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今の感情を素直に出した、〈生活しているだけ〉のアルバム

――今回のアルバム制作期間は和久井さんにとってどんなものでした?

「1日中家にいて、1日中パソコンと音と向き合っていた期間だったと思います。その時期たまたまサポートの仕事がなかったので、映画を観るか、本を読むか、曲を作るかご飯を食べるか寝るか、みたいな生活をしていて。若干孤独になったというか、しんどかった時期もありましたね。ずっと楽しいわけではなかったです。

そもそも歌うのは得意じゃないから仮歌を歌うのもしんどかったし、歌詞を書くのもしんどかったし。内容が内容だから歌詞を書きながら沈んじゃうこともあって。全部が全部、楽にできたアルバムではなかったかもしれないです。でも、できあがったときには凄く嬉しかった」

――そもそもコンセプトはなかったということですけど、完成した段階でアルバムを見渡したときにどんなものがここには捉えられていると感じられました?

「タイトルが『Nothing But Living』なんですけど、言ってしまえば、〈ただの生活〉。それがどれほど愛おしいことかっていう。本当にそんな感じで、このアルバムに入っているのは全部、日常的で、自然体で、生活の一部の曲だなと思いました。なにか特別なことをやろうともしていないし、大きくなろうともしていない。野望みたいなものではなく、今の感情をただただ素直に出した、本当に〈生活しているだけ〉という感じのアルバムになったなって」

――ジャケットにも生活感はありますよね。

「このジャケットを作ってくれたデザイナーの近藤(萠)さんは高校の同級生で、嬉しい再会だったんです。近藤さんにまずお伝えしたのが〈私は言葉にできないものを大事にしているよ〉ということや、〈見えないもののことを意識にしているよ〉ということで。そこから汲み取ってくれたのと、近藤さんも〈曲の中から生活の香りがした〉と言ってくれて。だから、このアルバムは13曲収録なんですけど、ジャケットには洗濯物が14枚あって、1曲1曲の色を、私が指定したわけではなく、近藤さんなりに色付けして作ってくれたんです。最後の1枚は聴き手に委ねる、という意味が込められています。完成したジャケットを見たときに、文句のつけようがないくらい、このアルバムのジャケットとしてしっくりきました」

 

自分の人生において大事な1枚になった

――これまでの和久井さんのアルバムを振り返ったときに個人的に感じるのは、前作『The Little Cycle』までの流れは、どんどんできることが増えて、和久井さんのエネルギーが肥大していく感じがするというか。

「はい、はい(笑)」

――でもさっき言っていたように、今作は決して〈大きくなろう〉としているアルバムではなくて。もちろん今作もこれまでのアルバムと地続きにあるものだとは思うんですけど、作り上げた後のご自身の体感はいつもと違うのかもな、と思ったんです。

「そうですね……ひとつ言えるのは、今回は完成した後、何回も自分で聴き返していますね。それは自分でも不思議です。今までのアルバムは音数がめっちゃ多くて、自分で聴いていても疲れちゃうので……(笑)」

――(笑)。

「今までのアルバムは、作り終わった後はリスナーの人たちが楽しんでくれればいいのであって、自分では箪笥の奥に仕舞っちゃう感じだったんです。でも、今回のアルバムは自分の生活や自分の感情とあまりにも結びついているし、作った当時は何気なく書いた歌詞が、その数か月後にデジャブみたいに同じような体験をする、みたいなことが多くて。それも言葉のある音楽ならではのことですよね」

――確かに。ご自分で聴き返せるかどうかというのは、大きな違いのような気がしますね。

「私は自分の気持ちや音楽でやりたいことが割とコロコロ変わるタイプなんですけど、このアルバムに関しては今のところまだ共感できています(笑)。自分の人生において大事な1枚になったのかなって思います」

――このアルバム自体、1作の中で音楽性も感情もコロコロと変わっていきますよね。裏を返すとこれまでのアルバムは、ひとつの絶対的なものに向かっていこうとしていた部分もありますか?

「今回に比べるとあったと思います。〈カッコよくしよう〉とか、〈普通じゃないものを作ろう〉とか、〈尖らせよう〉とか、そういうエネルギーがあった気がする。自分にしか作れないものを頑張って作ろうとしていたし、そのときの自分にはないものを目指して作っていたし。だから、コードも拍子も音色もプレイもめちゃくちゃなものになっていたんだろうなと思う(笑)。それはそれで楽しかったし、そうやって作った曲はライブで再現するのもエネルギーがいることで、そこに向き合うのも楽しいことなんですけどね。

でも今回は、自分の個性を出そうとは思っていなかったです。だから力んで作った曲はほとんどないです。自然に生まれた曲ばかり。そもそも自分が作っているんだから、ブランドや個性って、わざわざ目指して作るものではないんだなと思います」