新作は内省的でパーソナルなうたもの

 君島大空は複数の編成でライヴを行っているが、石若駿(ドラムス)、西田修大(ギター)、新井和輝(ベース)との〈合奏形態〉でのライヴには幾度となく打ちのめされてきた。大言でも誇張でもなく、コーチェラやボナルーといった海外の大型フェスでヘッドライナーを務められるレヴェル。特に爆音を奏でるツイン・ギターはあまりの巧さに笑いがとまらないほどであった。

君島大空 『花落知多少』 APOLLO SOUNDS(2026)

 その時のイメージが強く焼き付いていたからか、新作『花落知多少』(はなおつることしるたしょう)を聴いた時は最初驚いた。いや、戸惑ったというべきか。というのもこのアルバム、ガット・ギター、ベース、バリトン・ギター、メロトロン、キーボードなどをひとりで操り、中性的なハイトーン・ヴォイスに焦点を絞った、素朴なうたものなのである。これまでの作品にも内省的な資質であることを窺わせる瞬間はあったが、本作は、自己の内奥を覗き込むようなパーソナルな表現で貫かれている。

 声や曲調こそ異なれど、連想したのはニック・ドレイクやジェフ・バックリィ、エリオット・スミスなど。孤独を抱えながらも絞り出すように声を発するような君島は、まるで何かに向けて祈っているような敬虔さすら感じさせる。音数を絞って最低限の楽器を使用した結果、呼吸や吐息までもが生々しく、赤裸々に伝わってくるのだ。

 かつて七尾旅人はフィッシュマンズの佐藤伸治のヴォーカルを絶賛し、「佐藤さんの歌は呼吸そのもの。呼吸をナメてるやつの歌なんか聴く気がしない」といった旨の発言をしているが、その讃辞は君島にも当てはまる。合奏形態とは違って、君島の美麗な歌声とじっくり向き合えるのが本作の醍醐味だろう。ギター1本の弾き語りでも小宇宙を現出させてしまえる才気走った君島。彼の繊細で今にも壊れそうなフラジャイルな歌声に思わず吸い寄せられる。ひとりでつくったとは思えない空間的な広がりも魅力のひとつだろう。紛うかたなき傑作の誕生である。

 


LIVE INFORMATION
「君島大空」夜会ツアー 2026
「SUPER BLUE TRANQUILIZER」

2026年8月20日(木)~9月16日(水)
全国9会場10公演
https://superbluetranquilizer.jp/