ムーンライダーズの〈文芸部〉が指南する作詞術

 バンド結成50周年を迎えようとしているロック・バンド、ムーンライダーズ。彼らの魅力のひとつは歌詞にある。歌詞を書くことが多いメンバーの3人、鈴木慶一、鈴木博文、かしぶち哲郎はバンドの〈文芸部〉とも呼ばれたが、なかでも文学的な歌詞で高い評価を得てきたのが鈴木博文だ。近年は作詞講座の講師を務めるなど、改めて作詞という作業に向き合っていた鈴木が、その作詞術を紹介したのが「はじめての作詞 ことばの種から歌を育てる」だ。

鈴木博文 『はじめての作詞 ことばの種から歌を育てる』 フィルムアート社(2024)

 タイトル通り、本書は初心者に向けて作詞についてイチから教えてくれる。歌詞とはどういうもので、どんなふうに題材を見つけて、何に注意して書けばいいのか。毎回、自分の歌詞を例えにして具体的に説明してくれるのでわかりやすくて実用的。作詞をしたい、あるいは詩を書いてみたいと思っていた人にとっては発見が多いはずだ。でも、この本の魅力はそれだけではない。

 朝起きた時、自分がどんな感情なのか。色に例えると自分は何色なのか。鈴木は詞を書くきっかけとしてそういったヒントを与えてくれるが、それは自分を見つめ直すということでもある。そのうえで詞を書くというのは、ことばを通じて自分を表現するということ。借りもののことばは詞にならない、というくだりを読んで、以前、町田康に取材した際に「世の中で使ってることばを使っていると自分ではなくなってしまう」と話してくれたことを思い出した。ことばが自分を作るのだ。音楽をやっていなくても、自分を発見する手段として詞を書いてみるのも面白いかもしれない。

 もちろん、バンドのファンにとっては、鈴木の素顔や名曲の舞台裏を知る貴重な一冊だ。鈴木が音楽に出会い、詩に目覚め、作詞で試行錯誤をして来た、これまでのルーツも紹介されている。ひとりのファンとして本書に接した時、鈴木がこれほど厳しい批評性で、そして、これほどの情熱を持って言葉に向き合ってきたことを知って、改めて曲の味わいが増した。