ばない革新性のなさは、そのまま〈普遍性〉と言い換えてもいい。その普遍性とは、オアシスが90年代のUKロックシーンにおいて決して音楽的に大きな革新を成していないにもかかわらず、今現在においても多くの人から支持されていることとも、どこか通ずるものがあるような気がする。
SNSが普及して以降、一聴してわかるサウンドの耳触りのよさや、ひねりを加えたり茶化したりしたような、いわば冷笑ベースになった表現がバズりやすくなった時代で、あいみょんの歌を中心としたアプローチや衒いのない真っ直ぐなメッセージに少し戸惑ったことを覚えている。あいみょんの歌う〈ロック〉は決して革新的ではなく、リスナーに自分のメッセージをストレートに、笑顔ではなく真顔でぶつける〈真摯さ〉とでも言うべき態度なのだ。
家族と離れる。偉大な芸術作品に感動する。ドーナツ盤やタバコに触れる。恋をする。一つ一つの距離が変わるごとに変化する心の動きに敏感であること。その瞬間を捉えることができるなら、人はいつまでも青春を生きることができる。雷に打たれたような衝撃から、ドアノブに触れたときの静電気のような小さな痛みの些細な瞬間までが記録されている。痛みをそのまま歌にするのではなく、痛む自分自身の心を描く。『青春のエキサイトメント』には、そうした表現の核をあいみょんが掴み取った記録が残されている。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年4月29日(水・祝)
品番:WPJL-10295-6
価格:5,940円(税込)
TRACKLIST
SIDE A
1. 憧れてきたんだ
2. 生きていたんだよな
3. 君はロックを聴かない
SIDE B
1. マトリョーシカ
2. ふたりの世界
3. いつまでも
SIDE C
1. 愛を伝えたいだとか
2. 風のささやき
3. RING DING
SIDE D
1. ジェニファー
2. 漂白
リリース日:2026年5月20日(水)
品番:WPJL-10297-8
価格:5,940円(税込)
TRACKLIST
SIDE A
1. 満月の夜なら
2. マリーゴールド
3. ら、のはなし
SIDE B
1. 二人だけの国
2. プレゼント
3. ひかりもの
SIDE C
1. 恋をしたから
2. 夢追いベンガル
3. 今夜このまま
SIDE D
1. あした世界が終わるとしても
2. GOOD NIGHT BABY
3. from 四階の角部屋
リリース日:2026年6月24日(水)
品番:WPJL-10299-300
価格:5,940円(税込)
TRACKLIST
SIDE A
1. 黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を
2. ハルノヒ
3. シガレット
SIDE B
1. さよならの今日に
2. 朝陽
SIDE C
1. 裸の心
2. マシマロ
3. 空の青さを知る人よ
SIDE D
1. 真夏の夜の匂いがする
2. ポプリの葉
3. チカ
4. そんな風に生きている
■アナログ盤 ※再プレス
リリース日:2026年7月22日(水)
品番:WPJL-10327-8
価格:5,940円(税込)
リマスタリング/リカッティング、45RPM仕様
TRACKLIST
SIDE A
1. 双葉
2. スーパーガール
3. 姿
SIDE B
1. 初恋が泣いている
2. 君のこゝろ
3. 3636
4. 強くなっちゃったんだ、ブルー
SIDE C
1. 桜が降る夜は
2. ペルソナの記憶
3. 神秘の領域へ
SIDE D
1. ハート
2. インタビュー
3. 愛を知るまでは
■アナログ盤 ※再プレス
リリース日:2026年8月26日(水)
品番:WPJL-10329-330
価格:5,940円(税込)
リマスタリング/リカッティング、45RPM仕様
TRACKLIST
SIDE A
1. 双葉
2. スーパーガール
3. 姿
SIDE B
1. 初恋が泣いている
2. 君のこゝろ
3. 3636
4. 強くなっちゃったんだ、ブルー
SIDE C
1. 桜が降る夜は
2. ペルソナの記憶
3. 神秘の領域へ
SIDE D
1. ハート
2. インタビュー
3. 愛を知るまでは
AIMYON Vinyl Collection 特設サイト:https://www.aimyong.net/feature/aimyon_vinyl_collection




